(3-19) 寝床
馬車が去ってからしばらく経ちますけど、そろそろ出ていっても大丈夫でしょうか?
あ、聖竜王様が出ていかれます。もう、大丈夫なようですね。では私も行ってみます。
うーん。近くから見ても、やっぱり普通の布団ですよね。めくってみても、何かの仕掛けがしてあるわけでもなさそうですし。数えてみると……、全部で30枚もあります。何なのでしょう、これ?
意味はわかりませんけど、この布団が聖竜王様への供物であることは間違いありません。
このまま外に積み上げておいても仕方ないですよね。雨はしばらく大丈夫そうですが、夜になると夜露に濡れてしまうかもしれません。せっかくの布団が濡れてしまうともったいないので、その前に洞窟に運び込んでしまいましょう。
さて、洞窟に運び込んでみたものの、この布団、どうすればいいのでしょう?
せっかくですから、何か有効に使いたいですよね。布団の使い方といえば、普通は寝る場所に敷くわけですが……。これ、聖竜王様の寝床に敷いても大丈夫でしょうか?
とりあえず、試しに数枚敷いて様子を見てみます。
聖竜王様も近くに来て作業を見ておられたのですが、特に止められることはありませんでした。嫌がっておられるようにも見えませんし。これなら大丈夫……でしょうか?
思い切って、全部敷いてみました。寝床全体に敷き詰めてもまだ余ったので、一部は二重になっています。
その上では、早くも聖竜王様が満足そうに寝そべっておられます。布団の上でゴロゴロしておられる様子は、大きな猫みたいでちょっとかわいいかも……なんて思ってみたり。
それにしても、急に寝床の様子が変わってしまうと警戒したり嫌がったりされるのではと心配だったのですが……。何の問題もなく、布団を完璧に使いこなしておられますね。
聖竜王様に喜んでいただけたようなので、結果的に布団の奉納は大成功なのですが……。これは、教会が考えていた予定とは少し違うみたいです。
実は、敷いているときに、布団の間に1枚の紙が挟まっているのを見つけたのです。乱暴に斜めに折れていたので、たぶんわざと挟んだわけではなく、布団をたたんでいる時に近くにあった紙が偶然はさまってしまっただけだと思うのですが……。
開いてみると、新聞の号外のようでした。読んでみて、ようやくこの布団の意味が理解できました。思わず吹き出しそうになりましたけど。
『本日午後、中央広場に聖竜王が飛来し、居合わせた市民が避難する騒ぎがあった。
聖竜王は約15分間広場を歩き回った後、市場の古着屋から大量の服をくわえて飛び去った。
避難の混乱で軽傷者が4人出たが、市民や建物に大きな被害は確認されていない。
これについて関係者は、聖竜王が卵を生む時に巣に敷く柔らかいものを探している可能性を指摘する。
満足できる量が手に入るまで今後も繰り返し飛来するおそれがあることから、教会では布団30枚を奉納することを決め、現在準備を進めている』
聖竜王様の寝床は広さに余裕があるので、聖竜王様が真ん中で寝られても、まだ周囲に少し布団が余っています。ちょっと失礼して、私も端の布団に寝てみました。
布団で寝るのは久しぶりです。あー、やっぱり気持ちいいですね。贅沢を言うなら、上に掛ける毛布があればさらに理想的ですけど。
……と思ったら、上から体をそっと包み込まれる感覚が。そうでした。私には、毛布よりもずっと素敵な、聖竜王様の翼があるのでした。
ふかふかで、しかも程よく温かくて。寝心地はもう、文句のつけようがありません。
あ、眠くなってきたかも……。もう、今夜はこのまま寝てしまうことにします。
それでは、おやすみなさい。




