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【2-14】 返事

 枝が揺れる音に顔を上げると、猿たちと目が合った。洞窟前の広場に面した木に猿が何匹か、枝の上に座ったり枝にぶら下がったりしながらこちらを見ている。

 群れで暮らす動物の場合は、1匹づつではなく群れ全体でまとめて挨拶しに来るのもいる。


 やって来る動物の数は、一時期に比べると少し減ったかな。

 最初のころは、ドラゴンが来たと聞いて、森中の動物たちが一斉に着任の挨拶(?)に来ていたような気がする。それが一段落して、近くを通りかかったついでに挨拶していく動物だけになった……と、勝手に解釈しているけど。


「ああ、こんにちは」

 なんとなく、声に出して返事してみた。

 ふと思いついてやってみたら動物たちに喜ばれた――ような気がする――ので、最近は気が向いた時は声で返事することにしている。

 でも、これはあくまでも追加サービス。実際には、声で返事する必要はないらしい。

 顔を向けるとか、なんなら視線を向けるだけでもいい。とにかく、ぼくがその動物の存在にちゃんと気がついていることを示すサインを送ってやりさえすれば、それで動物たちは満足のようだ。


 その程度のことなら、最初からやってたよな。動物が目の前に来たら、普通は思わずそっちを見てしまう。

 そして、動物たちにとってはそれが「ドラゴンに挨拶したら、ちゃんと返事してもらえた」ということになる。つまり、ぼくに会いに来た目的がそれですべて完了したことになるわけで、満足して森へ帰っていった……ということだったらしい。


 枝から枝へ飛び移りながら森の奥へ去っていく猿たちをぼんやり見送っていたら、入れ替わりに一頭の猪が森から出てきた。

 あの、猪の中では少し薄めの体色には見覚えがある。あいつ、だいたい毎日一回、定期的に来るやつだな。


 特に生息数がそれほど多くない大型動物だと、何度も見ているうちに体の色や模様の特徴を覚えてしまって「あいつ、朝も来てたのにまた来たのか」とか「そういえば、あいつ久しぶりに見たな」とか、普通にわかるようになってしまった。

 たぶんこれが、動物たちがわざわざ森を出て、ぼくのすぐ前までやって来る理由なんだろうな。

 野生の動物には名前はないだろうから、挨拶といっても名乗ることはできない。そこで代わりに、自分の全身をはっきりとぼくに見せることで「私はこういう者です」と自己紹介しているんだと思う。


 よし。ではあいつにも、常連客特別サービスで返事してやろう。

「うむ、大儀である」

 実は、いろいろな言葉をかけて試してみたことがあるんだけど、何を言っても動物たちの反応は同じだった。つまり、動物たちにぼくの言葉の意味がきちんと通じているわけではないらしい。なので、返事っぽい声さえ出してやれば、実際には何を言ってもかまわないみたい。

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