【3-04】 少女
少女は、ゆっくりと洞窟に入って来る。
……えっと。
こんな時、ぼくはどうすればいいんだろう? 攻撃されたわけでもないのに防御姿勢というのも、やっぱり変……だよな。
眺めているうちに、少女はぼくのすぐ側までやって来た。そして、ゆっくりとした動作でドレスを脱ぎ始めた。
え、どういうこと?
これはもしかして、服を脱ぐと発動する特殊攻撃……ではないよな、さすがに。
脱いだドレスを丁寧にたたんで床に置く。
裸になった少女は、ぼくの目の前で、ぼくに背中を向けて膝を抱えて座り込み、そのままじっと動かなくなった。
問1、この時の少女の気持ちを答えなさい。
女の子の気持ちを察するなんて、普段ならまったく専門外なんだけど、今回はなんとなくわかったような気がする。
これはたぶん、「私を食べて♡」だよな。それも、後ろに「(性的な意味で)」と付かない、本当に文字通りの意味の方での。
うーん、どうしよう?
ドラゴンって、体は大きいけど小食なんだよな。いくら小柄な少女でも、人間を一人丸ごとはちょっと食べ切れないなあ。
……いや、食べないけど。
とにかく、きちんと話し合おう。いや、話し合うのは無理かもしれないけど、とりあえずまずは服を着て……と、置いてあった服を少女の方に押してみるが、反応はない。
今回は気持ちだけということで、少女はお返しして……と洞窟の外を覗くと、既に馬車はなくなっていた。少女が洞窟に入るのを見届けたら、おじさんたちはさっさと撤収してしまったらしい。
少女を置いて帰るということは、あのおじさんたちの方も本気でぼくに彼女を食べさせたいってことか。
うーん、本気でどうしよう?
攻撃してくるのならともかく、こういう扱いは完全に予定外なんだけど。
どうしようもないな。とりあえずは、彼女が食べられるのを諦めてくれるまで待つしかない……か?
夜になった。
それでも、彼女はじっと座ったまま、動こうとしない。どうやら、ぼくが想像してたよりも本気らしい。
どうやって帰すかは明日考えるとして、とりあえず今夜は洞窟に泊まってもらうしかなさそうだな。
しかし、泊まってもらうと言っても、ひとつ問題が。
今は夏なのか、このあたりはもともと温かい地方なのか、夜でもそれほど冷え込むことはないみたいだけど。それでも、人間が裸で寝たら、さすがに風邪ひくだろうなあ。
でも、彼女には自分から服を着る気はなさそうだし。ドラゴンの前脚は、人に服を着せられるほど器用には動かないし。
服を着せるのが無理なら、どこか温かい場所に連れていって寝かせるでもいいけど。でも、布団もなにもないただの洞窟に、温かい場所なんてあるわけが……。
あ!
洞窟内を見回したぼくは、気が付いた。温かい場所なら、ひとつだけある。
しっぽの先で少女の背中を押してみるが、彼女はおどおどと周囲を見回すだけ。
ああ、そうか。ここは夜の洞窟の中だ。ぼくはドラゴンの目だからなんとか見えてるけど、人間の目なら自分の鼻も見えないくらい真っ暗のはず。動けるわけがないよな。
仕方ないので、抱えて移動させることにする。
しっぽを、そっと少女の脇の下へ。そして先端をJ字型に曲げ、体の向こう側を回して反対側の脇の下へ。何が起きたのかわからずキョトンとしている少女の体を、しっぽの力で持ち上げた。しっぽの先でも、少女一人くらいは軽いものだな。
彼女が、暴れたり逃げようとしたりしないので助かる。ドラゴンに何をされても逆らってはいけないとか、なんかそういうのがあるんだろうか? さすがに、持ち上げた瞬間にはちょっと悲鳴を上げたけど。
そのまま空中を運んで、寝転んでいるぼくの脇腹へ下ろす。
そして、あらかじめ上に開いてあった翼を閉じ、少女の体をそっと押さえつつ包み込む。これなら温かいはず。こんな状態で寝られるかどうかは保証できないけど。
少女は、しばらく翼の下でもぞもぞと動いていたが、やがて静かになった。そっと翼を開いて覗き込んでみると……。少女は既に、かすかな寝息をたてていた。
思った以上に穏やかそうな寝顔に安心して、ぼくもゆっくりと目を閉じた。
おやすみ。




