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【3-10】 町へ

 少女は今日も、朝から忙しそうに歩き回っている。そして最近、そんな彼女を見ていて気になることがひとつ。


 少女が着ているのは、ここに来た時に着ていた白いドレス。装飾部分は取り除いてあるとは言っても、さすがに洞窟で暮らしたり森を歩き回ったりするのに適した服とは言い難い。そろそろ、あちこち破れたりして傷んできてるし。

 彼女がこれからも当分ここで暮らすつもりなら、やっぱり新しい服が必要だよなあ。


 服って、どうすれば手に入るんだろう?

 まあ、近くに大きな町があるからな。あの規模の町なら、きっと衣料品店くらいはいくらでもあるに違いない。ぼくなら、飛んで行けば5分だし。

 静かで、それでいて気軽に買い物に行ける距離に大きな町があって。良い家が見つかってよかったなあ。


 ……でも、買い物と言っても、ぼくはお金なんて持ってないぞ。彼女だって、持ってるようには見えないし。

 では、どうする? ぼくの力なら、店を襲って服を奪うくらいは簡単にできそうな気もするけど……。


 ぼくなら、それで別にかまわないのかもしれないな。

 人間が、お金を払わずに店の商品を持ち去ったら泥棒だ。でも、もし持ち去ったのがドラゴンだったら? それは自然災害……とは言わないかな? まあ何にしても、泥棒とはちょっと違う何かで済まされそうな気がする。


 よし、思い切って行ってみるか! 少女よ、ちょっと出掛けてくるからな。


 洞窟を飛び立って数分。町が目の前に迫ってきたところで、突然、町から音響兵器による迎撃が! いや、違った。ただの鐘の音か。ドラゴンは耳が良いから、突然の大きな音は人間以上にびっくりするな。

 町には、中に鐘が設置された高い塔がいくつか建っている。それらの鐘が、一斉に鳴り始めたらしい。

 ちょうど時報の時刻なのかとも思ったんだけど、なんかちょっと違うような。今まで聞いたことのない激しい鳴らし方だし。しかも、なかなか終わらないし。

 ぼくが町の上空に入ったあたりで、やっと鐘の音が止まった。何だったんだろ?


 ずっと遠くから眺めてはいたけど、町にこんなに近付いたのは初めてだ。まずは上空から町全体を観察してみる。

 町の中央には、噴水のある大きな広場。

 普段は市民の憩いの場として大勢の人々で賑わっている……だろうと思うんだけど、今は人々が逃げ惑い、あちこちで怒号が飛び交い、子供の泣き声が聞こえてきたりして、混乱を極めている。

 たぶん……いや、まず間違いなく、すべてぼくのせい。

 別に急いでいるわけでもないしな。避難が終わるまで待つか。


 広場の上空を数回ゆっくりと旋回しているうちに、広場は完全に無人になった。だれもいない噴水の横に着地。

 なかなか凝ったデザインの噴水だな。大きくて立派な噴水なんだけど、ドラゴンにとっては、ちょうどいい感じの高さから水が吹き出していて冷水器みたいだ。そういえば、ちょっと喉が渇いたな。少し飲んでいこう。


 見回すと、広場を取り囲む建物の陰に、ぼくの様子を伺う無数の気配を感じる。でも、見ているだけで攻撃してくる様子はない。とりあえず害はなさそうなので、気にしないことにしよう。


 旋回しながら見ていた時に気づいたんだけど、広場の一角に簡単な屋根やテントがあるだけの露店が集まっている、青空市場のような場所があるらしい。

 まずは、あそこを覗いてみるか。


 さて、市場に来てみたけど、当然ここも無人。客はもちろん、店の人もみんな逃げてしまったようで、本当に誰もいない。

 普段の賑やかな時に店を回ってみたいとも思うけど、ドラゴンにはちょっと無理だろうなあ。


 とりあえず、適当に歩いてみるか。

 看板や値札の文字は読めないけど、ならんでる商品を見れば何の店かはだいたい想像がつく。食べ物関係の店が多いみたいだな。

 ここは……、八百屋か? なんとなく見たことがあるような野菜も多いけど、たまによくわからないのも混じってるな。

 ここは、肉屋か? わっ、びっくりした。何気なく覗き込んだとたん、虚ろな眼窩とまともに目が合ってしまった。皮を剥いだ何かの動物が丸ごと、何匹も積み上げてある。この町の人たちは、こんなのを買って帰って調理するんだろうか?

 ここは……、粒状や粉末状のものが入った壺がたくさんならんでいる。このにおいは……、ああ、たぶん香辛料だな。

 瓶や樽に入った液体がならぶ店も。あ、これアルコールだ。酒屋か。

 魚屋もある。干物とかが中心で、鮮魚は少ないみたいだ。この世界にはまだ冷蔵庫とかはなさそうだから、仕方ないか。


 食材だけではなく、簡単な料理を売る屋台もある。店の人が慌てて逃げ出したので、商品がならんだままのところも多い。

 これは……、たこ焼き!? いや、見た目はたこ焼きに似てるけど、中身は蛸ではないのかも。

 こっちは油で揚げた丸い食べ物。見た目はコロッケに似てる。本当に同じものかどうかは、食べてみないとわからないけど。

 たくさんの串が用意してある店も。焼き鳥か、串カツか。


 食べ物以外の店もいろいろある。

 ここは、皿に壺に……。陶磁器屋?

 これは、ネックレスに指輪に……。アクセサリー屋か。なんか、宝石のついた指輪みたいなのもあるけど。こんな露店で、さすがに本物じゃないよな……? いや、ぼくは宝物を集める系のドラゴンじゃないので、別にどうでもいいけど。

 なんたかよくわからない雑貨屋も何軒か。

 ん、ここは? テーブルと、椅子がひとつ。商品らしいものが何もない。占いとかかな?


 あ、あったあった。服屋を発見。

 ぼくの体の大きさでは普通の店に入るのは難しいだろうから、露店なのは助かるな。

 ならんでいる服は新品ではなさそうだから、古着屋だろう。別に新品でなくても、着られれば何でもいいか。よし、ここにしよう。

 彼女の服のサイズなんてわからないので、サイズをあまり気にしなくてもよさそうなゆったりしたデザインのものを中心に、手当たりしたい集めていく。


 ま、こんなものか。咥えられるだけ服を咥えたぼくは、そのまま町を後にした。

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