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異世界文化倶楽部  作者: 海布賀麻布朗
第1章
6/7

その5

 部屋に入ると戌井は一番奥のベットに横たわり、光輝は部屋の中をいろいろと見て回っている様だったが、ふたりが部屋に入ると中断して声を掛けた。

 「お疲れ。どうなった?」

 と簡潔に尋ねる。

 学は空いているベッドに座り光輝たちが部屋に入ってからの事をかいつまんで説明した。そして、最後に感じた不安も口にした。

 「何処だか解らない世界でひとりにしちゃって大丈夫かな、って」

 そう言われて光輝は考え込む。

 「まぁ心配ではあるが・・・しかし、要人であるカタリーナさんと一緒の方が警護もあるだろうし安全な事は確かじゃないか?我々と一緒にいたところで安全に関してはね。それに・・・」

 と言いながら戌井を見て

 「彼女は戌井の次くらいに逞しいんじゃないか?」

 そう言って笑う。

 身長191cmで体重は100kgを超えるという大柄でマッチョな戌井だが運動部にも入っておらず、みんなと一緒にいるのが不思議なくらいだ。

 「いや、彼女の図太さというか肝の据わり方には敵わんよ。」

 戌井はそう言ってから、珠恵がこの世界に来てすぐにひとりで弁当を喰って寝ていたという事を話す。

 「・・・それは凄いな。」

 学が驚いた様な感心した様につぶやく。

 「それなら安心できそうじゃないか。いろいろと機転も利くようだし、余程の事でもなければトラブルが起きてもなんとかしてくれるだろう。」

 「やー、全くすごいね。教室では寝てるか何か食べてるかしか見た事が無かったけどやるもんだねえ。」

 光輝とローゼンベルクがそう言うので、学も納得した様だ。

 「それよりも[かがく]、あのライトを見てくれ。」

 そう言って光輝は部屋の隅に点ってる灯りを指差す。

 「ライト?」

 学はベッドから降りて近くの灯りのそばに行って見てみる。

 10cm四方くらいの板が上辺と下辺にありその間の四隅に細い板が柱のように立てられている。高さは20cmくらいだろうか。下辺の板の真ん中に金属の棒が立てられており、下から1/3くらいの位置に直径5cmくらいの受け皿の様な物がある。その受け皿に何か光るものがある。 

 「これは・・・石?」

 「その石、触ってみな。」

 学の疑問に光輝がそう答える。

 (それほど明るく無いとは言え光っているからにはそれなりに熱を持っているんじゃないか?)

 そんな事を考えたが、光輝が触ってみろと言うからには何かあるのだろう。学は光を直視しないように気を付けながらそっと手を伸ばす。

 石に触れるか触れないかくらいのところで一旦止めて温度を確かめる。

 (ちょっと暖かいってくらい?)

 火傷の恐れが無いのを確認したので思い切って触ってみる。

 「あったかいっていう程度だね。」

 触った時に動いたので固定はしていないのだろう、学は手に取って握ったりしながらいろいろ確認している。

 「触媒とかがあるんじゃなくて石そのものが発光しているのか。これだけの明るさがあるのに熱はそれほど発生していないね。」

 「な。なんか凄いだろう。地球には無い、俺たちには理解出来ない力が働いているのかも知れないな。」

 そんな話をしていると、不意にドアがノックされた。丁度立っていた学がドアを開けるとそこにはセルエト隊長が単語カードを持って立っていた。

 『Inn』『Guide』

 これはさすがに学でも解った。

 「セルエトさんが宿を案内してくれるみたいだよ。」

 部屋の中に向かっていう。その間にセルエトは隣の部屋のドアをノックし、同じ様に中の面々にカードを示している。

 両方の部屋からゾロゾロと廊下に出て来ている一同の人数を確認したセルエトは、まず廊下の奥の部屋の方に向かった。

 学たちが部屋の前まで行くと、奥の部屋はドアが取り外され中にふたりの兵士が待機していた。セルエトと学たちを見ると敬礼をする。

 セルエトは部屋を指さしてから腰の剣を少し持ち上げる様にして示してから指を2本立てる。

 「この部屋にはふたりが待機しているって事かな?」

 光輝が身振りを見てそう解釈する。

 それからセルエトは廊下の入り口の方に向かう様にと、やはり身振りで示す。廊下の一番手前の部屋もやはりドアが外されていて、中には兵士がひとり立っている。セルエトは部屋に入りその兵士と自分とを指差して先ほどと同じ様に剣を持ち上げ指を2本立てた。こちらの兵士も敬礼をする。

 そして、部屋の中からドアの外を指差す。振り返ってそちらを見ると階段を昇った辺りにひとりの兵士が立っていて、一同が振り返ったのを見るとやはり敬礼をする。

 それからセルエトはカードを取り出して一同に見せる。

 『Tell』『We』『Emergency』

 「緊急時には彼らに伝えろって事か。」

 光輝が『We』は『Us』の事だろうと判断してつぶやく。

 先ほどローゼンベルクが使ったままテーブルの上に置いてあった『Yes』のカードを学が取ってセルエトに見せる。

 セルエトはそれを見て敬礼する。そしてそのまま部屋を出て階段の方へと向かい、付いてくるようにと身振りで示す。

 セルエトに付いて階段を降り、Uターンしてそのまま階段の下の方に進むとドアがあった。ドアを抜けるとそこはもう建物の外で広場の様になっている。そろそろ陽が落ちようという薄暮の広がる中に簡素な建物が建っている。セルエトはその建物に向かって歩き出し、一同を連れてその建物の中に入る。

 中は少し広めの板の間になっていて、真ん中に低めのテーブルが置いてあり簡単なベンチの様な物もあった。

 「なんか銭湯の脱衣所みたいだな。」

 戌井が建物の中を見てそんなことをつぶやく。

 「やー、銭湯ってこんな感じなのか。」

 ローゼンベルクが喜んでそんな事をいうが、他の面々も銭湯に行った経験は無い。が、修学旅行などで泊まった宿の風呂がこんな感じだったとの記憶はある。

 セルエトはそこを通り過ぎて左手のドアを開けて仕切られた場所へと一同を案内する。

 「此処はトイレかな?」

 学が左右に4つずつ並んだ個室を見て言う。セルエトが右の手前の個室を開けると、やはりトイレのようだった。

 「そう言えば宿にはトイレが無かったな。此処に共同のトイレと風呂があるって事かもな。」

 光輝が言う。そして振り向いて話しかける。

 「最初に入った建物にトイレはあったろう?」

 問いかけられたのは山本と南だ。彼らは食事の前の休憩時にトイレに行ってたのだ。

 「う、うん、ここよりは少しきれいだったけど、だいたい同じ感じだったよ。」

 南がそう答える。

 「そうか、ありがとう。」

 光輝はそう答えて個室のひとつを開ける。中には木組みの四角い便座の様な物がある。

 (さすがに水洗ではないだろうけど汲み取りという感じでも無さそうだな。まあ、あとで確認するか。)

 そう考えて個室のドアを閉める。

 セルエトは元の脱衣場の様なところに戻って別の扉を開ける。そこは湿気の籠もった空間になっていた。2m間隔くらいで上から紐がさがっている。セルエトが少し離れた位置から手を伸ばして紐を引くと上から水が落ちてきた。いや、お湯の様だ。

 「なんかシャワーみたいだな。」

 上野がそんな事を言う。

 「あの高さに水なりお湯なりを上げる事は出来るのか。」

 光輝は別の視点から感想を言う。

 セルエトはまた脱衣場の方に戻った。そこには先ほど宿の入り口で一同を出迎えた壮年の男ともうひとり若い男がおり、なにかを運び込んでテーブルの上に置いていた。

 「着替え?」

 学が確認すると、おそらく人数分用意されたそれはこの世界の衣服の様だった。

 「そういえばずっとジャージのままだったな。」

 戌井がそう言う通り、山に途中まで登りその後雨に降られている。ジャージは自然に乾いてしまったが中の体操着や下着などは乾ききっていない。

 「よし、ひとっ風呂浴びて着替えるか。」

 戌井はそう言って着ている物を脱ぎ始めた。

 「やー、いいね。日本に来てまだ銭湯には行ってないけどこんなところで体験できるなんてね。」

 「いや、銭湯なら湯船があるけどな。」

 戌井とローゼンベルクはそんな事を話しながら服を脱いだ。そして先ほどのシャワーの様な物がある部屋に入っていった。

 他のみんなもおずおずと服を脱いでふたりに続く。

 そんな中、光輝は用意された着替えを確認していた。

 (麻っぽいけどちょっと違う感じだな。下穿きにパンツにシャツ、構成はあまり変わらないか。)

 ひと通り確認してから光輝も続く。ドアの脇に若い方の男が居て何かを渡される。

 「へちま?」

 光輝は渡された繊維質のものを確認する。先に入った戌井らを見ると渡されたへちまの様な物で身体を洗っている。しかし、石鹸などは無い様だ。

 光輝は紐を引っ張って落ちてくる湯をかぶり、それから渡されたヘチマの様な繊維質の固まりで身体をこする。それからもう一度湯をかぶる。光輝はシャワー派なのでこれで充分だが、湯船に浸かりたい派にはちょっと物足りないだろう。

 一番最後に入った光輝が一番最初に脱衣所に戻っていった。また件の男からタオルの様な物を渡される。タオル地の様なものでなく普通の綿っぽい布だったが、身体を拭くには充分だった。

 身体を拭いてから着替えを手に取る。下穿きは一枚の布の両端に紐が付いたものであった。

 (なんかふんどしみたいだな。)

 そしてゆったりとした七歩丈くらいの長さのパンツを履く。これも腰より少し上の辺りで紐で結ぶ様になっていた。最後にシャツを手に取って着てみると、ただ四角い布を首の位置と腕の位置を残して縫い合わせた筒型におざなりで袖を付けたようなシンプルな物で、腰より少し長いくらいの丈だった。

 「やー、Tシャツというかチュニックだね。」

 戻って来たローゼンベルクが光輝を見て言う。

 「なるほど、そんな言い方するものもあったな。」

 光輝は着ている物のアチコチを引っ張ったりして確認しながらいう。

 「簡単な物だし部屋着ってとこだろうな。」

 兵士とカタリーナたち以外には宿の人間くらいしか見ていないが、ここまでシンプルな服装ではない。

 (町の人たちはどんな服を着ていたかなあ。)

 最初の建物の前に人が集まった時も服装などはあまり気にしていなかった。逆にそれほど印象に残っていないという事は、あまり突飛な格好でもなかったという事だろう。

 (まあ、あわてる事も無いか。先は長そうだしな。)

 そんな事を考えながら他の者たちがシャワーもどきを終えて着替えるのを座って待っていた。

 一同が着替え終わる頃合いを見て、宿の壮年の男に言われて若い方の男がドアを出ていく。しばらくしてドアを開けて入ってきたのはセルエトだった。後ろにふたりの兵士が続き、最後に出ていった若い男が入る。

 セルエトがなにやら指示をすると、ふたりの兵士は敬礼をしてドアの脇の少し離れたところに待機する。

 それを確認してからセルエトは一同を見て何か確認し、身振りで宿の方に戻るというような事を伝え自らドアを開けて屋外に出る。

 すでに陽は落ちていて夕闇が広がる。セルエトに先導されて宿の建物の方へと歩いていくと、ドアの脇に先ほどはいなかった兵士がふたり立っている。建物の中に入るとここにもひとりの兵士がいて、敬礼をするとセルエトも敬礼を返した。そして二言三言会話をして別れる。

 (敬礼を返したということは配下でなく同格なのか?)

 (階上に5人、階下にもこれで5人という事になるな。)

 光輝は相変わらずそんなとこばかりを気にして見ていた。

 階段を昇り部屋の方に進んだところで、セルエトは身振りでこの場にいるようにと伝えた。それから素早く一番手前の部屋に入って単語カードを探して一同に見せる。

 『Meal』『Preparation』『When』『Call』

 いつもの様にローゼンベルクが訳す。

 「食事の準備が出来たら呼んでくれるらしいよ。」

 学が腕時計を見ると00:50だった。日本時間だとすでに深夜だ。寝心地は良くなかったとはいえ馬車の荷台で数時間寝ているのでそれほど眠くはない。

 「ちょっと今後の事について相談する?」

 学がそう言うやいなや山本が手を上げて言う。

 「ゴメン、ちょっと眠らせて。」

 山本はカタリーナと一緒の馬車だったのだが、同乗していた戌井も小白も自分の世界に入ってて相手をしてくれなかったので、ひとり冷や汗をかきながら数時間耐えていたのだった。

 「ああ、そうか。小白は大丈夫なの?」

 学は後ろの方にひっそりといた小白に尋ねる。

 「俺は大丈夫。でも寝る時間があるなら寝る。」

 と返ってきた。

 「俺もちょっと寝たいかな。」

 戌井もそう答える。馬車の中では寝てはいなかったようだ。

 「それじゃぁ、食事に呼ばれるまではそれぞれ部屋で自由にするということにしようか。トイレとか行くときはセルエトさんにひと声かけてからだね。」

 学がそう言うとみんなダラダラと部屋に入っていく。

 隣の部屋のメンバーが全員中に入ってドアが閉まるのを確認してから、学は自分たちの部屋へと入る。

 すでに戌井は横になっている。光輝はベッドに腰掛けてローゼンベルクとなにか話していたようだったが、学が戻ってくると声をかける。

 「これから食事って事は朝までまだだいぶ時間があるだろう。なにか出来る事があるわけでも無いし、とりあえずここは休んでおこう。」

 「そうだね。」

 学は光輝の言葉に答えながら自分のベッドに腰掛ける。

 隣では光輝がベッドのいろいろな箇所を触ったりしながらなにか調べている。それを見ながらひとつ伸びをしてから横になる。

 (いろいろあったな。)

 学は今日一日あった事を考えながら眠りに落ちた。


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