【3-09】 砂
草を踏むかすかな足音に、目を開ける。
顔を上げると、少女が森から出てきたところだった。彼女は、ぼくが寝そべっている大岩の側を足早に通り過ぎて、まっすぐ洞窟へと入って行く。
最近、少女は暇さえあれば……というか無理に暇を作ってでも、森を少し歩いた先にある川へ出かけていく。そして、河原の砂を取って来て洞窟に運び込んでいる。
最初は、彼女が何をしているのかわからなかった。少女は間違いなく砂を洞窟に運び込んでいるはずなのに、洞窟の中を見回してもその砂が見当たらない。
でも、しばらくしてふと気が付くと……。なんだか最近、ぼくの寝床の寝心地が良くなったような?
寝床のあたりをよく観察してみて、やっと彼女が今までやってたことが理解できた。彼女は運んで来た砂を流し込んで、ぼくの寝床の岩にある隙間や割れ目などを埋めていたのだった。
鱗に覆われたドラゴンの体なら、多少の岩角の上に寝るくらいは別にどうということはないのだが、それでもやっぱり下が平らならそれに越したことはない。
今も、少女の作業が進むにつれて、ぼくの寝床の寝心地は確実に良くなりつつある。
ただ、難点は作業ペースがとても遅いこと。
ここには砂を運ぶ道具が何もないので、彼女が一度に運べる砂の量は、彼女の両手ですくえる量が限界だ。
服などを使ってなんとか一度にもっと多く運べないか試行錯誤していたようだけど、いまいちうまくいかなかったらしく、もう諦めたらしい。
ぼくも手伝おうかと思ったんだけど、自由に使える腕のないドラゴンが、道具を一切使わずに砂を運ぶ方法が思いつかなかった。バケツでもあれば、少女に砂を入れてもらってぼくが咥えて運べばかなり効率良さそうなんだけど。
まあ、砂を運んでいる少女が何かとても楽しそうなので、むしろここは邪魔をしないほうがいいのではと考え直して黙って見守ることにした。
少女は毎日のように作業を続けているが、それでもぼくの寝床が完全に平らになるのはまだしばらく先になるだろう。
それは逆に考えれば、彼女が少なくとも作業が完成するまではこの洞窟で暮らすつもりだという意味でもあるわけだけど。
見ていると、少女が再び洞窟から出てきた。大岩の側をさっきとは逆に通り過ぎ、いそいそと森へ入っていく。
見上げると、空はそろそろ夕焼けに染まり始めている。あ、もうこんな時間か。
次に彼女が戻って来たら、今日はこれで終わりにして夕食にしよう。




