表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/117

【2-05】 人間

 ちらっと横目で村の様子を窺うと、また村人総出でぼくを眺めている。

 現在、たまたま通りかかった村の近くの丘の上で休憩中。


 夜は、さすがに集落から離れた山奥の森の中で寝ることにしているけど、ちょっと休憩程度なら、村近くの草に覆われた丘の方が着地するのに便利。

 しばらく丘の上で寝転んでいると、村人に気付かれることも多い。そして、それらの人々は必ず、特に逃げることもなくぼくを眺めている。何か祈るような仕草をしている人もいる。

 ぼくを見ると逃げ惑ったり攻撃したりしてきた海の向こうの人々とは、明らかにぼくに対する扱いが違う……ような気がする。

 あの海が国境のようなものになっていて、ドラゴンに友好的な別の国というか、別の文化圏に入った……ということなのだろうか? もしそうなら、海を渡ってこっちに来たのは正解だったことになるけど。


 友好的……か。

 どの程度、友好的なんだろう? 例えば、ぼくが今からあの村に入っていったらどうなる? もしかして、普通に人々に受け入れられたりしないだろうか?

 ……ちょっと試してみようか。どうなるかはわからないけど、相手はただの村人だ。何があっても、ぼくに危険はないだろう。


 ぼくは立ち上がった。しばらく周囲を見回した後、思い切って村に向かって歩き始めた。

 威嚇しているとか攻撃的だと思われると困るので、なるべく自然な姿勢を保ったまま、ゆっくりと一歩ずつ斜面を降りていく。

 丘の頂上の草原を抜け、斜面に広がる藪を掻き分けて進み始めたあたりで、顔を見合せたり囁き合ったり、人々の間に戸惑いや動揺の様子が見え始めた。動揺はすぐに村全体に広がり、そして……。

 丘を半分ほど下ったあたりで、一人が突然何かを叫び始めた。それを合図に、全員が一斉に家に飛び込んでいく。あっという間にすべての家々の扉は固く閉ざされ、ぼくの前には無人の村が広がるだけになった。


 うーん。やっぱり、受け入れてもらうのは無理か。まあ、仕方ないな。

 これ以上村に接近すると、ますます話がややこしくなりそうだな。このまま飛び去ることにしよう。


 それにしても、遠くで村や人間に興味がないふりをしている間は積極的に見物しに集まってくるのに、村に近付こうとしたとたんに慌てて逃げ出すとは、なんとも微妙な距離感だな。

 ひたすら逃げ惑うだけだった海の向こうの人々に比べればまだ友好的……と言えるのかもしれないけど。


 それと……。

 人々が何を言ってるのかは、やっぱり理解できなかった。

 これだけ文化が違うのなら、人々が話している言葉も、海の向こうとこっちで違う可能性が高いと思う。

 だとしたら……。なぜか転生先の言葉が最初から理解できるお約束は、ぼくの場合は海のこっち側の言葉に適用されているのでは……なんて、実は少し期待していたんだけど。

 実際に聞いてみた感じでは、確かに言葉の響きが少し違うような気もする。でも、残念ながら、ぼくにはどちらも理解できないみたい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ