表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/116

【1-13】 翼

 ところで、武器とは少し違うかもしれないけど、ここでもうひとつ注目したいのが背中にある一対の翼。

 空を自由に飛べるものなら飛んでみたいという気持ちは、ぼくにもあるわけで。移動手段という意味でも、飛べた方が何かと便利だろうし。


 ドラゴンって、飛べるのかな? 翼があるんだから、飛べると思うけど。少なくとも、ドラゴンの体に飛ぶ機能が備わっていることは間違いないと思うけど。

 問題は、ぼくがそれを使いこなせるかどうかだな。いくら体に飛ぶ機能があったとしても、ぼくが飛び方を知らなければ意味が無い。今でも四本脚での走り方がよくわかってないくらいだから、ドラゴンになったからといっていつの間にか飛び方が頭に入っているなんてことは期待できないし。誰かに飛び方を教えてもらえればいいんだけど、教えてもらえそうな相手に心当たりはないし。やっぱり独学で、体で覚えていくしかないか。

 でも、座ったり走ったりくらいならともかく、飛ぶとなるとなあ。とりあえずやってみた結果、もしうまくいかなかったり失敗したりしたら、墜落するかもしれないし。いくらドラゴンでも、墜落したらさすがに無事では済まない……かもしれない。うーん……。


 とりあえず、試しに翼を開いてみると――うわ、でかい!

 今までずっと畳んだままだったからあまり意識したことがなかったけど、この翼、開いてみると思っていたより大きいな。うん、なんとなく飛べそう。


 翼を軽く上下に動かしてみる。うん、なんかそれっぽいかも。

 思い切って、ちょっと力を入れて羽ばたいてみると……。ぼくの体の周りを、一陣の風が駆け抜けた。背後の地面に積もっていた枯れ葉が爆発したように舞い上がり、その向こうでは木々が風にあおられて枝を揺らす。突然の突風が、ぼくの翼によって作り出されたものだと気づくのに少し時間がかかった。次の瞬間、翼に勢いよく前に引っ張られるような力が。とっさに前脚に力を入れて踏ん張ったので、なんとかひっくり返らずに済んだけど。

 ちょっとびっくりした。ドラゴンの翼って、少し羽ばたいただけでも、こんなに力が出るのか。

 でも、今のだと前に進む力ばかりだったな。飛び上がってからならともかく、飛び立つときはもっと上向きの力が必要なはず。後ろ向きの風を起こすと前向きの力が出たんだから、上向きの力が欲しい時は下向きの風を起こせばいいんだろう。そのためには翼の角度と羽ばたく方向を少し変えて……、このくらいかな?

 さらにもう少し力を込めて羽ばたいてみた。鋭い羽音とともに、翼に押し下げられた大量の空気の塊が地面に叩きつけられる。地面の草がぼくを中心に放射状に倒れ、その間を小石がすごい勢いで転がって行く。地面に跳ね返って吹き上がる風に、周囲の全方向の木々が一斉に枝をしならせ葉を揺らす。次の瞬間、ぼくの脚は四本とも地面から浮き上がっていた。


 そのまま羽ばたき続ければ、ぼくの体は確実に大空へと舞い上がっただろう。それだけの手応え――というか翼応えは、間違いなくあった。でも、ぼくは翼を止めた。風が止まる。森は再び静寂を取り戻し、一瞬だけ浮き上がった脚がまた地面につく。

 前の世界で人間として暮らしていた頃、ぼくも翼が欲しいと思ったことは何度もあった。あったんだけど……。実際に翼を与えられてさあ飛んでみろと言われると……、その……、つまり……、やっぱりちょっと怖い。鳥だって、簡単に巣立てるわけではないもんな。巣の中で飛ぼうか止めようかと長い間悩むひな鳥の気持ちが、わかった気がする。


 巣立ったばかりの鳥は、ふらふらして頼りない飛び方だしな。ぼくも、しばらくはあんな感じで練習するしかないだろう。でも、飛び方の練習をするドラゴンなんて、いまいち格好悪いなあ。ぼくは、少なくとも見た目はもう、必死に飛ぶ練習をしていても不自然ではないような子竜とは言えない大きさだろうし。

 森の動物たちは仕方ないとしても、せめて人間には見られないように、夜中にこっそり練習することにしようかな。


 別に期限があるわけではないし、ゆっくり練習するとして、それまでは――。ぼくは翼を畳み、いつも通り森の中をのんびり歩き始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ