【3-12】 火
洞窟入り口前の大岩の上に寝そべったまま眺めていると、さっきから少女が森へ出たり入ったりを繰り返している。何か、また新しいことを始めたのか?
しばらく観察していると、どうやら森で枯れ枝や落ち葉を集めているみたいだな。
やがて、洞窟入り口近くの地面に、落ち葉と枯れ枝の小山ができた。
どうやらこれで、満足できる量が揃ったらしい。少女は落ち葉の山の前にしゃがみこむと、何やらごそごそ作業を始めた。
あれは、何をしているのだろう?
しばらく眺めているうちに、ふと気が付くと、何か微かに焦げ臭いような? ああ、そうか。やっと理解できた。木を擦り合わせて火を起こそうとしてるんだな。
ただ、正式な火のつけ方を知っているようには見えない。聞きかじった知識を元に、試行錯誤を繰り返しているような感じ。のこぎりもナイフもないから、木を擦り合わせやすい形に整えることもできないだろうし。
あの調子だと、火がつくまでに3日くらいかかりそうだなあ。
だが、少女よ。何も心配する必要はないぞ。ぼくは、これでも一応、その方面の専門家だからな。
岩を降りて、少女の方へ歩いていく。
こんな火の使い方は初めてなので、正直なところ、ぼく自身もどうなるか完全には予測かつかない。念のために、少女を鼻先で押して立ち上がらせ、たぶん安全だろうと思う距離まで下がらせる。
では、やってみるか。
枯れ枝の山に口を近付けて、軽く吐く息に声にならない声を乗せると……。瞬間、燃え広がるといった過程を一切省略して、集められていた枝の山全体が炎に包まれた。
ぼくがコントロールできる最小出力の炎のつもりだったんだけど、こういう使い方には、まだ火力が少し強過ぎるかなあ。
近くにいたら、火傷したかもしれない。やっぱり、少女を下がらせたのは正解だったな。
少女は、ポカンと口をあけたまま、しばらく盛大に燃える焚き火を眺めていたが、やがてぼくに向かって何かを言った。内容はわからないけど、お礼……だと思う、たぶん。怒ってる感じではないし。
後で見に行くと、火はしっかりと消してあった。うん、山火事になったら危ないからな。感心感心。
あれ? でもこれって、火が必要になった時は、またぼくをマッチ代わりに使えばいいやという意味でもあるのでは?
いや、別にいいけど。




