表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/116

【2-07】 誘導

 んー、なかなか壮観だなあ。

 ぼくの目の前には、なだらかな森の斜面が広がっている。そしてその向こうには、城壁に囲まれた大きな町。

 遠いので普通の建物ひとつひとつを見分けるのは難しいけど、この距離からでもはっきりわかるほど大きな建物もいくつか見える。具体的に何の建物なのかはわからないけど、いかにもヨーロッパのどこかの町の観光ガイドに載ってそうな感じの。


 飛んでいるうちに何だか街道が何本も集まってきたなと思ったら、大きな町が見えてきた。

 こっちの世界に来て初めて見る規模の大都市だったので、思わず一定の距離を取りながらも町の周囲を一周してしまった。さらに町が見える山の頂上に着地して、町を眺めながら休憩中。


 ふと気配を感じて横を見ると、立派なつのの大きな雄鹿が1頭。お、鹿の王かな?

 最初はまたいつもの見物にきた動物かと思ったのだが……。その鹿が突然、ぼくに向かって鳴いた。

 あ、鹿ってこんな鳴き声なんだ。いや、それは別にいいとして。

 声までかけられたのは初めてなんだけど、どうしよう? 返事したほうがいいのかな?

「あの、どうも」

 言葉が通じるとは思えないけど、一応返事してみる。その直後、鹿はくるりと向きを変えて歩き出した。そのまま森へ帰って行くのかと思ったのだが……。

 鹿は、すぐに立ち止まってぼくの方を振り返る。何歩か歩いて、また振り返る。これ、もしかして、ぼくについて来いって言ってる?

 試しに立ち上がって鹿の方へ歩いて行ってみると、鹿はぼくを先導するように森へと入って行く。やっぱり、ついて来て欲しいみたいだな。

 何なのかはわからないけど、ぼくも別に、この後用事があるわけてはないしな。おもしろそうだから、付き合ってみるか。


 鹿は、森の中を慣れた足取りでどんどん進んでいく。ぼくも、10メートルくらいの距離を保って後をついていく。

 すぐに、横の森から次々と鹿が現れ、雄鹿と並んで歩き始めた。やがてぼくは、10頭以上の鹿の群れに先導されて、森の中を歩くことになった。

 どうしよう。なんか、思っていた以上に大事になってしまったような。でも、もうやめるとも言い出しにくい雰囲気だし。


 しばらく歩いていると、突然視界が開けた。森の中に時々ある、木の生えていない草の広場に出たらしい。

 その広場は、山の中腹の緩い斜面に広がっていた。広場に面して、なだらかな地形が多いこのあたりには珍しく、ちょっとした崖がある。そしてその崖には、大きな穴がひとつ。これは、洞窟……かな?


 ぼくが洞窟に気付いたことを見届けると、集まっていた鹿たちは、満足したように森へと消えて行った。どうやら、ぼくをこの洞窟に連れて来たかったらしい。

 で、これからどうすればいいんだろう? この洞窟の中に、何かあるのかな?


 とりあえず、洞窟の前まで来てみた。

 入り口は、けっこう大きいな。ぼくの体の大きさでも、普通に歩いて通れるくらいの広さはある。

 中の気配を探ってみるが、動物の気配はまったくない。こんなに立派な洞窟なのに、なんでコウモリの一匹もいないんだろ?

 もしかして、中に変な毒ガスが充満していて、入った生き物はみんな死んでしまうなんてことは……?

 おそるおそる、中を覗き込んでみる。

 んー、変なにおいはないな。気分が悪くなったりもしないし、中に動物の死がいが折り重なってるわけでもないし。大丈夫そう……?


 念のために翼で洞窟内に風を送り込んでみた。これで、もしガスがあってもだいぶ換気できたはず。

 よし、思い切って入ってみよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ