(7-04) 馬車
三人でおしゃべりしていたら、聖竜王様のお声が。え、いつもの馬車……ですか?
あ、忘れてました。そういえば、今日は教会の人が来る日でしたね。
「ちょっと、隠れさせてもらうから」
ネルさんとフィマさんが、慌てて大きな岩のかげに駆け込みます。聖竜王修道院どうしに横のつながりがあることは、教会には内緒なのです。
「あ、でも聖竜王様は広場におられますけど」
「聖竜王様はいいよ。どうせ、飛んで来たのは下から見えてるだろうし」
そういえば、そうですね。
「でも、それでは、二人が乗ってたのも見えてるのでは?」
「この距離なら、そこまでは見えないって」
えっと、そういうものなのでしょうか?
馬車が到着し、教会の人が降りてきました。ちなみに、教会の馬車が危険なものではないことは聖竜王様にちゃんと理屈として理解していただけたので、余計な演出はすべて中止しました。
「今日は、聖竜王が二頭いるが」
「ええ。ちょうど今、ルーザンの聖竜王様が訪ねてきておられるところです」
「おお、ルーザンから」
教会の人が、仲良くおしゃべりしておられる聖竜王様たちを眺めます。
「ま、失礼のないようにな」
ええ、もちろんです。
今のところ何も問題はないので、簡単な報告だけを終えると、教会の人はすぐに帰っていきました。
馬車の音が十分に遠ざかってから、二人が岩かげから出てきました。
「うまくごまかしてくれた?」
はい、なんとか。
「ネルさんのところも、定期的に教会の馬車が来るんですか?」
ネルさんが、首を横に振ります。
「いや、うちは定期的にじゃない。用事があるときだけって感じ」
あ、そういうやり方もあるのですね。
「私たちから用事があるときは、鏡で光を反射して教会に知らせることになってる。晴れた日にしか使えないという難点はあるけど」
はー、なるほど。
「ま、実際にはほとんど使うことはないから。次に馬車が来るまで待てないほど緊急の用事なんて、そうそうあるもんじゃないし」
それはまあ、そうかもしれませんね。
でも、緊急時にこちらから町に連絡できる仕組みは、うちもあったほうがいいかもしれません。今度、教会の人に相談してみましょう。
「それにしても……」
フィマさんが苦笑します。
「大きな町の教会は、さすがに馬車も豪華ですね」
あ、そうなんですか? 他の教会の馬車を見たことないので、よくわかりませんけど。
あ、聖竜王様のお声が。ルーザンの聖竜王様が、そろそろお帰りのようです。
二人が立ち上がりました。
「それじゃ、シーナ。たぶん、また明日な」
ええ、待ってます。




