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(8-04) 洞窟

 とりあえずエラに洞窟に入ってもらって、ここでの生活について説明しています。

 向こうの孤児院にもいろいろな当番があったので、洗濯や掃除の仕方はもうわかっているそうです。それは助かります。

 それで、どうしましょう?

 二人しかいないのに、順番に当番を決めてもあまり意味はなさそうですね。それより、毎日二人で手分けしてささっと済ませるほうがいいかもしれません。


「あの、ところで……」

 はい、なんでしょう?

「そろそろ、暗くなってきたな……と思ったり」

 ああ、そうでした。彼女はまだ『聖竜王様の目』を持っていないのです。夜の洞窟では、明かりが必要ですね。


 この洞窟にも、ランプは一応用意してあります。私にはもう必要ないものなので、こんな時にしか使うことはありませんけど。

 棚からランプと油を取って、テーブル代わりの岩の上に置きます。

「油の入れ方、わかる?」

「ああ、これなら」

「では、お願い」

 私は、こんな時のために森で拾い集めてある枯れ枝を1本持って、聖竜王様のところへ。

 あの、聖竜王様、すいません。これに火を……。ええ、彼女にはランプが必要なので。はい、ありがとうございます。

 火のついた枝を持って戻ると、エラが目を丸くしていました。

「火、簡単につくんだな」

 ええ。ここには、火ならいくらでもあります。


「ところで、料理当番は? 私、味付けはあまり期待しないでほしいんだけど」

「ああ、それは大丈夫。ここには、料理当番はないから」

「それじゃ、食べるものは?」

 そうですね。実際に見てもらったほうが早いでしょう。ちょうど、そろそろ夕食の時間です。

 彼女に皿を二枚持たせ、私はタライ……いえ、聖竜王様用の皿を持って岩のところへ。聖竜王様が舐められた岩からマナが流れ出すところを、彼女にも見学させます。

「あの、これは……?」

「マナ」

「マナって……?」

「聖竜王様のすごい食べ物」

「すごいって……、説明になってない気もするけど……」

 エラが、微妙な表情でマナを見つめます。

「……もしかして、私たちもこれ食べるの?」

「もちろん」

 聖竜王様のすべてを無条件に信じるのが、私たちの大事な仕事なのです。これで納得してマナを食べられない者に、聖竜王修道院のシスターを名乗る資格はありません。決して、私もよくわかってないから強引にごまかしているわけではありません。

 ちなみに、やや躊躇しつつも初めてマナを食べた彼女の感想は……。

「あ、想像してたよりおいしいかも」

 ……だそうです。


 では、いよいよ夜のお勤めの時間です。

「聖竜王様に礼拝するの?」

「ううん。これ」

 私が渡したタオルを見て、エラが微妙な表情で頷きました。

「……なんとなく、わかった気がする」

 そうですか。理解が早くて助かります。

 では、聖竜王様のところへ。いえ、そんな微妙な距離で止まっていてはいけません。ほら、大丈夫ですから、もっと近くまで来てください。

 では、聖竜王様のお体を拭いていきましょう。マッサージも兼ねているので、少し強めに。いえ、腕の力で押すのではなく、腕は伸ばしたままで体重をかける感じで。そうそう、いい感じですよ。


 全身がきれいになって満足そうな聖竜王様を、二人で見上げます。

「ほら、感謝するって。半分は、あなたにだよ」

「……うん。ちょっと、満足感あるかも」

 そうです。これが、お世話係としての一番の醍醐味なのです。たぶん。


 さて、そろそろ寝ましょうか。

 聖竜王様が布団に入られたところで、エラをそのとなりに寝かせます。ランプを消してから、私もそのとなりへ。聖竜王様の翼が、二人を包むように下りてぎす。

「聖竜王様の翼の下で寝るなんて、すごいけど、本当にいいのかな?」

 いいんです。これこそが、お世話係の特権というやつですから。

 では、おやすみなさい。

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