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【1-10】 立場

 やっぱり動物というのは、寝てる間が一番無防備で危険だよな。

 だとすると、寝るときは開けた場所ではなく、隠れるべきなんだろうか。たとえば、こんな茂みの中とかに。背の高い茂みの中に分け入って、地面に伏せてみる。あ、これでは翼が丸見えだ。翼は体に沿わせて折り畳んで……。よし、これなら、外からは見えないだろ。


 朝早く……でもないけど、無理に起こされてまだ少し眠かったぼくは、そのままウトウトしてしまったらしい。ふと目が覚めると、何やら目の前の茂みがガサガサ揺れている……? ん……、何かいるのかな……?

 まだ頭が半分寝ている状態でぼんやりと眺めていたぼくのすぐ目の前、ほんの1メートルほど先の茂みから顔を出したのは、一頭の黒い熊だった。

 さすがに一瞬で眠気が吹っ飛んで、思わず飛び退いた……んだけど。ぼくも驚いたけど、熊はもっと驚いたらしい。慌てて向きを変えると、転びそうになりながら全速力で森の奥へと逃げて行ってしまった。


 あー、びっくりした。いきなり熊は心臓に悪い。

 でも、熊って、思ってたより小さかったな。……いや、違うのか。ぼくは今、人間ではなくドラゴンなんだ。さっきの熊も、人間と比べればかなり大きかった気がする。でも、ドラゴンはそんな熊よりも更に大きいわけで……。


 熊に本気で怖がられるなんて、なかなか珍しい体験かもしれないな。

 正直言って、あれなら戦っても勝てそうな気がする。ドラゴンの力と体重を生かせば、難しい作戦なんかを考えるまでもなく、襲ってきた熊を強引に押さえつけて動きを封じるくらいのことは簡単にできそうだ。それに、ぼくの鱗は鋭い刃のついた矢が当たっても平気だったんだ。熊の牙や爪くらいなら耐えられるかもしれないし。


 もしかして、ぼくって強い? そりゃまあ、ドラゴンだからな。

 熊と言えば、森の動物の中では最強クラスのはずだよな。そんな熊に簡単に勝てるんだとしたら……。人間だけはちょっと微妙だけど、少なくとも森の中では、今のぼくは文句なしにチートと言っていい立場ということになる。ドラゴンには、天敵は存在しないということか。つまり今のぼくは、警戒するとか隠れるとかいったことは一切考えなくていい、そこに存在しているだけで他の動物たちから気を遣ってもらえる立場というわけだ。

 考えてみれば、今まで森の中でのんびり熟睡したりぼんやり考え事をしたりしていても、危険を感じるようなことは一度もなかった。野生動物の世界でそんなのんびりした生活が許されるのなんて、それこそ天敵のいない絶対王者といっていい者だけだよな。


 あの白い部屋の女性が言ってた『すごい能力』というのは、こういう意味なんだろうか。それとも、これはドラゴンに転生したことでおまけについてきただけで、また別の話なのかな。

 しかしそうだとすると、やっぱり開けた場所で寝る方が正解だろうか。起きてる時も寝てる時も、どうせ襲われる心配がないのなら下手に隠れたりせずに堂々と姿を見せていれば、他の動物たちの方がぼくを避けて通ってくれる。そうすれば、さっきの熊みたいに他の動物を驚かせずに済んで、ぼくにとっても相手にとっても平和でいいはず。

 うん、ドラゴンも、悪くはないかもしれないな。

 とりあえず人間に近づきさえしなければ、他は何にも気を遣わずにのんびり暮らせるというのは魅力的だ。森の動物たち限定とは言っても、最強というのはちょっと気分がいいし。


 それに、ぼくはこの世界に、訳もわからずに放り出されたわけではない。あの白い部屋にいた女性が何者なのかは知らないけど、状況から考えればたぶん神様か、少なくとも神様の助手的な存在なのは間違いないと思う。そんな彼女から、ぼくはこの世界でドラゴンとして暮らすことを、正式に許可してもらった立場なんだ。

 つまり、ドラゴンの力でできることなら何をやってもかまわないし、誰にも遠慮する必要はないわけだ。具体的に何ができるのかは、今はまだわからないけど。この世界はゲームではないんだから、あらかじめ決められたエンディングのようなありきたりの目標に向かって進む必要もないわけだしな。


 というか、もう一度戻ってやり直すとか、めんどくさいし。

 もういいや。せっかく来たんだから、このままこの世界でドラゴンとして気ままに暮らすことにしよう。

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