【1-23】 雨の日
少し薄暗い森。頭上からパラパラと水滴が降り注ぐ。時々葉の隙間から見える空は、一面の濃いグレー。
本日の天気は、雨。
この世界にも、やっぱり雨は降る。こんなに豊かな森が育つくらいだから、おそらくかなりの降水量があるのだろう。
それにしても、今日の雨はかなり強いな。森の中には風はほとんど入って来ないけど、木がザワザワと大きく揺れているから、外は風もかなり強いのだろう。雨どころか、嵐と言うべきかもしれない。この世界にも、台風のようなものがあるのかな?
森の中は上が木の葉に覆われているから雨はかからないのかと思っていたけど、実際にはそんなことはなかった。
木の葉には屋根と違って隙間がたくさんあるし、一度葉の上に落ちた雨が葉から地面に垂れてくることもあるんだろう。直接雨がかかる場所に比べれば少しはましかもしれないけど、それでもけっこう濡れる。
で、そんな雨の日にぼくが何をしてるのかと言うと……。特に何ということもなく、森の中をのんびり散歩している。
もちろんドラゴンは傘なんか持っていないので、雨が降ると濡れるのは避けられない。でも、実際にやってみると、自分でも意外なくらいに、体が濡れるのは気にならない。
人間は、結局のところ服や髪が濡れるのがいやなんだろうな。濡れると冷たいし乱れるしすぐには乾かないし。
その点、ドラゴンはもともと服は着てないし、全身が鱗だから毛もない。雨が止んだら体を震わせて水滴を振り落としておけば、後はすぐに乾く。
ぼくには、雨を避けたいなら雨雲の上まで飛んで行くなんていう奥の手もあるけど。
でも、それはできればやりたくない。実は先日、一度それに挑戦してみたことがあるんだけど、怖くなって途中で諦めた。
雲の上に出るということは、まずは雲を突っ切らないといけないわけだけど、それがまず怖い。どこまで続いているのかもわからないまま、周囲がまったく何も見えない雲の中を延々と飛び続けるというのは、想像してた以上に怖かった。まるで、そのまま異世界にでも行ってしまいそうな……。
ま、実際に異世界に来て平然と暮らしてるぼくが言うのもアレだけど。
しかも、少しでも気を抜くと、どっちが上か下かすらわからなくなってくる。途中でパニックになってきて、これは無理と判断して諦めた。無理に飛び続けるよりは安全かと思って、翼を閉じて雲の下に抜けるまで自由落下することにしたんだけど、それでも本当に落下しているのかどうかだんだん自信がなくなってきて怖かった。
たとえ雲に入らなくても、天気の悪い日は気流が乱れてることが多い。
飛んでいると、何の前触れもなく突然体が揺れたり、風向きが変わってバランスを崩したり、周囲の空気の温度が急に大きく変わったりして、なんとも心臓に悪い。
あれ、ドラコンには心臓ってあるのかな?
そりゃまあ、あるだろうな。食べたら不死になったりするとか、なんかそんな感じのやつ。ぼくの心臓にそんな効果があるかどうかは知らないけと。
まあ、そんなわけで、天気の悪い日はなるべく飛ばないことにしてる。移動は休みにして、地上でのんびり過ごす休憩日。




