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【1-25】 心と体

 ぼくは今、町の中を歩いている。

 しかし、日本の町というのは、ドラゴンにはあまり優しくないな。歩道は、ドラゴンが歩くにはちょっと狭いし。油断してると、信号機やビルの看板に頭をぶつけそうになるし。ドラゴンは体型的な問題で歩いていると自分の足元を把握しにくいから、気をつけないと周囲を歩く人々を蹴飛ばしそうだし。


 とにかく、ぼくは今、ある場所を目指している。理由はよくわからないけど。きっと、そこに何か大事な用事があるんだろう。


 信号が青に変わった。交差点で立ち止まっていたぼくは、横断歩道へと前脚を踏み出す。その時、視界の片隅で動くものに気が付いた。

 見ると、一台のトラックが突っ込んでくる。

 ふん、トラックの分際でドラゴンを轢こうなんて、百年早い。


 飛び慣れた、いつもの森の上空。正面からは、雲を切り裂いて急接近してくる一台のトラック。

 あれ、トラックって飛べたんだっけ?

 まあ、いいか。空中での勝負の方が、ぼくにとっても都合がいい。空の上なら、周囲が火事になる心配はないからな。


 大きく息を吸い込む。

 封印解除!

 食らえ、ドラゴンの最大火力!!


 森をも焼き尽くすドラゴンの巨大な炎が、トラックを包む。トラックは、炎の中でなにやら黒くて細長い数本のひものようなものに分裂して飛び散った。

 勝った……のかな?

 飛び散った黒いひもが、ぼくの方に飛んで来た。慌てて逃げ出すが、ひもはぼくを正確に追跡してくる。しかも意外と速くて振り切れない。そして……、ぼくに追い付いたひもは、翼に絡み付いた。


 ちょっ、待って。翼への攻撃は反則っ!

 やめろ絡み付くな羽ばたけないだろ落ちる落ちる離せーっ!




 飛び起きたぼくの前には、いつも通りの平和な朝の森が広がっていた。

 ……夢か。


 とりあえず、水飲もう。

 寝てると喉が渇くので、目が覚めたらすぐに水が飲めるように、最近はできれば川の近くで寝ることにしている。この場所も、少し斜面を降りれば谷川があることは確認済みで……おわっ! とっとっ!

 まだ半分寝たままの頭で急斜面を降りてたら、積もった落ち葉で足が滑った。とっさに地面に爪を立てつつ、長いしっぽを近くの木に引っ掛けて、なんとか耐える。ふう、ぼくの体重に耐えられる太い木があって助かった。


 水を飲もうと川を覗き込むと、水面にドラゴンの顔が映る。

 ふと、それをごく自然に自分の顔だと認識している自分に気が付いた。最初の頃は違和感しかなかったけど。


 最近実感し始めたんだけど、ぼくもだいぶドラゴンの体に慣れてきたと思う。

 最初の頃は、人間の体の癖が抜けなくてよく失敗した。ちょっと気を抜くと、自分の体を見ようとして下を向いたり、つい腕を伸ばしてものを掴もうとしたり。

 でも最近は、特に意識しなくてもそういう失敗はほとんどなくなった。

 さっき滑った時だって、最初の頃だったらまず腕を伸ばして目の前の木に掴まろうとしてたと思う。ドラゴンの前脚はそんなに長くもないし木に掴まれるほど器用でもないから、実際には掴まることができずにそのまま川まで転げ落ちていたかもしれない。


 特にはっきりと違いを実感するのが、夢。

 最初の頃は、夢の中では自分は人間のことが多かった。でも最近は、夢の中でも自分はごく自然にドラゴンとして活動していることが多くなってきた。

 あと、ついでに言うと、空を飛ぶ夢に妙にリアリティーが出てきた。ちゃんと羽ばたかないと飛べないとか。


 そろそろ、体だけではなく心も本格的にドラゴンになってきたというか、なんかそんな感じなんだろうな。

 ドラゴンとして生きていくと決めたんだから、それで何も問題はないんだけど。でも、少し寂しいというか怖いというか……、複雑な気持ち。

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