【1-05】 木の実
しばらく森を歩いているうちに、ふと生物として当然の感覚が。
お腹すいた。
やっぱり、ドラゴンも食事が必要なのか。
と言うわけで、何か食べたいと思うんだけど……。ドラゴンというのは、何を食べればいいんだろう?
肉……だろうな、やっぱり。
肉屋に行くわけにもいかないし、肉を手に入れるは狩りをするしかないわけだけど。しかし、そうなると問題なのは、まともに走ることもできないようなドラゴンに捕まってくれる親切な獲物がいるかどうかだな。
考えながら歩いているうちに、視界の上の方に、何やら赤いものが見えたような……。
見上げると、頭上の木の枝に赤くて丸い実がたくさん。リンゴかな? リンゴの木ってこんなに大きかったっけ? ここは異世界なんだから、あっちの世界には存在しない種類の植物かもしれないけど。
赤いということは熟れてて食べ頃かもしれないけど、ドラゴンが木の実なんか食べても大丈夫なんだろうか。ま、いいか。とりあえず、あれを食べてみよう。
人間なら長い梯子を用意するか木に登るかしないと届かない高さだけど、ドラゴンは体が大きくて首も長いので、ひょいと首を上に曲げるだけで簡単に届いた。
実をくわえて枝から引きちぎり、さっそく食べてみる。
シャクシャクシャク
あ、見た目はリンゴっぽいのに、味や食感は、むしろ梨に近いような。やっぱり地球にはない種類の植物みたいだな。
……もうひとつ食べてみるか。
シャクシャクシャク
甘くて、なかなか美味しいな。よし、もうひとつ食べよう。
シャクシャクシャク
うーん、芳醇な甘さが口いっぱいに広がって……、なかなか美味。
よし、もうひとつ。
シャクシャクシャク
なかなか癖になる味。勢いに乗ってもうひとつ。
シャクシャクシャク
ふう、さすがにお腹いっぱい。
……お腹いっぱい?
いや、それはおかしいだろ。ちょっと大きめのリンゴくらいの大きさはあるけど、果物としてそんなに巨大というほどの大きさではない。こんなもの、お腹がすいている時なら人間だって3個や4個、簡単に食べられる程度の大きさだと思う。
それなのに、人間の何倍も大きなドラゴンが、何で5個でお腹いっぱいになるんだ?
ああ、そうか。この体でものを食べたのは初めてだから、まだ脳と胃がうまく連携できてないのかもしれない。胃から伝わってきた何か別の感覚を、脳が満腹感と勘違いして、っ……、けっぷ。
やっぱり、本当にお腹いっぱいなのか?
ドラゴンって、思ったより小食なのかな。これは、小食なんていう言葉で済ませられるレベルではないような気もするけど。何かの病気じゃないだろうな。
いや、ドラゴンのことだから、もしかしたら活動エネルギーのほとんどを大地を流れる気のエネルギーとか何かそんな感じのものを吸収することで賄ってるから、直接口から食べる量は僅かでいいとか、そんなもっともらしい理屈があるのかもしれないけど。もしそうだとしても、そんなこと確かめようがないし。
もう少し、様子をみてみるしかないか。当面、狩りの必要はなくなったので助かったけど。