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(3-11) 服

 あ、聖竜王様がお出かけのようですね。

 聖竜王様は、だいたいは洞窟で一日中ゴロゴロ……いえ、のんびりしておられることが多いのですが、時々こうしてフラッとどこかへお出かけになります。

 縄張りの見回りとか、そんな感じでしょうか? ただのお散歩かもしれませんけど。


 ところで、最近気が付いたのですが。

 聖竜王様は、お出かけのときに毎回必ず、私に向かって同じような鳴き方をされるのです。あれ、もしかしたら「ちょっと出かけてくる」みたいな意味なのかな……なんて。

 もしそうだとしたら、私は聖竜王様から正式に、留守を任せられる同居人と認められていることになるのでは? だとしたら、とても名誉なことですよね。

 いえ、なんとなくそう思っただけで、何の根拠もありませんけど。


 さて、ちょうどいいので、聖竜王様がお留守の間に寝床を整え直しておきましょう。せっかくなので、少し砂を追加しましょうか。

 というわけで、川に砂を取りに行こうと洞窟を出たとたん、風に乗ってかすかに教会の鐘の音が聞こえてきました。

 この鳴らし方は、時報ではありません。町の住人に危険を知らせる鐘です。町で、何かあったみたいです。

 火事でもあったのかと眺めてみたのですが……、どこからも煙が上がっているとかはありませんね。このところ、洪水になるほどの大雨も降っていませんし。何か、大きな事故か事件でもあったのでしょうか?

 何にしても、あの鐘は町の住人に危険を知らせるためのものです。既に町の住人ではない私には、もう関係ないですよね。

 さ、仕事仕事。


 乱れている砂をならしていると……。あ、聖竜王様がお帰りのようです。

 洞窟の入り口まで出迎えたのですが……。聖竜王様が、今日は口に何かをたくさんくわえておられるようです。と思ったら、聖竜王様はそれを私の前にドサドサッと。


 何でしょう、これ? 何か、いろいろな色の布のような?

 一番上にあったものをひとつ、手に取って広げてみると……。これ、服ですよね。他のも見てみると……。これもです。もしかしてこの山、全部服なのでは?


 どれも新品ではなさそうですが、よく見ると値札がついているものもあります。たぶん、どこかの古着屋さんから持って来たものでしょう。でも、どうやって?

 聖竜王様が普通に買い物をされるとは思えませんから、おそらくは少し強引な方法で……ですよね、やっぱり。

 ということは……、もしかして……、さっきの鐘は……。えっと。私、関係ないどころか、むしろ当事者のひとりだったみたいです。


 それはともかく、この服は何でしょう? わざわざ私の前に置かれたということは、私への贈り物ということなのでしょうか?

 聖竜王様から贈り物をいただけるなんて、とても名誉なことです。ですが……、ここまでの経緯を想像すると……。受け取ってしまっていいものなのでしょうか?


 ………………でも、ずっと着替える服が欲しいと思っていたんですよね。


 そっ、そうです。

 もし受け取らないと、それでは聖竜王様のご意志に逆らうことになってしまいます。それはそれで大問題です。

 私は、人間社会とは完全に縁を切って、聖竜王様に全てを捧げた身なのです。人間社会の理屈よりも聖竜王様のご意志を優先するのは、当然の判断ですよね。

 遠慮なくいただいておくことにしましょう。


 早速、整理してみました。

 たくさんありますね。これだけあれば、当面は着る服には困りません。ちゃんと毎日着替えて洗濯もできそうです。

 ……普段の私なら絶対に着ないようなデザインの服もいくつか混じっていますけど。まあ、ここなら誰にも見られる心配はありませんし、思い切って新しいファッションに挑戦してみるのもいいかもしれません。

 サイズ的に、どうしても着られない服もいくつか出てしまいました。これは、聖竜王様のお体拭き用に回すことにしましょう。

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