(3-08) 役割
えー、予想外のトラブルで、とても困ったことになっています。いくらアピールしてみても、聖竜王様がまったく私を食べようとなさらないのです。
最初は、たまたま今は満腹なのではとも思ったのですが……。どうもそんな単純な話ではないみたいなのです。
聖竜王様は、奇跡の力(?)で、岩から不思議な白い水を出して飲んでおられるのです。私も、少し分けていただいてしまいました。甘くて美味しかったです。
もしかして、あれが聖竜王様の普段のお食事なのでしょうか? あり得ない話ではないですよね。なにしろ、聖竜王様なのですから。
もしそうだとしたら、聖竜王様はそもそも動物の肉なんて食べ物だとは思っておられない可能性さえあります。そうなると、私を食べていただくのは不可能ということに……。
洞窟に入ってから何をするべきかは司祭様から聞いてはいるのですが、それらは聖竜王様にスムーズに食べていただくための方法ばかりです。もし食べていただけなかった場合はどうすればいいのかなんて、全然聞いていません。
私は、どうすればいいのでしょう?
いえ、落ち着いて考えてみましょう。司祭様のお話の中に、何かヒントになりそうなことは……。
司祭様のお話では、新しい聖竜王様には、町として歓迎と友好の意を示す必要があるのだそうです。そのためには、聖竜王様に満足していただかなければなりません。
たから、私を食べてお腹いっぱいで満足していただく予定だったのです。でも、それができないとしたら……。別の方法でも、とにかく満足していただければいいのでしょうか?
とは言っても……。聖竜王様は、食べるものでさえ誰の手も借りることなく無から創り出してしまわれるほどの、完全なる存在なのです。
そんな聖竜王様は、たぶん不自由を感じることなんて何もないはずですよね。私の力で満足していただく方法なんてあるのでしょうか?
いろいろ考えているうちに、ふと思い付きました。
そういえば、聖竜王様が体のお手入れをされているのを、この洞窟に来てから一度も見ていない気がします。
お口のまわりに、まだ先ほどの白いものが少しついています。よく見ると、土かなにかの汚れが付いている鱗も所々に。
あれをきれいにするくらいなら、私にもできるかもしれません。それで、満足していただけるでしょうか?
他に良い考えも浮かびませんし、とりあえずやってみましょう。
やっと拭き終わりました。聖竜王様は大きいので、さすがに大変ですね。
さて、その聖竜王様なのですが……。拭いている間からずっと、目を閉じてじっとしておられます。これは、どう判断すればいいのでしょうか?
とても気持ち良さそう……に見えるのですが、満足していただけているのでしょうか? 少なくとも、嫌がられてはいない……と思うのですが。
それはともかく……。
少し離れて眺めると、聖竜王様の鱗の輝きが、一段と増した……ような。
これ、私がやったんですよね。ただでさえ綺麗な聖竜王様が、私の手でさらに綺麗に。聖竜王様が、私の手で……。
あ、ちょっとゾクゾクしてきたかも。くせになったらどうしよう?
さて、次はどうしましょう?
考えてみれば、聖竜王様に満足していただく方法は、聖竜王様ご自身に直接何かをすることだけではありませんよね。例えば、この洞窟の住み心地を良くするとかの、間接的な方法というのも。次は、その方向で考えてみましょう。
あ、なんか楽しくなってきた。




