【9-03】 二頭
「そろそろ、もう一回やるか?」
「よし!」
空中追いかけっこ、再開。
「おー、やってるやってる」
うわ、びっくりした。突然、後ろから声が。
ああ、ルーザンが来てたのか。飛び回ってたので気が付かなかった。
ルーザンは、一旦着地して乗せていた巫女を降ろすと、また飛び上がってきた。アーロが、ぼくから逃げながら急旋回でルーザンの側へ。
「何か用か?」
「ううん。ここでヴィルと待ち合わせしてるだけ」
いや、なんで無関係なぼくの洞窟が待ち合わせ場所なんだよ!? まあ、いいけど。
ルーザンが、飛び回るぼくたちを眺める。
「それ、何してるの?」
「これがっ」
炎を吹く。
「飛行訓練っ」
炎を吹く。
「だよっ」
炎を吹く。まだ、ちょっと遠いな。
アーロを追いかけながら炎を連射するぼくをしばらく眺めていたルーザンは、やがてアーロのしっぽの枝に気がついたらしい。
「あ、そうか。あれに火をつけるんだ」
「そうっ」
炎を吹く。お、今のはちょっと惜しかったかも。
「へー、なんかやってる」
うわ、びっくりした。また突然、後ろから声が。
ああ、ヴィルも来たのか。飛び回ってたので気が付かなかった。
ヴィルも、巫女を降ろしてからまた飛び上がってきた。
「それが、飛行訓練なの?」
「そうっ」
炎を吹く。急旋回で逃げたアーロを追って、ぼくも急旋回。
「あの、お兄ちゃんのしっぽの枝に火をつけるんだって」
「あー、そういうことね」
今回は、ルーザンが説明してくれてるので手間がはぶけた。
しばらくしてふと気がついたら、さっきまで横を飛びながら見学してたはずのルーザンとヴィルがいない。
見ると、ぼくたちの追いかけっこを遠くからのんびり眺めながら、なにやら二頭で話し合い中のようだ。何を話しているのかは知らないけど。
まあ、静かになったんだからいいか。ぼくは今、飛行訓練でとても忙しい。あの二頭を気にしている暇はないのだ。
しばらくアーロを追いかけていたら、またルーザンがぼくの近くにやってきた。
「ねえ、エルン。あれ、エルンの巫女に頼んだらやってくれる?」
ん? あれって、どれ?
「しっぽに枝をつけるやつ」
ああ、あれか。うん、やってくれるよ。別にシーナでなくても、人間なら誰でもできるとは思うけど。




