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【2-12】 挨拶

 草を踏む音に、ふと目を向けると……。

 猪と目が合う。広場の大岩の上で寝そべっているぼくを、一頭の猪が見上げていた。

 よく見ると、奥の森の中で枝分かれした角が動いている。あれは、鹿だな。もう一頭来てるのか。

 

 あれ、みんなでぼくを洞窟に誘っている行動なのかとも考えたんだけど、どうも違うみたいだ。ぼくが洞窟に落ち着いてからも、相変わらず動物たちは次々とやって来る。

 いや、相変わらずどころか、むしろ以前よりも数が増えた気さえする。ぼくは必ず洞窟前にいることが決まったので、今までより来やすくなっただけかもしれないけど。

 しかも、それだけではない。ぼくの前での動物たちの行動が、以前よりも積極的というか大胆になった気がする。ぼくが違う方向を向いていたら、わざわざ回り込んでぼくの目の前へやって来たりとか。


 猪は、一瞬だけぼくと目を合わせた後、くるりと向きを変えてそのまま森へ消えて行った。

 そこまでしてぼくの前までやって来るくせに、動物たちは必ず、ぼくの前でせいぜい数秒間立ち止まるだけで、もう用事は済んだとばかりにさっさと森に戻って行ってしまう。

 せっかく来たのに、コスパが悪すぎないか? それとも、動物たちにとって、ぼくの前での数秒間にはそれだけ大きな価値があるのだろうか?


 猪が森に消えていった直後、鹿が森から出てきた。あいつ、さっきから森の中にいた鹿だよな。

 もしかしてあの鹿、ぼくの前へ出る順番待ちをしてたのだろうか? これは、順番待ちしてまでやりたいほどの重要なことなのか? そもそも、順番待ちって必要なのか? 一頭づつでないとだめなことなのか?


 あの動物たちは、何をしてるつもりなんだろう?

 少なくとも、ただのドラゴン見物ではなさそうだけど。

 ぼくを見物したいだけなら、別に後ろからでもいいし、みんなで一斉に取り囲んで眺めてもかまわないはず。一頭づつ順番に、ぼくの目の前へやって来る必要はないよな。


 わざわざ前に回り込んでくるということは、もしかしてあの動物たちは、ぼくを見たいのではなく、むしろぼくに見られたいのでは?

 ほんの数秒間で、ぼくに何をアピールしてるつもりなんだろう?


 ……アピール?

 もっと簡単に考えると……、挨拶?


 確かに、挨拶だと考えれば辻褄は合う。

 挨拶なら、一瞬だけ言葉を――この場合は視線を――交わすだけで終わりでも不思議はないし。ぼくに気づいてもらわなければ意味がないんだから、わざわざ回り込んででもぼくの視界へ入って来ようとするのも当然だし。正式な挨拶だとしたら、一頭づつ順番に前に進み出て来るのも理解できる。

 後ろから鳴いて呼んでもいい気はするけど、何か声を出してはいけないルールでもあるのかな?

 相手によっては、ひとこと挨拶するだけのためにわざわざ会いに行く価値がある場合もあるだろう。問題は、ぼくがその、価値ある存在かどうかという点なんだけど。

 この世界では、ドラゴンとはそういう存在なんだろうか? ドラゴンだし、あり得ない話ではない気もするけど……。どうなんだろ?

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