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【1-20】 液体

 岩を舐めてみると、また液体が染み出してきた。

 あれから、思い出すたびに岩を舐めてみてるんだけど、必ず液体が出てくる。今までに、出てこなかったことは一度もない。どうやらこれは、場所も時間も一切関係なく、すべての岩に通用する能力らしい。つまり、ドラゴンは岩さえあれば、いつでもどこでも必ずこの白い液体を手に入れられることになる。それは逆に考えれば、この液体はドラゴンにとって、いつでも常に手に入らないと困るほどの重要なものということになるはずだけど。


 しかし、ぼくがこの世界でドラゴンとして暮らし始めてしばらく経つけど、今まで一度もこれを何かに使ったことはない。それでも今まで、この液体がなかったからからといって特に不自由を感じたことはなかった。

 ということは、本来はこれを使うべき場面なのに、ぼくは無意識に何か他のもので代用していた? それとも、普通のドラゴンなら必ずこれを使ってやるはずのことを、ぼくは知らないので今までやらなかった?

 実は何の役にもたたない無意味な能力だったなんてことは、さすがにないと思うけど。


 改めて、液体をじっくり観察してみる。

 白く濁って不透明な液体。流れ落ちる感じが水よりも少しねっとりしているように見えるので、粘度が高めなのか? そんなに強烈なものではないけど、においも少しある。なんとも表現しにくい不思議なにおいだけど、なんだか懐かしいような気も……。懐かしさを感じるということは、今までに見たことがあるものなのか? でも、こっちの世界でこんなの見たことは絶対にない。あるとすれば、むこうの世界で人間として暮らしてた間のことだろうけど。

 ぼくが知ってるものの中で、これに似ているものって何だろう? しばらく眺めているうちに、ふと頭にひとつの答えが浮かんだ。


 牛乳……?


 うん、においは全然違うけど、見た目はかなり近い気がする。

 そう思って見ると、地面に溜まって固まっているものも、ちょっとプルプルした見た目といい触った時の崩れる感じといい、なんとなくヨーグルトっぽいような。


 牛乳とヨーグルトか。

 このふたつから連想できる言葉といえば……。


 食べ物……?


 そう考え始めると、なんとなく美味しそうに見えてきたりして。

 ちょ、ちょっと食べてみてみようかな。大丈夫だろうか? ぼくの能力で出したものなんだから、ぼくにとって毒ということはないと思うけど。

 そおっと舌を伸ばして、白い塊の端のほうをちょっと舐めてみると――

 ……塩味だ。

 なんということだ。あれほど探し求めていた塩味は、実は最初から目の前にあったというのか!?


 塊を舌で崩し、口に運んでみる。噛む間でもなく口の中で崩れていくような食感は、見た目通りヨーグルトにそっくり。

 ただし、塩味。しかも、単純な塩味ではない。不思議なコクがあって、単体でもとても美味しい。

 そこまで考えたところで、においを懐かしく感じる理由に気がついた。そうか。このにおい、塩ラーメンにそっくりなんだ。実際、この白い液体をスープにしてラーメンを作ったら、普通に人気出そう。


 結局、地面にできていた白い塊をほとんど完食してしまった。

 すごく美味しい。それも、単に味が良いというだけの意味ではない。とても喉が渇いているときに水を飲んだみたいな、体が本能的に求めていたものをついに食べられたような、深い満足感がある。


 もう少し、食べてみようかな。

 既に液体は止まっているので、もう一度改めて岩を舐めてみる。同じように白い液体が吹き出して、地面に溜まって固まっていく。

 さっきの塩ラーメンの味を思い出しながら一口食べて、思わず吹き出しそうになった。

 何これ、すごく甘い。

 びっくりした。なんで突然、味が変わったんだろ?

 あ、そういえば。同じ岩を二回続けてはまずいかもしれないと思って、隣の岩にしたんだけど。もしかして、この白いのは、出てくる岩によって味が違うのか?

 最初から甘いとわかって食べれば、あまりしつこすぎずさっぱりした甘さで、これはこれでなかなか美味しいな。

 チョコレート……は少し違うか。生クリームのほうが近いかな。食後にデザートのケーキを食べてるみたいで、ちょっと贅沢な気分。


 うん、たぶんこれ、食べ物で間違いないと思う。

 ということは、ドラゴンは岩さえあれば、いくらでも食べ物が手に入るということ? だとしたら、すごく便利だけど。

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