【1-11】 仲間
ふと思ったんだけど、あの時の村人たちの反応は、どういう意味だろう?
ぼくは何もしていないのに、人々はぼくが凶暴なドラゴンだと信じ切って逃げ惑っていた。あの人たちが持っていたドラゴンが凶暴な生物だというイメージは、どこから来たのだろう?
たとえば、この世界に伝わる神話とか伝説とかの中に、凶暴なドラゴンが登場するといったことが考えられるけど……。
でも、神話や伝説の中の存在がいきなり目の前に現れたとしたら、あんなに素早く避難できるだろうか。みんながドラゴンを、いつ目の前に現れても不思議ではない現実的な脅威と認識した上で、普段から避難訓練……とまではいかなくても、少なくともドラゴンに遭遇した場合に備えた脳内シミュレーションを繰り返していなければ、あんなに素早く的確に避難できるはずがないと思うんだよな。
で、もしそうだとすると……だ。あの人たちは、ぼくに会う前から、ドラゴンがこの世界に存在することを知っていた。つまり、以前にもドラゴンを見たことがあるか、少なくとも見た人の話を聞いたことがあるわけだ。ということは、ぼくはこの世界で最初のドラゴンや唯一のドラゴンではない可能性があることになる。
いつまでも無意味に森を彷徨っていてもしかたがないしな。
とりあえず当面の目標として、他のドラゴンを探してみるというのはどうだろう? 人間の社会に受け入れてもらうのが難しいなら、せめてドラゴンの社会に加わることができれば。
ドラゴンの生態によっては、仲良くできるとは限らないけど。ドラゴンが群れで暮らす動物なら、群れに入れてもらえれば仲良くしてもらえるかもしれない。でも、もしドラゴンが単独行動型の動物なら、自分以外のドラゴンはすべて縄張りを奪い合うライバル……といった感じかもしれない。でも、たとえそうだとしても……、それが敵としてでも味方としてでも、やっぱり仲間との繋がりというものが少し恋しい。
でも、しばらく森を歩いてるけど、まだ他のドラゴンに出会ったことは一度もない。ドラゴンの大きさなら、近くにいたけど気づかなかったなんてことは、さすがに考えにくいし。
つまり、ドラゴンはどこにでもたくさんいるわけではない、この世界でもかなり珍しい動物ということになる。いきなり矢で攻撃してきたりして、希少生物として保護されてるような感じではなかったけど。まあ、まだ動物保護なんていう概念が存在しない世界かもしれないしな。
もしかしたら、このあたりは生息数が少ないだけで、場所によってはたくさんいるのかもしれないな。もしそうだとしても、その場所がまったくわからないんだけど。
人間に聞けばわかるかもしれないけど、それも無理だし。仲良くできるできない以前に、人間と話せないというのはいろいろと不便だな。
何もわからないからといって、何もしなければ始まらないからな。とりあえず移動してみるか。
なんとなくドラゴンがいそうな方向を……と周囲を見回してみるが、どちらを見ても森が広がっているだけだ。案内板があるわけでもないし、都合良く地図が落ちているわけでもないし、ドラゴンの気配が感じられるなんてこともないし。
よし、とりあえず日の昇る方向に向かってみよう。何の根拠もないけど、なんとなく勘でそう決めた。
決めたところで、別に急ぐ旅でもない。ぼくは、いつも通り森の中をのんびりと歩き始めた。




