【2-04】 力
ん……。
薄目を開ける。
ぼくの目の前には、静かな森がひろがっていた。木々の葉の間から差し込む朝日が眩しい。
……朝か。
起き上がって、んーーーーっと伸びをして、それから……。喉渇いたな。とりあえず、川へ水飲みに行こう。
確か、こっちの方に川があったはず……。あ!
森の中を川に向かって歩き出したとたん、朝からいきなりトラブル発生。行く手を、大きな倒木がふさいでいる。
ぼくの大きさでは、下をくぐり抜けるのは無理だし……。寝起きの体で、この高さを飛び越えるのもだるいし……。引き返して迂回するのは、もっとだるいし……。
んー、どうしようかなあ。
口を倒木に近づけて、少し強めに息を吹きかける。その息に、声にならない特殊な発音の声を乗せると……。
次の瞬間、静かな朝の森に轟音が響き渡った。周囲のすべての景色が、炎の照り返しでオレンジ色に染まる。消し炭と化した倒木が、ボロボロと地面に崩れ落ちていく。
よし、通れた通れた。
さあ、みずみずっと。
川まで降りて来たところで、再び思わぬトラブル発生。
思ったより小さな川で、浅すぎて口の先しか水に入らない。これでは、水が飲めない。無理に口の先で水を吸い上げたら、川底の砂まで一緒に吸い込んでしまいそうだし……。
もっと深い場所がないかと見回してみるが、近くにはなさそう。深いところを探して歩き回るのもだるいし……。
んー、どうしようかなあ。
目の前にあった大きな岩に鼻の先を当てて、軽く押してみる。よし、行けそう。ぐっと力を入れて押すと、岩は流れの中に転がり落ちた。
派手に水しぶきが上がる。静かな谷間に、大きな水音がこだまする。そして、流れをせき止められた水が、岩の後ろに溜まって少しずつ水位を上げ始めた。
よし、飲めた飲めた。
あー、冷たい水が美味しい。
しばらくドラゴンをやっていて、ひとつ理解できたことがある。
ドラゴンの力をもってすれば、たいていの問題は、難しく考えなくても強引に力で押し切ればなんとかなってしまう。
ふと斜面を見上げると、1頭の猪が歩いていた。猪は、まだかすかに煙の出ている散らばった炭を少し気にしながらも、さっきぼくが倒木を燃やして切り開いた道を通って森へと入っていく。
そうそう。理解できたことといえば、もうひとつ。
ドラゴンとは、どんな強引なやり方でも許される立場。
ドラゴンが何をやったって、文句を言える者なんていない。森の動物たちはもちろん、人間でさえも。




