【2-03】 丘で
少しうとうとしていたばくは、ふと目を覚ました。
見上げると、青空を雲がのんびりと流れていく。暑くもなく、寒くもなく。
今、丘の頂上に広がる草原で休憩中。
どうして休憩しているのかというと、飛んでたら、なんとなく良い感じの丘を見つけたから。いや、何がどう良いのかは、ぼくにもわからないんだけど。
とにかく、上空から見ると、なんだかすごく良い感じだったんだよ、この丘。思わず下りて休憩したくなるような丘と言うか、なんかそんな感じの、うん。
まあ、それはともかく。
なぜ目が覚めたかというと、かすかに人間の声が聞こえたから。しばらくうとうとしている間に、ふもとの村が騒がしくなって来たらしい。
丘のふもとに村があることは、最初から気付いていた。
でも、今ぼくがいる頂上から村までは、かなりの距離がある。これだけ遠くなら、多少ドラゴンがいるくらいで大騒ぎにはならないかなと思ったんだけと……。やっぱりダメだったか。
ぼくだって、意味もなく村の平和を乱したいわけではない。仕方ないな。あまり騒ぎが大きくなる前に、そろそろ出発するか。
……ん?
ふと見ると、村の様子が、何か想像してたのと違う。
村の中の道に、たくさんの人が立っている。小さな村だから、総人口だってそれほど多くはないはず。そう考えると、あれだけいればほとんど村人全員に近いのでは?
それらの人々が騒いでいるんだけど、なんかこう、警戒したり逃げ惑ったりしているのとは少し違う雰囲気のような気がする。
しかも、騒ぎを聞き付けてまだ新しい人が次々と家から出て来ている。いや、騒ぎを聞き付けたというよりも、積極的に家々をまわって知らせている人が何人かいるようにも見えるけど。
庭や道に出て来た人々は、特に逃げ出すような様子もなく、みんなでぼくの方を眺めている。
え、何これ?
何かぼく、みんなの注目を集めてるような?
これってもしかして、一発芸でも披露しないといけない流れなのか? いや、そんなのできないけど。
あ、そうか。
ドラゴンにとっては芸と言えるほどではなくても、人間にできないことなら、いくつかある。それを見せれば、喜んでもらえるかもしれない。えーっと、人間にできないことと言えば……。
とりあえず、空に向かって軽く炎を吹いてみた。
あ、わりとウケてる?
いや、あれはウケてると言うんだろうか? あまり拍手喝采といった感じではない。みんなで手を胸に当てて、何をしてるんだろう? 何かに祈っている……ように見えるけど。祈るって、何に? もしかして、ぼくに?
ぼく、何か祈られるようなことした? 火を吹いたら祈られるの?
軽い冗談のつもりだったのに。どうしよう? こんな時はやっぱり、何かで祈りに応えないといけないのだろうか?
よし、こうなったら……。
ぼくは丘を飛び立ち、村とは反対の方向に向かって全力で羽ばたいた。
……逃げよう。もう知らないっと。




