表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/116

【3-07】 理由

 少女が洞窟に来てから、一週間くらい経ったかな。

 彼女は、今も洞窟にいる。

 もちろん、ぼくが監禁しているわけではないよ。そもそも、入り口に鍵どころか扉すらない洞窟で、監禁なんてできるわけがないし。


 実際に、彼女は一日に何度も、洞窟から出ていく。

 最初のころは、何度も振り返ってぼくの様子を確かめながらおそるおそる出ていく感じだった。しばらくして、ぼくが全然気にしないことがわかってからは、気が付いたらいなくなってる感じ。

 数分で戻ってくるのは、たぶん森の中でトイレだろう。

 だいたい一日に一度の長めの外出は、戻ってきた時に髪の毛が濡れてるから、たぶん近くの川で水浴びでもしてるんだと思う。


 何にしても、用事が済めば彼女は必ず洞窟に戻ってくる。

 最初は、しばらくして気が済んだら町へ帰るだろうと軽く考えていた。いくら少女の脚でも、朝にここを出発すれば夕方までには町に着けるだろう。ここからなら、町までずっと下り坂のはずだし。

 でも、彼女にそんな様子はまったくない。彼女は、ぼくが考えていたよりも本気でぼくの世話係を務める気らしい。洞窟暮らしなんて、ドラゴンはともかく人間にはかなり大変だと思うんだけど。


 いや、もしかしたら、彼女はここでの生活を意外と楽しんでいるのかもしれない。洞窟でドラゴンと一緒に暮らすなんて、この世界の人々にとってもかなり貴重な体験だろうし。

 でも、だからと言って、そんなにキャンプ感覚で気軽に楽しんでいいものなのか?


 あるいは、食べないで助けてもらったことへのお礼とか?

 それも、考えられなくはないけど。でも、たぶん彼女は、ぼくのことを普通の動物としか思っていないはず。言葉が通じるわけでもないただの動物を相手に、そこまで本気で恩返しをしようと思うだろうか?


 あるいは、無理に帰ろうとして森の中で狼にでも襲われるくらいなら、このまま洞窟にいたほうが安全だと考えてるとか?

 まあ、それは確かに正しい判断かもしれないけど。だとしたら、ぼくが町まで送っていくべきなのか? ぼくが町に行くと大騒ぎになるだろうから、行けるのは少し手前までになるけど。


 いや、もしかしたら彼女は今もぼくのことを、人間は食べないけどあくまでも気性の荒い猛獣だと信じているのかもしれない。

 だとしたら、せっかく手に入った召使いが逃げ出したら、ぼくが怒って町を破壊するのではと心配していても不思議はない……かも?


 いやむしろ、あのおじさんたちから、生きて帰って来たら酷い目にあわせてやると脅されているなんていう可能性も。

 あのおじさんたちにだって、わざわざ少女を生贄に差し出すのには、何か彼らなりに深い理由があるのだろう。だとしたら、もし彼女が途中で逃げ出したりしたら困るはず。そう考えれば、あり得ない話ではない気もする。

 だとしたら彼女は、町に返さずにここで匿い続ける方がいいのか?


 まあ、彼女がどんなつもりなのかはわからないけど……。

 この洞窟の広さには余裕があるから、少女が一人うろうろしてるくらいは別に邪魔にはならないし。

 どうせ、食費はただだし。

 彼女に体を拭いてもらうと、とても気持ちいいし。

 彼女を観察してると、暇潰しにもなるし。

 考えてみれば、ぼくにとっても、積極的に彼女を洞窟から追い出さなければならない理由は何もないんだよな。


 次に人間が様子を見に来た時に彼女を引き渡そうかとも考えたんだけど、あれ以来まだ人間は一度も来ていない。あの調子なら、今ごろ町の人々は、少女は既にぼくに食べられたと信じ切っているのかもしれないな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ