【7-05】 会話
「おはようございます」
シーナが、胸に右手を当てて挨拶する。ルーザンに喜んでもらえてよほど嬉しかったのか、ドラゴンが来るたびに自主的に挨拶するようになったので、いろいろな挨拶を教えてレパートリーを増やしてみた。
「ね?」
ルーザンが、ヴィルを見る。
「……うん。ホントに、どんどん覚えるね」
ヴィルが頷く。
今日は朝から、ルーザンとヴィルが揃って洞窟に来ている。これから何か用事があるとかで、二頭で出かけるところらしい。
それはいいんだけど、ここでひとつ疑問が。
「どうして、二頭で出かけるときの待ち合わせ場所がぼくの洞窟なの?」
「んー、それはまあ……」
二頭が、顔を見合わせる。
「なんとなく、いい感じだから?」
いや、何がだよ!? まあ、別にいいけど。
「それより……」
ヴィルが、降りてきた四人の巫女を出迎えているシーナを見る。
「あの子、今どれくらいの言葉を覚えたの?」
「うーん、どれくらいだろ? 数えたことないな」
毎日教えてるから、もうかなりの数になったと思うけど。
「すごいね」
ルーザンが、おしゃべり中の巫女たちを見る。
「人間って、やろうと思えば、そんなこともできるんだ」
いや、ドラゴンが気付いてないだけで、このくらいはみんな普通にやってるんだけど。
その時、シーナがぼくのところにやって来た。ん、申し訳なさそうな顔でどうした?
「人間」「すべて」「空腹」
なんだ? みんな、まだ朝食を食べてないのか? 実はぼくらもまだ食べてないんだけど。二頭が朝早くから押しかけて来るから。
「マナ」「食べる」「求める」
ああ、マナを出してやるから、みんなで朝食にしなさい。いや、他ドラゴンの巫女に勝手に食べさせるのはまずいか?
「朝食、まだなんだろ? 巫女たちに何か食べさせてやってもいい?」
「「……」」
あれ? なんで、二頭とも固まってるの?
「あの子、今、ちゃんと意味のあることを話さなかった?」
それはまあ、そのために言葉を教えたんだから。まだ、正式に文章と呼べるレベルではないけど。
「それじゃ、ちゃんと言葉の意味をわかって言ってるってこと?」
うん、当然そうなんだけど……。もしかして、意味もわからずに教えられた発音を繰り返してるだけだと思ってたの!?
「人間って、そこまでできるんだ……」
どうやら、今までドラゴンたちはぼくのことを、人間に言葉を教えてるのではなく、人間にインコかなにかのように言葉を仕込んでると思ってたみたい。
人間に言葉を理解する力があることは、数日後にはドラゴンの間に知れ渡っていた。さすがに、莫大な手間と時間をかけて実際に巫女に言葉を教えてみようというドラゴンは、ぼく以外には現れなかったみたいだけど。
そしてぼくは『人間について次々とおもしろいことを発見するドラゴン』という新たな称号(?)を手に入れた。喜んでいいものかどうか、よくわからないけど。




