プロローグ(プロトタイプ)
こちらの内容ですが、ファイルの消失前の話をまとめた内容となります。
一度ファイルが設定ごと消失して、残った分で話を書き直したら、ネットで公開されている部分との差が生まれましたので、公開済みの部分は没となりました。
しかし、全部削除するのも少し惜しい気持ちがありますので、プロローグ分が全部更新出来る前に、しばらくはプロトタイプとして扱い、残す事にしました。
もし承知な上で読んで頂ければ、本当にありがたいです、ありがとうございます。
学校のバスから降りて、青いワンピースを着た長い黒髪の少女は目を見開いた。
目の前にある大きいなお城のような建物を見て、彼女は少し走り、一度振り向いて、彼女はバスから降りた人にそう言った。
「ちずなちゃん、こっちこっち!」
「待ってよ澪、そんなに走らなくても、ショッピングモールは逃げないんだって。」
少しからかいを込めたちずなの声を聞き、澪は照れたように黒い髪の先端を弄った。
すぐに澪は髪を放し、ちずなの元へ駆け寄り、恥ずかしそうにワンピースの裾を触りながら、澪はちずなに言った。
「だって、初めてのちずなちゃんとのデートだよ!ワクワクしないの?」
「あのさ、幼馴染の僕より、好きな人とデートしなよ。澪はモテるからさ、勇気を出して誘ってみたらどう?」
「もう!ちずなちゃんのイケず!」
ちずなの返事を聞き、思わず澪はそう不満を口に出した。
一気に頬を膨らませて、澪が「ふんっ」と顔を背けたのを見て、ちずなは息を吐き、澪にそう言った。
「ごめんな、僕が悪かった。僕もね、澪と一緒に遊べるのがすごく楽しみなんだ。」
「……本当に?」
「本当だよ、ほら、今日は私服オッケーだから、僕も頑張ったぞ!」
そう言い終わると、ちずなは背負ってるバッグを下ろし、澪に自分の格好を見せた。
黒いジーンズにダークグレイのシャツ、運動用のスニーカーと合わせて、少年っぽい格好が仕上げられていた。
そんなちずなを見て、澪は嬉しそうに笑みを浮かべ、ちずなの手を引きながら、澪はそう言った。
「うんうん、今日のちずなちゃんもすごくイケメンだね!」
「いや、イケメンとか言い過ぎ。」
「本当なんだって!あ、そろそろ時間なんだから行こっうわ!」
澪が歩き出そうとしたその瞬間、突然地面が揺れ、ちずなはすぐ手を引き、倒れそうになった澪を抱き留めた。
驚いたように澪がちずなを見つめると、すぐに揺れが収まり、ちずなは地面が動かない事を確認し、手を離した。
ちずなの腕から離れ、顔が真っ赤になった澪はちずなから顔を背けて、恥ずかしそうに彼女は言葉をこぼした。
「もう、これだから天然は……。」
「いや、今はそんなの関係ないから、てか大丈夫?怪我はないよな?」
「どっかの誰かさんが受け止めたから平気なの!」
そう言って、澪はまた顔を膨らませて、けど、しっかりと彼女はちずなの手を握り、澪は遠くにあるショッピングモールを指した。
「もう、お腹ぺこぺこ、早く行こう!」
「はいはいわかった。」
澪にそう言い返し、ちずなは地面に置いた自分のバッグを掴んで、それを背負い直した後、澪を見て、ちずなは手を伸ばした。
自然と澪はちずなの手を掴み、二人は手を繋いで、一緒にショッピングモールへと歩き出した。
歩き進めている時、ちずなは空の色が少し変わったように見えた。
でも、隣にいる澪を不安にさせたくないから、ちずなは固く口を閉ざし、澪の手を握って、ちずなはショッピングモールの方へ視線を向けた。
大通りを歩き、途中で澪とちずなは同じく修学旅行で来ているクラスメイトや他校生と出会った。
途中でかわいいぬいぐるみの店や美味しそうなスイーツの店はあったが、澪とちずなの目的地が変える事がなかった。
実はショッピングモールは学校のバスから一番離れているせいで、移動時間も考えると、そこへ行ったら、もう他の場所を回れなくなる。
けど、今日の為に貯金した澪とちずなは諦めない。
滅多に地元から出られないこの二人は決めていた、今日という日で、二人は貯金の許す限り、盛大に贅沢をしようと。
欲しい服も買うし、家に禁止されている本や雑誌も絶対に手に入れる。
修学旅行の自由行動の日に、必ずいつもの自分を捨てると。
そう決意を抱き、澪とちずなはショッピングモールへと進み続けた。
「わあ!大きい!広い!ちずなちゃん見て!建物の中に噴水があるよ!」
「わかったから少し落ち着いて。」
「なんだよ!ちずなちゃんだってワクワクしてるくせに!」
「時間も押してるから、買い物を先に済ませてからゆっくり見ようって話だけど?」
「あっ、それもそっか。」
ショッピングモールに入った途端、巨大な噴水が目に入り、子供のように目を輝かせた澪はちずなの言葉を聞き、少し冷静になった。
ショルダーバッグからスマホを取り出し、澪は保存してた店の情報を開き、彼女はちずなにそう聞いた。
「そう言えば、ちずなちゃんは本とCDだけでいいよね?」
「うん、服とか買ったら、また全部没収されるのが目に見えてるからな。」
ちずなの言葉を聞き、澪は少し眉間にしわを寄せながら、彼女はちずなを見て、呆れたようにそう言った。
「本当、ちずなちゃんのお家って厳しいのね。」
「まあ、一番上だからな、仕方がない。」
「でも、一応弟さんもいるんでしょう?」
「ああ、そういや言ってなかったな、弟は目が見えないんだ。」
「えっ、嘘!?」
なんてもないような顔でそう話したちずなの顔を見て、澪は驚いた声を上げて、彼女は目を丸くした。
そんな澪を見て、ちずなは思わず笑い出してしまい、取り出した買い物リストを折りたたんで、ちずなは澪にそう返した。
「生まれてすぐは見えていたけど、結局視力の神経が切れたらしくてさ、で、家を継ぐのはやっぱ僕になるんだと。」
「えっ、えっ待って、私ちずなの馴染みやって十年も経つけど、そんな事全く知らなかったよ!?」
「そりゃこういう事って、切っ掛けがないと話せるわけないじゃん。」
「そ、それもそうか。」
驚いた澪の顔を見て、今度は遠慮なくちずなは吹き出し、目を丸くした澪を見て、ちずなは言った。
「まあ、僕の身の上話は置いといて、さっさと買い物しよう。一時間後真ん中の噴水で待ち合わせでいい?」
「へっ!?あっ、うん、じゃあ、私はアクセサリーを見てくるから。」
「おう、気をつけてな。」
澪に手を振り返した後、走っていく澪の背中を見送り、ちずなは適当に歩きながら、エスカレーターを観察した。
各階にある店の場所を確認しながら、ちずなは本屋のある階まで上がるために、エスカレーターを乗った。
先に本屋に入り、欲しい本と雑誌を買った後、今度はレコード屋さんに、ちずなは足を踏み入れた。
広いフロアを見渡し、ちずなはバッグから自分のヘッドホンを取り出した。
先に欲しいCDを手にして、ちずなは音楽を聞けるマシンの前まで歩き、楽しそうに笑いながら、ちずなはコードを繋げようとした。
その時だった。
いきなり地面が強く揺れ始めた。
棚の中のCDが揺れ、置く方法によっては、次々とCDが地面へ落ちていく。
ちずなはコードを仕舞い、周りを見渡しながら、ちずなは今の揺れについて考えた。
バスを降りた時の揺れとはよく似ていたけど、違うのはその頻度。
一度揺れるだけでは止まらず、二度目、三度目と揺れが断続的に続いた。
その時、ちずなは妙な違和感を覚えて、持っていたCDを全部置くと、ちずなは店から出た。
「うそっ、だろう!?」
妙な光加減に気づき、ちずなが上の方へ視線を向けると、その目は大きく見開いた。
元々このモールの天井は透明なガラスで光を室内に導いていたが、そのガラスの上には見たことのない丸い物体が置かれ、大半の自然な光を遮った。
所々に天井の破片みたいなものが床に落ちている事に気づき、ちずなはもう一度天井を見て、そして理解する。
今の揺れは地震ではなく、何物かがぶつかってきた時の衝撃だった。
それに気づいた瞬間、揺れの間隔と強さが増して行き、澪の事を思い出して、ちずなは慌てて下への階段を探した。
全く馴染みのないモールの中を走り、下の階へ向かおうとちずなが走っていた。
その時、突然不吉な音が鳴り響き、天井が崩れて、その破片はちずなに直撃っ、する寸前に、大きいな叫び声がちずなに届いた。
「危ない!」
「うわっ!?」
いきなり横からタックルされて、ちずなの体は遠くまで吹っ飛んだ。
しかし、声に気づいて、ちずなは素早く頭を庇い、そして、タックルを仕掛けた人もちゃんとちずなを庇う体勢を取っていたから、なんとか二人とも無事でいられた。
先程自分がいた場所まで落下した天井の破片を見て、声を震わせながらも、ちずなは自分を被さった人に礼を言った。
「た、助けてくれて、ありがとうっ。」
「礼なんていい!下の階へ急ぐぞ!」
「えっ?うわ!」
一気に引っ張られて、ちずなは一瞬で強制的に立ち上がる事になり、手を掴まれるまま、ちずなはその人と一緒に走った。
一応目的地は同じ下の階だから、断るつもりはないけど、何があったのが気になり、ちずなはその人にそう聞いた。
「あの、すみません、何があったんですか?」
「落ちてきた物に、変な丸い物あったじゃん、窓にあるやつ。」
「はい、ありました。」
「そいつに俺の友たちが喰われた。」
「……はあ!?」
驚いて変な声を出したちずなを見て、その人も驚いたようにちずなを見た。
慌ててちずなの手を離し、その人は焦ったように口をパクパクさせて、必死にその人は言葉を絞り出した。
「お、俺だって最初は信じられなかったんだ!でも、俺の友たちがっ、俺、の……。」
「っ!危ない!」
今度はちずなが落ちてくる物に気づき、ちずなは躊躇なくその人を突き飛ばし、二人の間にまた建物の破片が落ちた。
ぼーとその人はちずなを見上げていると、揺らいたその目から、一筋の涙が溢れた。
濡れた自分の顔に驚き、その人は慌てて涙を拭こうとしたが、ちずなはその人の方へ駆け寄り、その手を掴んだ。
そして、今度はちずなが必死に力を出し、その人を引っ張って、また二人で下の階へ進んだ。
階段を下り、息を荒げながらも、握ってる手から伝わる震えを感じて、必死にちずなは考えた。
考えていると、一つの事を思い浮かび、ちずなは心を決めて、走りながらちずなはその人にそう言った。
「僕はちずな、あなたの名前は?」
「お、俺は、平良。」
「たいら、平良さん。僕の言葉を聞いて。」
「う、うん、聞いてるよ。」
「僕を助けてくれて、ありがとう。」
平良に助けられた時の言葉をもう一度伝えて、ちずなは平良の手を握りながら、はっきりとした声で、ちずなは言葉を続けた。
「何があったのか僕にはわからない、でも、あなたは勇気を出して、僕を助けてくれた。本当にありがとう、平良さん!」
「お、俺は、そんなん立派じゃねえよ。……怖かったんだ、俺は、何もできなかったんだ、俺はッ!」
「いいえ、あなたは僕を助けた!あなたのおかげで、僕はまたこうして走れたッ!僕を、ちずなを助けた事を、誇ってくださいッ!」
ちずなの言葉を聞き、平良の目が見開いて、涙が更に溢れ続けた。
自分の涙を拭こうと思って、平良が腕に力を入れると、ちずなに手を強く握られている事に、彼は気づいた。
手のひらから伝わるちずなの温度が心地良くて、少しだけ落ち着けるようになり、平良は泣きながら、ちずなにそう返した。
「手ぇ、握ってくれてありがとう、ちずな。」
「どういたしまして。」
そう言うと、ちずなは明るく笑い、平良も照れながら笑い返した。
まだ時々地面が揺れ、建物の破片が落ちてくるけど、手を繋いだまま、ちずなと平良は一階までたどり着いた。
澪と約束した中央の噴水までまだ距離がある事に気づき、ちずなは手を離して、平良にそう聞いた。
「僕は幼馴染を迎えに行かなければならないんですけど、そう言えば、平良さんはどこへ向かってるんですか?」
「えっ、知らなかったのか?ここの地下は避難所と繋がってるんだ。」
「避難所?……あっ、駅と繋がってる場所?」
「そうそう、って、知らなかったつー事は、あんたら!修学旅行で来たのか!」
「はい!そうですけど……?」
ちずなの返事を聞き、平良は慌てて服のポケットの中を漁り始めた。
財布を取り出し、平良は中から一枚名刺サイズのカードを取り出し、安心したように彼はそうちずなに言った。
「これ!この都市の緊急避難所が全部載ってるから、合流したらこれを使って、避難所まで来い!今の俺達はここにいる、ルートはこれ!」
そう説明した後、平良がカードをちずなの方へ渡し、そのカードを見て、ちずなは驚いた声を上げた。
「わかった!って、貰っていいんですか!?」
「ああ、俺達ここの住民はちっちゃい頃から定期的に避難訓練を受けている、だから場所は覚えてるんだ。」
「そうですか。では、暫く借ります!ありがとうございます、平良さん!」
「いいって事さ、じゃあ、避難所で待ってる。」
「はい!」
平良に手を振り、ちずなはそのカードを慎重に胸ポケットに仕舞って、澪との約束の場所へ、ちずなは真っ直ぐに走っていった。
必死でショッピングモールの地図を思い出して、ちずなは中央の大きいな噴水を目指した。
まだ時々地面が揺れ、上から建物の破片が落ちてくるが、澪の事が心配で、ちずなはバッグを頭の上にして、走る足を止めなかった。
けど、噴水へ向かっている途中で、突然女性の悲鳴が聞こえた。
「いやっ!こっち来ないで!」
女性の声を聞き、ちずながその方向へ振り向くと、目の前に映るその光景に、ちずなの動きは止めてしまった。
「きゃあー!いっやあっああっ!」
『落ちてきた物に、変な丸い物あったじゃん、窓にあるやつ。』
「あぐっ、がっはぁっ、っっぁぁ。」
『そいつに俺の友たちが喰われた。』
丸い妙な物体に襲われた女性を見て、ちずなは平良の言葉の意味を理解した。
その丸い物には目など存在しないように見えるが、口みたいな物を大きく開い、中から伸びた無数な糸が、正確に女性に絡みついた。
飲み込まれていく女性を見て、ちずなは拳を握り、何か出来ないかと必死に考えた。
だが、あっという間に女性が丸い物の中へ消えて行き、それを見たちずなは唇を噛み締めて、音を立てないように振り向き、ちずなはまた噴水の方へ走り続けた。
本当の事を言うと、ちずなは声を上げて、澪を探したかった。
しかし、先ほど女性が食べられた光景を見てたら、ちずなはどうしてもそれが出来なかった。
もちろん、引き寄せてしまったら危ないと言う恐怖心はある。
けど、それ以上に、先ほどの光景を澪の目の前で再現させたくない気持ちが強かった。
距離はあったのに、ハッキリとは見えなかったのに、その数十秒だけで、ちずなは形容できないほどの恐怖を味わった。
それをもし澪の前で起こったら、と、そう思うだけで、ちずなは吐きたくなり、思わず涙が出そうになる。
だけど、澪を助けなきゃと言う気持ちに支えられて、ちずなは震える足を無理やり動かし、やっと、ちずなは噴水の前までたどり着いた。
澪の姿を探すために、ちずなは遠慮なく噴水の中に入り、びしょ濡れになりながらも、ちずなは高い台を登った。
額にくっついた前髪を退かし、ちずなは何度も体を回転させて、その目は一階と吹き抜けになったショッピングモールの階層を満遍なく見渡した。
そして、二階から一階へ下るエレベーターを駆け下りる澪の姿を見付け、ちずなは安心した。
が、すぐその後ろに丸い物が追っかけてくる事に気づき、ちずなは噴水の高台から飛び降りて、バランスを崩すも、着地したその瞬間からちずなは走った。
「澪!こっちだ!」
「あっ、ちっ、ちずな、ちゃん!」
自分の方へ走ってくる澪を見て、ちずなは硬い地面にぶつけた痛みを堪えながら、澪へ手を伸ばした。
噴水から出たばかりで、ちずなにとって、ずぶ濡れになった服も少し邪魔だった。
けど、それに負けないように、ちずなは体を限界まで動かし、痛みを訴える体を無視して、ちずなは足に力を入れた。
そして、澪を追って、転がってくる丸い物の前まで、ちずなは飛び出した。
澪を自分の背に庇い、全力を篭った足で、ちずなは丸い物を蹴った。
その一撃を受けて、丸い物は後退する事なく、ただその場で止まった。
効果のない物かとちずなが顔を青ざめると、突然丸い物を蹴った場所が大きく凹み、まるで苦しんでいるかように、丸い物はゴロゴロとのたうち回った。
驚いてちずなが凹んだ場所を見ると、腫れたように膨れ上がっている痕跡に気づき、ちずなは思わずそれを見つめた。
腫れた部分が見事に自分の靴跡になってる事に気づき、ちずなは一つの可能性を思いついて、ちずなは素早くカバンから水筒を取り出した。
そして、水筒の蓋を外して、躊躇せずにちずなは中身を水筒ごと全部丸い物へぶん投げた。
もしそれが人だったら、悲惨な声でも上げているところだったが、蠢く丸い物はただただ凹んでいき、ちずなから距離を取るように逃げていく。
その光景を目にして、ちずなは澪の方へ振り向き、彼女を見て、ちずなは大きな声でそう叫んだ。
「澪!噴水の中に入れッ!奴らは水に弱いッ!」
「わっ、わかった!」
ちずなにそう言われて、澪は急いで噴水の前まで走り、持っているショルダーバッグを置くと、ひょいっと小さく跳ねて、澪は中へ飛び込んだ。
澪が噴水の中に入ったことを確認し、ちずなは丸い物を警戒しながら、投げた水筒を回収した。
近寄ってきたずぶ濡れのちずなが怖いのか、丸い物がまた距離を取った。
けど、同時にちずなもまだ怖く思い、丸い物が離れるのを確認して、ちずなは足を澪の方へ向けた。
自分と同じように全身ずぶ濡れになった澪を見て、ちずなは胸ポケットから平良から貰った避難所が乗せてあるカードを取り出し、その指はあるルートを指した。
「澪、ここは危ないから、地下の避難所へ行くぞ。」
「ひっ、避難所?」
「ああ、ここに来る途中、助けてくれた人が教えてくれたんだ。」
「そこへ行っても、大丈夫、なの?」
「正直分からない。」
素直にそう答えて、ちずなはわずかに戸惑い、けど、怖がってる澪を見て、ちずなは強気に出た。
「けど、少なくともそこに行ったら、他にも人はいる。それに、僕たちはもうあれの弱点を知っている、だから、怖くないんだ。」
「ちずなちゃん……。」
濡れた長髪を耳の後ろまでまとめ、澪はちずなの顔を見て、彼女は仕方なさそうに笑い返した。
「もう、わかったわ。ちずなちゃんと一緒なら、何があっても、私は怖くないの。」
「そうか……。じゃあ、行こうか。」
「うん。」
澪の返事を聞き、ちずなはもう一度噴水の中に入り、ついでに水筒と他に使える容器に水を入れて、澪の手を引いて、二人は地下の避難所へ向かった。
水音をたっぷり含ませた足音を立てながら、ちずなと澪は地下道を走った。
「澪!しゃがめ!」
「ひゃっ!」
丸い物はちずなと澪が出した音に引きつけられたのか、それとも、元々生命反応とかを検知出来たのかがわからない。
けど、避難所へと進んでいる間にも、二人は何回も丸い物を見かけた。
「ちずなちゃん、左!」
「わかってるよ!」
素通りしてくれる分は構わないけど、近づいてくる丸い物と遭遇する度、戦えない澪の代わりに、ちずなは自分の体の一部に水をかけた。
格闘に精通しているわけでもないが、ちずなは濡れた手足を動かし、丸い物を追い払う為に攻撃を続けた。
「頼むから、もう来るな!」
足から伝えるズキズキとした痛みを極力無視し、ちずなは地を踏みしめて、拳で丸い物を殴った。
その間、澪は少し身を隠しながら、一人で戦ってるちずなを見ていた。
澪にとって、見ているだけと言うのは、とても心苦しかった。
けど、何もできないなら、せめて邪魔にならないようにで、澪は周囲への警戒をやめなかった。
近づいてきた丸い物を水で凹ませると、ちずなは澪の手を引いて、二人はその場から離れた。
そうやって、ちずなと澪は、丸い物から必死に逃げ続けていた。
出来るだけ丸い物に近づかない、突然現れたら水を使って、なんとか手足で振り切ってみせた。
息を切らしながらも、ちずなと澪は足を動かし続けて、やっと二人は避難所の近くまでたどり着いた。
丸い物が近くにいない事を確認して、二人が避難所の入口へ向けて、残った力を振り絞り、ちずなと澪は全力で走った。
避難所の表示へ近づいていくと、扉の前には、一人の大人が立っているのが見えてくる。
ちずなと澪の足音に気づいたのか、その人は二人の方へ視線を向けた。
ずぶ濡れになっているちずなと澪を見ると、その人は驚いた顔になり、急いでその人は二人の方へ歩いてきた。
「き、君たち、どうして濡れてるんだ?大丈夫だったか!?」
「ぜー、だ、大丈夫、です、ぜー、濡れているっのは、ぜーっ、丸い物が水に弱いっ、から。」
息が絶え絶えになりながら、ちずなは少し回らなくなった頭で、必死にその質問に答えた。
ちずなの返事を聞き、その人は少し目を丸くした。
まじまじとちずなの姿を見て、何かを思いついたかのように、その人は手を叩いて、ちずなを見ながら、その人はそう話した。
「なるほど、君が平良が言ってた、ちずなくん、だったかな。」
「あっ、はい、僕が、ちずなですっ。あなたは?」
「私?私は平良の……兄の時雨だ、よろしく。」
少し躊躇を感じる時雨の言葉を聞きながら、やっとちずなは息を整えた。
時雨と目を合わせて、ちずなは濡れた前髪を退かし、ちゃんと時雨の目を見て、ちずなはそう返した。
「時雨さんですね、こちらこそ、よろしくお願いします。こちらは幼馴染の澪です。」
「ちずなくんと澪くんだね、さあ、中へ入って。」
そう優しい声で言いながら、時雨は扉を開けて、彼はちずなと澪を避難所の中に入れた。
避難所の中に入ると、扉の裏側に座っていた人は頭を上げた。
先に時雨を見て、そして、彼の後ろにいるずぶ濡れのちずなと澪に気づき、そいつは時雨にそう聞いた。
「この子達、何故濡れてるんだ?」
「水を使って、外の変な物から逃げ切ったんだ、この子達は。」
「水?そんな事が……あ、だから濡れてるんだ。」
「そうだ、どうやら水はかなり大事な物になる、リーダーは?」
「医務室で怪我人の手当をしている。」
そいつの言葉を聞き、時雨は少し考えて、彼はそいつにそう言った。
「じゃあ、水の事も、そして着替えの事もあるし、この子達は私は案内する。」
「分かってるよ、あ、時雨さん、飲み物とか貰っていい?」
「すまない、私のはもうあまり残ってないんだ。」
「そっか、まあ仕方ないが。」
時雨の返事を聞き、そいつは苦笑いをした。
その時、話を聞いていたちずなは自分のリュックを漁り、中から一本のペットボトルのお茶を取り出して、ちずなはそれを差し出した。
「あの、よかったらどうぞ。」
「え?いいのか?」
「大丈夫ですよ、水筒もありますし、それに、外に行くあなたの方が必要かなと思って。」
ちずなの手からお茶を受け取り、そいつは少し苦味の混ざった笑みを浮かびながら、ちずなにそう言った。
「そうか、じゃあ貰うわ、ありがとうな!あえっと。」
「ちずなです。」
「ああ!お前さんが平良ちゃんが言ってた子か、なるほど。俺は譲だ、よろしく。」
「ゆずる、譲さん、よろしくお願いします。」
「おう、って、そっちの嬢ちゃんは……はいはい、人見知りオーラ全開だな、んじゃ、行ってくる。」
ちずなに名乗ったあと、譲はちずなの後ろに隠れた澪に気づき、声を掛けようとした。
けど、頑なに目を合わせようとしない澪を見て、彼は軽く手を振り、ちずながくれたお茶を持って、彼は扉の外へ行った。
扉が閉じたのを見て、ちずなは澪の方へ顔を向けたが、澪が不服そうに膨らんだ頬を見て、ちずなは呆れたようにため息をついた。
澪の目と合わせて、ちずなは手を伸ばし、澪の顔にくっついてる髪の毛を指先で後ろへ直しながら、そう口を開いた。
「澪、知らない人は苦手だってのは知ってるけど、流石に失礼だぞ。」
「だ、だって!」
「それに、時雨さんにだって挨拶も話もしてないよな。」
ちずなに真剣にそう言われて、澪は振り向き、時雨を見た。
何度も口をパクパクさせて、澪は顔を上げて、すごく小さな声で、澪は時雨にそう言った。
「澪、です。……よろしく、お願いします。」
「澪くんだね、私は時雨、よろしく。」
優しく微笑んで、時雨は澪にそう答えた後、少し離れている方の扉を指して、時雨は二人に教えた。
「あの青い扉の中は救護所だ、運のいい事に、医者がいる。……ちずなくん、その足、先生に診てもらいな。」
時雨にそう言われて、澪は驚いたようにちずなを見て、ちずなは複雑な顔で時雨を見返し、少し考えて、ちずなは時雨にそう聞いた。
「いつ気づいたのですか?」
「強いて言えば、私の方へ走ってくる時。」
「それって最初からじゃないですか。」
「そうだな、さあ、救護所へ入ろう、今なら先生も起きているはずだ。」
「分かりました。」
時雨が先に歩くのを見て、ちずなもゆっくりとその後についた。
呆然とした澪は時雨とちずなを見て、少し悔しそうに彼女は下唇を噛み、澪も二人の後について、救護所へ向かった。
青い扉を開けて、中を見た時、時雨は思わず足を止め、彼は急いで時雨と澪を外へ押し出そうとした。
しかし、時雨の手が伸びてくる前に、ちずなは既に時雨の後ろから中の様子を見た。
理由は分からないが、救護所の中に小さな丸い物がコロコロと転がっており、細長い糸のような物が、誰かの首を絞めつけていた。
時雨に道を塞がれる前に、ちずなは反射的に時雨の手を避けて、近くの棚に消毒液がある事に気づき、ちずなはその中のガラス瓶を掴んだ。
そうして体を動いたその瞬間、ちずなの足にまた痛みが走った。
けど、それを堪えて、ちずなは瓶の蓋を開けながら、倒れてる人の方へ走った。
「おい!」
丸い物の注意力を引き付ける為に、ちずなは声を出した。
その時、倒れている人の首を締め付ける糸が止め、丸い物は方向を変えて、それはちずなの方へ向けているように見えた。
一瞬だけちずなは怯んだけど、瓶を握る手に力を入れて、ちずなは瓶の中身を丸い物へぶっかけた。
全体に消毒液を被せられ、丸い物は大きく震え始めた。
まるで痛みを感じるようにもがき、人の首を締めていた糸みたいな物を引っ込めながら、それは萎んでいった。
動かなかなった丸い物を見て、ちずなの体から緊張が解けて、いよいよその足はもう支えられず、ちずなは倒れた。
けど、地面へではなく、誰かに受け止められて、ちずなは少し驚いたように見上げた。
「時雨さん?」
「すまない、本当は君を守ろうとしたけど、逆に君に助けて貰った。」
「あ、いえ、その、ただ助けなきゃと思っただけで、その、気にしないでください。」
「……ありがとう、ちずなくん。」
ゆっくりとちずなを地面に座らせて、時雨は改めて丸い物の状態を観察した。
濡れたせいなのか、人の首を絞めていた糸は力を失い、本体の丸い物へ戻ろうと蠢いた。
けど、消毒液まみれになった本体に近づく事も出来ず、その糸も丸い物自身も凹んでいく。
もしかしたら、水だけではなく、液体だったら、どれでも丸い物を撃退できるではないかと時雨は推測した。
そう時雨が考え込んでいる間に、ちずなは倒れている人に近づき、少し震えた声で、ちずなはその人に話しかけた。
「おい、大丈夫か!おい!返事をして、おい!」
ちずなの声を聞き、倒れた人の体はビクッと何回が跳ねて、そしていきなり大きく咳き込んだ後、その人は勢いよく体を起こした。
「ッハア!死ぬかと思った!」
何度も首を摩りながらその人はふらっと立ち上がり、室内の状況を見て、その人はネコ背になり、面倒くさそうにそう指示を出した。
「時雨さん、あの凹んでる変な物を奥にある汚い水槽の中に突っ込んでおけ、ついでに松葉杖も持ってきて。扉の方の嬢ちゃん、こっちに来なさい。あたしを助けた君、ちょっと待ちなさい。」
戸惑う澪とちずなと違い、時雨は少し怖がりながらも言われた通り手を伸ばして、彼は凹んでる丸い物を摘み、それを奥の方へ持っていった。
時雨の方から視線を外すと、澪はその人からの視線に気づき、彼女はちずなの方へ近寄って、また自分を隠そうとした。
けど、澪が近ついた瞬間、その人はネコ背のまま澪へ歩き、澪の手を掴み、苛立ってるようにその人は澪に言った。
「あのさ、医者の話を聞いたよね?こっちに来いって言ってるの。」
「やっ、やあ!」
「ふっ、嫌ならいい。」
澪の手を放して、その人はちずなの方へ視線を向けた。
そして、ちずなの前で屈んで、その人はちずなにそう聞いた。
「君、えっと。」
「ちずなです。」
「ちずなさん、君はいつ怪我した?」
「えっと、多分二時半くらい。」
「で、無理して走った上で、蹴りとかもした感じだね、じゃなきゃ三十分でこうなるのおかしい。」
「あ、その、はい。」
ちずなの返事を聞き、その人は少し呆れたようにため息をついて、そして、ちずなの足を見て、その人はそう確認した。
「じゃあ、まずは靴を脱ぐけど、自分で脱げる?」
「はい、脱げます。」
「よろしい、なら、靴を脱いたら、あっちのカーテンのあるベッドに行きなさい。もし歩けないなら、あたしが戻るまで待ちなさい。」
「はい、ありがとうございまっうわ!」
まだちずなの言葉が終わってないうちに、何枚ものタオルを投げつけられて、驚きながらもちずなはタオルを捕まえた。
そんなちずなを見て、その人は息を吸い、だるそうな声ではあるが、その人は結構真面目な話をした。
「そうだ、濡れた服を脱ぎなさい。君の場合、風邪と捻挫と他の怪我の合わせ技で熱出す可能性があるからね。」
「その、はい、分かりました。」
「よい、あ、何があったら、古閑って呼びなさい、すぐ駆けつけるから。」
「こが、古閑、先生?」
満足そうに古閑は頷き、少しだけ白衣が揺れ、彼女は違う部屋へ歩いた。
古閑から何枚も投げられてきたタオルを抱えて、ちずなはゆっくりと靴を脱ぎ、一緒に靴下も脱いた。
その間、澪はどうすればいいのかわからず、彼女はぼーとちずなを見ていた。
そして、ちずなはリュックを置き、澪を見て、ちずなは少し恥ずかしそうに澪にそう頼んだ。
「悪いけど、手を貸してくれないか、澪。」
「ふえっ?あ、はい!」
ちずなの声を聞き、慌てて澪は手を伸ばした。
濡れたちずなの体を支えて、澪はカーテンのあるベッドの方へ歩いた。
指定されたベッドにちずなを座らせた時、ちずなが手を伸ばした。
自分の目の前まで差し出されたタオルを見て、澪は少しビックリしたように目を見開き、彼女はちずなを見返した。
すると、ちずなは呆れたように笑い、まだ濡れている澪を見て、ちずなはそう言った。
「あのな、お前だって濡れてるじゃん?だったらこれで体を拭け。」
「え、でも……。」
「と言うかさ、澪、お前古閑先生が苦手だろう?だったら、世話にならないように、自分の体を大事にしなよ。」
「そ、それも、そうね。」
ちずなにそう言われて、澪は渋々タオルを受け取り、彼女も自分の体を拭き始めた。
澪が髪を拭いてるのを見て、ちずなは手を伸ばし、ベッドの横にあるカーテンを閉めた。
ゆっくりとちずなは濡れたジーンズとシャツを脱ぎ、ちょっとだけ迷った後、ちずなは下着も脱ぎ、ベッドの中に潜った。
カーテンの外の澪は物音を聞き、少しだけ苦笑いをして、彼女は隣の椅子を引っ張って、のんびりと澪は自分の長髪を乾かしていた。
しばらくして、古閑は二人分の服を抱えて、彼女は真っ直ぐカーテンが閉めたベッドの方へ歩き、澪を見て、古閑はそう話した。
「はい、二人の着替えを持ってきたわよ、サイズが合わなかったら言いなさい。あ、そうだ、君、名前は?」
「み、みお、です。」
「水に零で澪かな、まあいいわ。君とちずなさんの濡れた服、洗ってきてもらえる?」
「えっ、そ、その……。」
「洗濯機はあっち、今のうちに洗っとかないと、他の人と混ぜて洗うことになるがいいの?」
「それは嫌です!」
そう答えると、澪は古閑から服を受け取り、彼女は恥ずかしがる事なく、素早く着替えを済ました。
そして、自分とちずなが着替えた服を抱えて、澪はどこか不機嫌そうに古閑を見た後、洗濯機のある方向へと歩いていた。
澪の背を見送り、古閑は呆れたように息を吐き、彼女はカーテンの向こうからちずなにそう聞いた。
「で、ちずなさん、入っていい?」
「はい、どうぞ。」
静かにカーテンを開けて、古閑はちずなに服を渡した後、横の椅子を引っ張り、彼女はちずなにそう聞いた。
「先に体の様子見ていい?怪我してる場所、足だけじゃないよね。」
「そう、ですね、分かりました。」
少し迷ったけど、ちずなは素直に頷き、古閑はそれを返事と取り、シーツを持ち上げた。
裸のちずなの体を見て、古閑は所々残る鬱血と擦りむいた傷を観察し、彼女は一回カーテンの外を出た。
棚の方から必要な物を取り、古閑が再びカーテンの中に入ろうとした時、彼女は戻ってきた時雨と他の人に気づき、少し考えて、古閑は中にいるちずなにそう言った。
「ちずなさん、カーテン越しでいいから、少し話に付き合ってもらうよ。」
「え、話って、何の話ですか?」
「君と澪さんはどうやって無事ここまで来た話、になるかな。」
「そう、ですか、分かりました。」
ちずなの返事を聞き、古閑は少し眉間にしわを寄せながら振り向き、彼女は他の人を見て、敵意を明らかにした古閑は口を開いた。
「本当は病人じゃないなら、感染の可能性があるから、一刻も早く出て欲しいが、なんせ重要な証人は怪我して出られないからね、速やかに話を終わらせるように。」
他の人がこくこくと頷いているのを見て、古閑はカーテンの中に入り、時雨は中を見ないように松葉杖を渡した後、見張るように時雨はカーテンの外に立った。
そんな時雨に気づき、古閑は少し咳払いをして、彼女はちずなにそう言った。
「という訳で、思い出せる範囲でいいから、君と澪さんはどうやってここに来れたのを、話してみなさい。」
「じゃあ、ショッピングモールの所から話す事になりますが、まずは……。」
出来るだけ落ち着いて、ちずなは口を開いた。
古閑の手当てを受けながら、ちずなはモールで平良と出会った事、噴水で丸い物から逃げられた事、そして、ついさっき凹ませた丸い物の事を、ちずなは話した。
その話を聞き、他の人がざわついてる時、時雨は咳払いをして、彼はそう言った。
「実際、私もちずなくんが丸い物を無力化したところを見た、水、そして消毒液、もしかしたら、液体に弱いと推測できるではないか。」
「いや、しかし……。」
「子供の言葉だから信じられない?それとも私の言葉だから信じられない?」
時雨の低い声をカーテン越しで聞き、ちずなは少し驚いた。
けど、古閑はこっそり指を唇に当てて、最後の手当を終わらせて、古閑はカーテンの外へ出た。
「信じられないなら、私の首筋を見なさい。これ、あの変な丸い物にやられた跡なんだ。」
「うそ!?」「どうやって入り込んでいたのだ!」
「あんたらが『確認しなくていい』と言った金田のおじいさんの荷物に紛れていたよ。」
その言葉が終わる途端、突然地面が強く揺れ始めて、何かが倒れたような、巨大な物音がした。
他の人かが慌てている時、古閑は苛立ったように舌打ちをして、彼女は今まで一番大きな声を出した。
「時雨!洗濯ルームにいる澪さんを任せた!ちずなさん、危なかったらベッドかサイドボードの影に隠れなさい!ほらお前らってもういない!」
古閑の言葉を聞かずに、パニクっている人たちは慌てて外へ逃げて行き、古閑はキレそうになるのを堪えて、彼女は言葉を続けた。
「もうこうなったら仕方がない、時雨!澪と合流したら、洗濯機から出る廃水を出来るだけ集めてここに来い。危なかったら、自分たちの体に被りなさい!」
「わ、分かった、けど、君は?」
「あたしには消毒液とアルコールがある、最悪の場合、焼いてみようと思うの。」
「出来るだけ無理しないでくれ、古閑。」
「あんたもね。そうだ、ちずなさん。」
思い出したかのように古閑はカーテンの中へ一台のスマホを渡し、彼女はちずなの顔を見て、少し苦い笑いをしながら古閑は言った。
「もし状況が危なかったら、これを鳴らすから、その時、時雨やここに逃げ込んだ人たちと一緒に奥の道を使って、別の避難所へ移動しなさい。」
「えっ、古閑先生!?」
「まあ、もしかしたら、一番怖いのは丸い物ではなく、人かもしれないわね。」
「待って、古閑先生!」
離れていく古閑の声を聞き、慌ててちずなはカーテンを開いたが、その時、古閑は既に救護所から出て行った。
周りを見渡すと、時雨も澪を迎えに行ってしまって、救護所にはちずなしかいなかった。
慌ててちずなは貰った服を着て、体を起こして、ちずなは古閑を追おうとした。
けど、焦りすぎたせいで、うっかりシーツに足を絡ませて、ちずなは横のベッド体をぶつけた。
あまりの激痛にちずなは悶絶し、今まで耐えてきた痛みと疲れも相まって、ちずなは気を失った。
再びちずなが目を覚めると、その隣に、泣きそうな平良と澪の姿が見えた。
声を出さないまま、ゆっくりと両手を伸ばして、ちずなは体を起こした。
その時、平良も澪もちずなの目覚めに気づき、二人はすぐに嬉しそうな声を上げた。
「良かった、あんたが無事で!」
「もう!ちずなちゃん、私、心配してたんだからね!」
二人の反応を見て、ちずなは少し戸惑ったが、古閑からもらったスマホの事を思い出して、ちずなはそれを取り出した。
今の時間を確認すると、既に日付が変わり、ちずなは自分が半日以上寝ていた事を理解した。
地下にいるせいで、朝になっても、太陽は見えなかった。
それでも、ちずなは懸命に周りを見渡し、電灯に照らされた室内を、ちずなはしっかり見ていた。
救護所の中はいつの間にか他にも人が増えて、その大半は自分と同じようにベッドに横たわり、もう半分の人はタオルや毛布を被って、床で寝ている。
もう少し周りを見ておこうとちずなは思っていたが、平良たちの声に気づいて、時雨は歩いてきた。
「ちずなくん!良かった、無事で、ベッドに倒れたのを見た時、すごく驚いたからな。」
「す、すみません。」
「謝らないでくれ、疲れもあったし、怖かったはずなのに、話をさせてしまって、その上、一人にしてしまって……。」
「いえいえ、むしろ色々助けてもらってたし、あの、先生は?」
時雨の口から話という単語を聞き、ちずなは古閑の事を思い出して、頭を左右に動かし、ちずなは古閑の姿を探した。
ちずなの行動に気づき、時雨は苦笑いしながら、少し離れてる場所へ彼は指さした。
少し体を動かし、ちずなが示された場所を見てみたら、怒ってるように、誰かの腕に包帯を巻いてる古閑の姿が見えた。
その光景を見て、ちずなは安心したように息を吐き、その時、また痛みを感じ、仕方なさそうにちずなは横になった。
不本意ながらも、大人しくするしかないと言うちずなの顔を見て、三人は一度笑った。
けど、互いが顔を合わせると、すぐに表情がまた重くなり、そこで時雨は息を吸い、彼は口を開いた。
「ここは私が話すべきかもしれないな。二人とも、少しの間、古閑の手伝いをして欲しい。」
時雨にそう言われた時、平良も澪も、ちずなから離れたくなさそうな顔をしていた。
けど、時雨の顔を見て、二人は仕方なさそうに立ち上がり、大人しく古閑の方へ行った。
平良と澪を見送りながらも、ちずなは時雨は大事な事を伝えるつもりだと理解し、そこで、ちずなはもう一度体を起こそうとした。
けど、すぐに時雨が手を伸ばし、彼は起き上がろうとするちずなの肩を優しく抑えた。
ちずなの顔を見て、時雨は一瞬迷った。
それでも、一度深呼吸をして、覚悟を決めた時雨はちずなにそう教えた。
「実は、ちずなくんと澪くんがここに来るまで、避難所には六十人くらいいた。」
「……何が、あったのですか?」
「簡単に言うと、ここに丸い物、とりあえず仮に玉と呼ぶけど、その玉が、入っていた。」
「金田と言う人の荷物に混ぜた、でしたか?」
「それもあるけど、地震の時、どこかの通風口が崩れたせいで、そこから玉が入ってきた。」
そう話しながら、時雨はスマホを取り出して、ちずなに写真を見せながら、時雨は説明を続けた。
「もう原因を突き止めたから、玉が入ってくる心配はなくなったが……その玉に、たくさんの人が食べられた。」
「そう、か。」
「ああ、君と平良が言った通りの光景だった……。」
時雨の言葉を聞き、ちずなはショッピングモールで経験した女性が食われた時の事をお思い出した。
目を見開き、ちずなが時雨を見ていると、時雨は大きく頭を横に振り、彼はちずなにそう教えた。
「だから、今のこの避難所には、君たちも含めて、二十人くらいしかいない、動ける人となると、もうちょっと少ない。」
かなりショックな事実を聞いたけど、時雨の顔を見て、ちずなはその話がまだ終わってない事に気づいた。
少し考えて、ちずなは口を閉じて、静かに、ちずなは時雨を待った。
時雨もちずなの反応を待ったけど、ちずなの決意に満ちた顔を見て、受け入れる覚悟が出来ていたんだと、時雨は理解した。
もう一度深呼吸をして、時雨はちずなと目を合わせ、真剣な声で、時雨は話した。
「実は私たちは別の避難所へ行こうと考えている、そこの設備はここよりずっといいからな。」
「移動した方がいいのですか?」
「ああ、いつかまた地震で玉が入ってくるとはわからないからな。」
「なるほど、それで、いつ出発するんですか?」
単刀直入にそう聞いたちずなを見て、時雨は開けた口を閉じ、スマホのメモを確認したあと、時雨はそう答えた。
「古閑の話によると、全員の調子が戻るまで移動できないから、少なくとも一ヶ月は必要だそうだ。」
「なら、もしかしたら、何か仕事分けとかが、そういうのが必要ですか?」
「……思ってはいたけど、君はなかなか鋭い子だね。」
思わず時雨はため息をつき、スマホを閉じた彼は少し寂しそうに目を伏せて、ひと呼吸の間が空いた後、時雨はちずなにそう言った。
「簡単に言うと、食事と治療は出来る人がメインでそれらを担当し、一部の人を除いて、みんなで洗濯、掃除、と、見回りを交代でやっていく。」
前半の部分は迷いなく言えたのに、何故後半の部分で時雨が言い淀むのか、今の状況を考えると、ちずなはなんとなく察しがついた。
見回り、それはつまり、玉への警戒。
そして、それは万が一の時、玉を対処する事になると予測される。
「でも、ちずなくんは怪我人だから、今は回復に専念……しないで欲しい気もする。」
「……えっ、え!?」
予想外の言葉にちずなは声をこぼしたが、時雨の悲しそうな顔を見て、ちずなは口を閉じた。
真っ直ぐに時雨はちずなを見つめて、そして、ちずなの頭を撫でた後、彼はちずなにそう言った。
「君は平良に似ている。何かを諦めて、何かを背負い込もうとしている。そのせいで、自分自身を大事にできない。」
「時雨さん……。」
「ちずなくん、どうか、自分を大事にして。」
時雨の質問に、ちずなは少しだけ真剣に考えた。
けど、しばらくしたら、ちずなは苦笑いで時雨にそう答えた。
「すまないけど、僕には、自分を大事にすると言うのはなんなのか、全くわかりません。」
「ちずな、くん?」
「僕にはわからないんです。誰かに何を言われたから、誰かを助けたわけじゃないのに、どうしてこれが自分を大事にしない事になるのか、僕にはわかりません。」
「そうか、ちずなくんには、わからないのか。」
「だって、僕はただ出来る事をしただけですから。」
「そう、なのか、なかなか損する性格だな、君も。」
ちずなが仕方なさそうに笑ったのを見て、時雨は諦めたように頭を横に振り、深くため息をついた後、時雨はちずなにそう聞いた。
「だったら、私の聞くべき事はこうだな。……ちずなくん、料理、洗濯、掃除、君はどれなら出来る?」
「全部出来ますよ。」
「ほう、それは助かる、今食事班にいるのは私と他二人しかいないんだ、それに私だってあまり得意ではない。」
「あれ?澪は食事班じゃないのか?」
「ん?澪くんも料理が得意なのか?」
時雨にそう聞かれて、ちずなは驚いたように目を見開き、ほぼ反射的にちずなは時雨にそう聞き返した。
けど、少し考えた後、澪が人見知りである事を思い出して、ちずなは時雨にそう話した。
「あー、すみません、気のせいだったかもしれません、先の話は聞かなかった事にしてください。」
「ま、まあ、誤解とか誰にもあるからな、分かった。であれば……。」
そうつぶやきながら、時雨は一度ポケットに手を入れた、彼はスマホを取り出した。
スマホのアプリを開けて、時雨は振り分け表を確認した後、彼はちずなにそう話した。
「古閑の話によると、君の足は二週間くらいで治る。だから、それまでは食事だけに専念して、治ったら、少しずつでいいから、見回りを手伝って欲しい。」
「分かりました、ちなみにみんなは?」
「そうだな、一応説明しとくか。」
そう言って、時雨は少しだけ椅子を動かし、ちずながスマホの画面を見れるように移動した後、時雨は説明を始めた。
「古閑はあの通り医者だからな、彼女と他二人の医学生が治療班、ちなみにリーダーは古閑だ。あと、治療班が倒れるとほぼ全員に被害が出るから、彼女たちだけ他の役割分担はない。」
「まあ、確かに、治療出来る人を外に出せませんよね。」
「とは言え、緊急時なら、古閑たちの負担が一番大きい……と、君ならわかってるか。」
失敗したなと少し照れたように笑い、時雨は次の振り分けへ進み、彼はまた説明を続けた。
「次に食事班だな、君と私と、あと定食屋のお兄さんと大学生の女の子だ。ある意味こっちの方も生命線に直結しているから、他の担当は自由に選べられる。」
「治療班はしないんですか?」
「衛生管理もあるから、時々参加するとの事だそうだ。そして、現状料理はそのお兄さんが一人で回している状態だから、少しでも協力してくれたら助かる。」
「分かりました、では、ここでできる準備があれば言ってください、手伝いますので。」
「おお、それは助かるな。分かった、彼に伝えておくよ。」
本当にホっとしたように笑い、時雨は別の振り分け表を開いて、さっと内容を確認したあと、時雨はちずなにそう話した。
「ええと、洗濯と掃除なんだけど、洗濯の方が重労働だから、基本は男性が担当しているが、下着などの個人的な物は、自分で洗うようにお願いしている。」
真顔で時雨はそう言ったが、段々とその顔が赤くなり、そんな時雨を見て、慌ててちずなはフォローを入れた。
「そ、それもそうですね、かなり大事です、グッジョブ時雨さん。」
「あ、あはは、ありがとう、ちずなくん。あ、そうだった、干す場所も分けているので、後で教えるよ。」
「はい、分かりました!」
「で、掃除なら、毎日する場所と時々する場所があるから、あとで確認してくれ。」
「了解です。」
ちずなの返事を聞き、時雨は一度微笑みで返して、そして、スマホの画面へ視線を落とし、時雨の目が変わった。
それまでの空気は穏やかなものだったのに、見回りの表が時雨の目に入った瞬間、彼を纏う空気が一気に変わった。
深く眉間にしわを寄せて、時雨は見回りの表を開くと同時に、その一番上に、既にちずなの名前があった。
時雨の顔を見て、ちずなは仕方なさそうに息をつき、少し考えた後、ちずなはそう言った。
「そう言えば、二十人くらいだって言われましたが、表との数が合いませんね。」
「はあ……そこに気づくか。」
大きくため息を吐き、時雨の声は落ち着こうとしていたが、それでも、時雨の声は震えていた。
担当の振り分け表のファイルを一ページ目に戻し、それをちずなに渡した後、時雨は拳を握り、彼は悔しそうに言った。
「すまない、君は怪我しているのに、あいつらは君が外の人だからって、だからって……。」
「あー、そういう事か。」
改めてちずなが振り分け表を見ると、確かに見回りの分担だけが、極端に偏っている。
若い子だけというのも不思議だし、何より、気絶する前に聞いた金田という苗字は、どこにも入ってなかった。
持っているスマホを時雨に返して、ちずなは天井を見上げ、少しだけ、ちずなは真剣に考えた。
避難所という場所は初めて来たけど、書籍やテレビで見た話では、地元の人間は外から来た人に好感を抱かないとよく描写される。
むしろ、今のように、時雨や古閑が助けてくれる事自体が、とてつもなく幸運だったのかもしれない。
そう思うと、ちずなは時雨の方へ顔を向き、かなり真面目な声で、ちずなはそう言った。
「まあ、ここで暮らすための代金と考えれば、まあまあ安いし、それに、見回りだって、何かが起こるわけではないでしょう?」
「……君は本当にそれにいいのか?」
時雨にそう聞かれて、ちずなは時雨と目を合わせた。
心配そうな時雨の顔を見ていると、ちずなはニヒルな笑みを顔に浮かべて、深呼吸をした後、ちずなは時雨にそう答えた。
「だって、帰る事も出来ませんし、ここで生活するしかない以上、受け入れなければ、何も始まりません、そうでしょう?」
ちずなの顔とその真剣な目を見つめて、時雨は一瞬だけ言葉を失った。
少しだけ時雨はちずなの目から視線を逸らし、彼は項垂れたけど、考えていると、思わず時雨はそう言葉をこぼした。
「君は、強いんだね。」
「違いますよ、僕はただ、今できる事をやるだけですよ。」
「それができる事自体が、とても強いよ。」
「そう、ですか?……ありがとうございます。」
そう言って、ちずなが照れたように笑ったのを見て、時雨は突然顔を覆った。
何度も時雨は深呼吸を続けたが、何もできない事と、子供にまで責任を背負わされる事実に、時雨は耐えられないようだった。
時雨は頭を何度も振って、そして椅子から離れて、時雨はちずなの前で跪いた。
突然な行動にちずなは驚いたが、時雨が泣いてる事に気づき、ちずなは慌ててしまった。
どうして時雨が泣いてるのか、ちずなには全くわからなかった。
けど、なんとなくだけど、時雨は今自分の事で悩んでいるだろうと、ちずなはそう思った。
ゆっくりとちずなは手を伸ばし、時雨の震える肩に触れて、ちずなはそう言った。
「時雨さん、色々考えてくれて、本当にありがとうございます。」
「ちっ、ちずな、くんっ。」
「僕なら平気ですよ、こういう事も、ある意味慣れてますし。」
「ちずなっくん、それは、慣れちゃいけないっ事だ。」
時雨の言葉を聞いた瞬間、自分を良くしてくれなかった家族を思い出して、少しだけちずなは泣きたくなった。
けど、それをぐっと堪えて、笑顔を作りながら、ちずなはそう時雨に答えた。
「そう言ってくれて、ありがとうございます、時雨さん。でも、僕は大丈夫です。」
ちずなの声を聞き、まだ泣きそうな顔をしている時雨を見て、自然とちずなは手を伸ばして、時雨の手を握った。
そして、時雨を自分の腕で抱きとめて、どこか呆れたような声で、ちずなは時雨にそう言った。
「僕からしてみれば、時雨さんの方こそ、もっと休んで、もっと自分を大事にするべきだと思いますよ。」
まさかちずなに背中を撫でられるとは、時雨は思いもしなかった。
少し驚いたけど、段々と時雨は落ち着き、何回か深呼吸を繰り返したあと、時雨はちずなの顔を見た。
目と目が合い、ちずなの優しい視線に気づき、時雨は少し照れたように笑った。
少しちずなから離れて、恥ずかしそうに頭を下げながら、時雨はちずなにそう言った。
「すまない、私の方がお兄さんなのに、ちずなくんに助けられたな。」
「いえいえ!困った時はお互い様って言うし、気にしないでください!」
頭を下げられるとは思わなくて、慌ててちずなはそう返した。
ちずなにそう言われて、時雨は狼狽えられると思わず、ちょっとだけ時雨は固まった。
けど、話も大体終わり、他にもやる事があるから、時雨はゆっくり立ち上がり、深呼吸をして、彼はスマホを握り締めた。
やはりどこか痛々しいちずなの姿を見て、時雨は口を開き、決意に満ちた声で、彼はちずなにそう言った。
「ちずなくんはもう少し休みなさい、古閑の言うように、あと三週間は必要なはずだ。」
「えちょっえ?」
「いくら外地の人だからと言って、治療が必要な期間に動かしていいはずがない、攻めるのなら、体裁を大事にする奴はきっと……。」
「あの、もしもーし?」
「ッハ!ええと、私は他の仕事をしてくるから、ちずなくんはゆっくり休んでね。」
急いでちずなから離れて、どっかへ行ってしまった時雨を見送り、ちずなは固まっていた。
一体これからはどうなってしまうのか、ちずなには分からない。
けど、再びベッドに体を預けて、天井を眺めているうちに、ちずなは眠りについた。
そのベッドの近くの物陰に隠れて、平良と澪は気まずい顔のまま、お互いを見ていた。
古閑に言われた事が終わり、ちずなと時雨がどういう状況なのか気になって、二人はこっそり二人の近くまで身を隠した。
カーテンと距離があるせいで、時雨とちずなの話の内容は、そんなにハッキリ聞こえてこなかった。
けど、時雨が泣いてる事と時々伝わる二人の言葉を聞き、平良は拳を握って、彼はそう呟いた。
「クソ、やっぱ俺じゃあ兄貴の役に立てねえのか。」
「ちずなちゃんは強いんだからね、そりゃ誰にでも頼られるわ。」
「はあ!?」
澪にそう言われて、平良は思わず目を見開き、少し怒ったように彼は澪を見た。
けど、平良と目を合わさず、澪はただスカートを握り締めて、悔しそうに彼女はそう言った。
「私だって、ちずなちゃんの役に立ちたいのに。」
澪の言葉を聞き、平良は少しだけ首を傾げた。
そして、澪の顔を観察した後、平良は澪に直球な質問を投げた。
「最初からずっと思っていたけどさ、お前、ちずなのなんなの?」
平良の質問を聞いて、思わず澪は激怒した。
細い澪の体が震えて、平良の顔を見上げると、澪はちずなを起こさないほどの声で平良にそう言った。
「ちずなちゃんを呼び捨てるなんて!あなたこそちずなちゃんのなによ!?簡単に呼び捨てにしないで!」
「ちずなが呼び捨てでいいって言ったんだ、文句なんの!?」
「っく、ちずなちゃんがそう言ったのなら、仕方がない。」
一度澪は心底悔しそうに下唇を噛み、彼女はそう言ったが、すぐに澪は両手を組み、彼女は平良にそう言った。
「でも、覚えてなさい!私だけがちずなの親友だからね!」
「はあ!?ガキかお前は!てか俺だってちずなと親友になれるし。」
「なーに!?」
「やんのか!?いたっ!」
「痛い!」
そう平良と澪が喧嘩していると、二人の頭は誰かの拳に殴られた。
痛いと声を上げた後、ゆっくりと二人が顔を上げて、そこには、無表情に仁王立ちしている古閑の姿があった。
怒っている古閑の顔を見て、平良と澪は体を震わせたが、古閑はただニコッと笑い、手を伸ばして、古閑は二人の襟を掴んだ。
そして、平良と澪を引っ張りながら、静かな怒りを燃やしながら、古閑はそう話した。
「病人の近くで喧嘩する程の馬鹿だったとは思わんかったが、どうやら違ったらしいな、さって、次は何を手伝って貰おうかのう。」
「先生、本当にごめんなさい!」
「私も悪かったから、包帯交換の手伝いだけは嫌ですぅぅ!」
「ふーん、ちょっと考えてやらんでもない。」
一瞬で青ざめた平良と澪を見て、古閑は悪そうな顔で笑った。
そして、その場から離れる前に、彼女はもう一度だけちずなのベッドの方へ目を向いた。
カーテンの向こうで、起こされることなく、ちゃんと寝ているちずなのシルエットを見て、古閑を小さく息をついた。
安心したあと、両手で平良と澪を引っ張って、古閑は二人を薬品保管庫まで案内した。
「では、ひと仕事をして貰おうではないか。」
『いやあああああーー!!』
まだ普通に騒いていた少年少女達は知らなかった。
地球と呼ばれている世界は着実に破滅な道へ辿り、未来への道も段々と暗くなっていく。
しかし、そんな絶望的な未来も、もうすぐで変われるチャンスを迎える。
そう、それは全ての始まりで、奇跡な出会いだった。