【1-12】 武器
しかし、本気でドラゴンとして暮らしていくとなると、早くドラゴンの体と能力を使いこなせるようにならないと。
とりあえずの問題は、人間に襲われた時の戦い方。実際に一度襲われたんだからな。人間を相手に本気で戦う気はないとしても、ある程度牽制できる方法くらいは知っておきたい。
ちょうど川を見つけたので、水を飲むついでに水面に映った自分の姿をチェックしてみる。
ドラゴンの体に、武器になりそうなものって何があるだろう?
まず目につくのは、やっぱり大きな口。
ドラゴンは体が大きいから、口も人間なんてひと呑みにできそうなくらいの大きさがある。開くと、中には鋭い歯がたくさん。ぼくにとっては細かい歯だけど、人間の感覚で言えば、動物の歯としてはかなり大きい方だろう。サメや恐竜の歯みたいな感じか。噛み付いてもよし丸呑みにしてもよし、強力で頼もしい武器だ。
いや、でも……。よく考えると、この口や歯を武器として使うとなると、その時は相手に噛み付ける距離まで近づく必要があるわけだよな。だとしたら、もしその相手が剣や槍なんかを持っていたら、相手の攻撃も確実にぼくに届くことになる。それも、デリケートな器官が集まっている顔の周辺に。相手が武器を持っている場合は、ぼく自身にとってもかなりのリスクなのでは。
4本の脚には、鋭い爪が5本づつ。これも、ぼくにとっては体に見合ったそれなりの大きさだけど、人間の感覚で言えば巨大な爪と言っていいだろう。ドラゴンの強力なパワーと組み合わせれば、まさに一撃必殺の強力な破壊力だ。
いや、でも……。よく考えると、ドラゴンの脚は体の大きさに比べてそれほど長いわけではないし、人間の腕ほど自由に動かせない。脚を振り回したところで、爪が届くのは胴体の真下あたりの限られた範囲だけだ。だとしたら、相手が爪の届く範囲にいるということは、それは「相手に懐に入り込まれて大ピンチ」と実質的に同じ意味なのでは? しかも、ドラゴンは4本脚の動物だから、少なくとも3本の脚が地面についていないと体のバランスが取りにくい。つまり、一度に武器として使える脚は常に1本ずつだけ。
隙を突かれて体の下に潜り込まれた相手に対する最後の防御手段といった使い方ならともかく、常用の武器として使うにはちょっと無理があるような。
偶然とはいえ、ぼくに矢が効かないことは既に証明済みだ。だとしたら、剣や槍の攻撃も大丈夫かもしれないけど……。でも、もしかしたらその剣は、そんなドラゴンの鱗をも刺し貫く伝説の聖剣かなにかかもしれないし。そんなのがこの世界にあるのかどうかはわからないけど、ないと言い切れない以上は、一応警戒しておいた方がいい気がする。
つまり、まとめると……。噛み付いたり引っ掻いたりといった単純な攻撃だけで確実に勝てそうな相手といえば、森にいる普通の動物たちくらい。しかし一方で、そんな動物たちがぼくに戦いを挑んでくることなんて、まずあり得ない。武器として使えなくはないだろうけど、ちょっと使いどころが難しいな。
もうひとつ気になるのは、頭にある2本の角なんだけど、これはどうだろう?
試しに首を曲げて、近くの岩に角を軽くぶつけてみると――痛っ! いたったった。衝撃が頭に直接響いて、思っていた以上に痛い。そもそも角は斜め後ろに向かって生えてるから、相手を突き刺すには不便そうだし。この角は、そもそも武器ではないのかな?
では、この角は何のためにあるんだろう? ドラゴンの生態と、何か関係があるのかもしれない。たとえば、ドラゴンの社会では、縄張り争いなんかの時には互いに角を見せ合って、角が長いほうが勝ちというようなルールがあるとか。あるいは、角が長いほうが雌にモテるのかも。何にしても、直接戦うための武器ではなさそうだ。
あと考えられるのは、長いしっぽとか。
しっぽを曲げて体に沿わせてみると……。あ、首の付け根くらいまで届く。やっぱり胴体より長いんだな。
この長さを生かして、広範囲の相手を薙ぎ払うとか、あるいは鞭のような武器として使えるかもしれないけど……。お? しっぽの先の方、思ったより器用に細かく動かせるな。これなら、武器としてより、象の鼻のように簡単な作業をするための腕の代わりとして便利に使えるかも。




