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(3-17) 警戒

 洞窟に、午後ののんびりした時間が流れています。聖竜王様も、まったりとお寛ぎモード。

 私も、朝から歩き回って少し疲れたので、しばらくは休憩することにしましょう。床に座ったままでんーっと伸びをして、そのまま後ろにばたんと倒れ――


 その直後、洞窟全体の空気を震わせる、聖竜王様の唸り声。いかにも不機嫌そうな低い唸り声に、私は慌てて飛び起きました。

 もしかして、今のは聖竜王様に対してものすごく失礼なことだったのでしょうか?

 どっ、どうしよう。なんとかして謝らないと……と、おそるおそる見上げてみると……。


 あ、違う……みたい……ですね。

 いつになく鋭い聖竜王様の瞳。しかしそれは、私に向けられたものではありませんでした。

 良かったぁ……! いやあ、どうなることかと……。


 ……………………。


 いや、あまり良くはないですよね。

 原因が私ではなかったというだけで、聖竜王様にとってあまり面白くない出来事がたった今起きていることに、何も変わりはありません。


 聖竜王様が睨んでおられるのは……、洞窟の入り口ですね。洞窟の外に、何かが来ているのでしょうか? 聖竜王様にとって、あまり歓迎できないお客さんのようですけど。

 森の動物たちが聖竜王様に逆らうとは思えません。もし逆らう動物がいたとしても、聖竜王様にとっては、本気で相手をしなければならないほどの敵ではないでしょう。

 聖竜王様が、こんなに本気で警戒されなければならないような相手とは……?


 あ、聖竜王様が入り口へ向かわれるようです。いよいよ、戦いが始まるのでしょうか。

 こんなとき、私はどうすればいいのでしょう?

 いえ、考えるまでもないですね。聖竜王様の戦いに私が出て行ったところで、何もできることはありません。邪魔にならないように、洞窟の奥にでも避難して、終わるまでおとなしく待ってるしかありませんよね。


 でも……、相手はいったい何者なのでしょうか?

 ちょっ、ちょっと見るだけなら……。


 入り口から外の様子を伺っておられる聖竜王様の側に、そっと近づいてみます。

 もし聖竜王様に入り口に近付くことをお許しいただけないようなら、その時は素直に諦めるつもりだったのですが……。聖竜王様には、私を止めるおつもりはないようです。私が足元まで来ていることに、気付いておられないはずはないと思うのですが。


 岩に隠れながら、外を覗いてみると……。広場に、見覚えのある人たちが。そうでした。聖竜王様がこんなに警戒されるものなんて、ひとつしかありませんよね。

 聖竜王様が人間に警戒心を持っておられるというのは、子供でも知っている話です。だからこそ、聖竜王様に安心して暮らしていただけるように、洞窟の周囲は立入禁止なのですよね。しばらくここで暮らしているうちに、つい忘れていましたけど。

 それにしても、なぜ人間をそれほど警戒されるのでしょう? 普通の動物たちと違って、何をしてくるか予想がつかない厄介な相手、ということなのでしょうか?


 でも、そういうことなら、私を止めようとされなかったのも納得です。私は同じ人間なので、もし見つかっても危険はないだろうというご判断なのでしょう。


 でも、実際のところ、どうなんでしょう?

 もし今、私が出て行ったら……。私がまだ生きていることが教会に知られたら、私はどうなるのでしょう?

 供物としての役目を果たせなかったことを叱られるのでしょうか? どうなるにしても、このまま洞窟で暮らすわけにはいかなくなるでしょうね。この洞窟は、本来は人間がいてはいけない場所なのですから。

 どうしたら聖竜王様に喜んでいただけるかをいろいろ考えるのって、やってみるとけっこう楽しいのです。今さら、孤児院に戻って仕事探しを再開したいとも思いませんし。

 やっぱり、出て行かないで、このまま隠れていることにします。


 それにしても、教会の人たちは今度は何をしに来たのでしょう?

 改めて眺めてみると……。洞窟の前では、見覚えのある儀式が行われていました。これ、奉納の儀式ですよね。ということは、また新しい少女が……!?

 と思ったのですが、どうやら違うようです。祭壇の上には、少女の姿はありません。その代わり、何やら白いものがたくさん積み上げられています。

 あれは……、布団?

 なぜ、布団?

 でも、儀式での配置から考えて、あの布団が今回の供物で間違いないはずです。どういう意味なのでしょう?

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