【3-16】 儀式
少女は、今日も朝から忙しそうだった。
洞窟前の大岩の上に寝そべって眺めていると、何度も洞窟と川を往復して砂を運び込んでいる。どうやら、また少し乱れてきたぼくの寝床を整えなおすつもりらしい。
昼もだいぶ過ぎたころになって、ようやく作業は終わった。二人……いや、一頭と一人で少し遅めの昼食。
午後、少女はさすがに疲れたのか、床に大の字になってひっくり返っている。そんな少女をほほえましく眺めながら、ぼくも寝心地の良くなった寝床にのんびり寝そべって……。
そんないつも通りの一日が、今日もゆっくりと過ぎていく……はずだった。ぼくの耳が、馬車隊が近付いて来る音をとらえるまでは。
目的地は……ここだよなあ、やっぱり。
今度は何しに来たんだろう? 今度こそ攻撃だろうか?
先日、町を襲ったからな。あれが原因で正式に害獣に指定されて、本格的に駆除隊が結成されたとしても不思議はない……かもしれない。もしそうだとしたら、今回はちょっと言い訳しにくいなあ。
洞窟の入り口から外を伺っていると……。間もなく、広場に馬車隊が到着。
あの馬車、見覚えがあるぞ。たぶん、この前少女を連れて来たのと同じ馬車だ。
もしそうだとしたら、攻撃ではないかもしれないけど。でも逆に、何をしに来たのか全然想像がつかない。
ようやく、少女がどうなったのかを確かめに来たのだろうか? それとも、また別の少女を連れて来たのだろうか? そんなに次々と少女を連れて来られたら、こっちも本気で困るんだけど。
馬車から、おじさんたちが降りてくる。
顔までは覚えてないけど、あの服には何となく見覚えがある。たぶん、この前と同じ人たちだろう。
広場になんだかよくわからないものがいくつも配置され、儀式が始まった。あの儀式も、たぶんこの前のと同じだと思う。
ただ、どこにも少女の姿はない。どうやら今回は、少女の差し入れではないらしい。
それよりも気になるのは、儀式の中心付近に置かれている謎の物体。何やら白くて薄いものが何枚も、折りたたまれて積み上げられている。
少し距離があるのではっきりとはわからないけど、さっきおじさんたちが運んでいるのを見ていた限りでは、布……というか布団……のようなものに見えた。
前回の儀式のときは、確かあの位置に少女が立っていたはず。ということは、この儀式であの位置に置かれる品がぼくへの捧げもの……ということなのか?。
だとすると……。
なぜ、布団?
信仰対象に生贄を捧げるのは、それほど変わった風習とは言えないよな。地球にだって、たくさん例があるし。
そして、この世界ではドラゴンがその信仰対象になっていたとしても、考えてみれば別に不思議な話ではない。ぼくが喜んで受け取れるかどうかはともかく、そんなこともあるかもしれないと理屈としては普通に納得できる。
だけど、ドラゴンに布団を捧げる風習というのは、ちょっと聞いたことないんだけど。




