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【1-16】 岩

 シャクシャクシャク


 うん、おいしい。

 森を歩いていると時々見かける、リンゴナシの実(命名;ぼく)。今日もさっそく見つけたので、朝食として三個ほど食べてみたところだ。なかなかおいしくて気に入ったので、すっかりぼくの主食になってしまった。

 この世界に来てから既に何日も経つけど、その間ずっと、川で水を飲む以外はリンゴナシの実を中心に木の実ばかりという食生活が続いている。でも今のところ、体には特にこれといって異常はない。

 ドラゴンって、どうやら本当に木の実だけ食べていれば生きていける動物らしいな。狩りをしなくていいというのは、いろんな意味で楽でいいけど。


 まあ、それはともかく。いや、ともかくで済ませられる問題ではないかもしれないけど、とりあえず置いといて。

 そんな食生活に、実はひとつ不満が。木の実ばかり食べていると、甘味や酸味以外の味を感じることがほとんどないわけで、たまには塩味なんかも食べたいな……なんて。


 でも、塩というのは野生動物にとってはかなりの貴重品なんだよな。

 岩塩でもあれば舐めてみたいところだけど。このあたりは、実はちょうど岩塩の産地だったりしないかな? ……しないだろうなあ。

 とりあえず目の前にあった岩を舐めてみたが、普通の岩の味しかしなかった。いや、岩を舐めたのなんて初めてなので、これが本当に普通の岩の味かどうかは判断できないけど、少なくとも塩味ではなかった。


 ま、仕方ないか。

 今すぐ解決しないと困るような深刻な問題でもないし、解決策が見つかるまでは保留ということにしておこう。では、そろそろ出発しようと立ち上がったところで……。視界の下のほうに、何やら白い色が見えるのに気がついたのは、その時だった。

 見下ろすと、目の前の岩からその下の地面にかけてのあたりが、なんだか白く染まっている。顔を近づけてよく見ると、岩の表面から白い液体が染み出して、それが地面まで流れ落ちている……ように見える。


 何だこれ?

 さっきまではこんなものなかったのに。なんで突然、こんな液体が? しかも、どこから?

 どう見ても、岩の表面には液体が出てきそうな穴や割れ目のようなものがまったく見当たらない。液体は何もない岩の表面から突然染み出している……ようにしか見えないんだけど。しかも、染み出しているというより吹き出していると表現したほうがいいくらいの、かなりの勢いで。そんなことってあるのか?


 しかも、もうひとつ気になるのが、液体が出てきているのが、ちょうどさっきぼくが舐めたところだという点。ということは、もしかしてこれは、ぼくが舐めたのが原因?

 よし、もう一度、別の岩を舐めて試してみよう。今度は岩の表面に穴や割れ目がないことをしっかり確かめてから、さっきと同じように表面を少し舐めてみる。眺めていると、すぐに岩の表面が濡れたように変色し、間もなく白い液体が染み出し始めた。液体はみるみる勢いを増しながら流れ出し、地面まで流れ落ちて溜まるとすぐに固まっていく。地面に大きな白い塊ができたころになって液体の流れ出す勢いが弱まり始め、やがて止まった。表面が乾くと、岩は何の変哲もないただの岩に戻っていた。


 やっぱり、この白い液体はぼくが岩を舐めるとそこから出てくるらしい。岩からこの白い液体を流れ出させるのは、ドラゴンの持つ特殊能力なのだろうか?

 爪で軽く触れてみただけで、白い塊は簡単に崩れていく。かなり柔らかくて脆いみたいだけど、これは何に使うんだろ?

 さすがに、ただの遊びやいたずらのための能力ということはないと思う。ドラゴンがそういう能力を持っている以上は、この白いものはドラゴンにとって何か実用的な使い道があるんだろうけど。でも、それが何なのか想像がつかない。


 それはともかく、これはこのまま置いて行っても大丈夫なんだろうか……としばらく考えているうちに、ふと気がつくと、なんだか塊がさっきより小さくなったような。よく見ると、白い塊は溶け始めていた。溶けると言うより、蒸発していると言うべきかな。液体に戻るのではなく、直接空気に溶け込んでいくような感じ。やがて塊はすべて消え、後には何の変哲もない岩と地面が残っているだけだった。

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