七十四.みどりの日
俺達は貧民区から城までの街路をひた走る、正確に言えば俺は競歩だけど。走ると疲れるし。
目的は『王女エメラルドが王女と結婚を辞めると伝えるまでの護衛、若しくは伝えた後も護衛』
現在、エメラルドとの政略結婚を企んでいる男【マルゲッティ】辺境なんとかが城に来ている為、結婚お断りをエメラルド本人の口から突き付けるために向かっているのだ。
エメラルドの護衛メンバーは俺、ムセン、シューズ、ウテン、ならず者達。
ならず者達の情報によると、どうやら街には既に『シュヴァルトハイム』国の兵士達が王女捜索の為に来ており躍起になっているらしい。情報部で止まっていた『王女誘拐』の件は兵士達には公になったようだ。
「アニキ達! こっちですぜ!!」
エミリの家には来ていなかった残りのならず者達が街の至る人気の無い裏路地へ誘導してくれている。どうやら街に潜み、様子を伺ってくれていたらしい。中々やるじゃないか、ならず者だけど。
俺は疲れないようにもっと早足で街を駆け抜ける。
「はぁっ……はぁっ……イシハラさんっ……いつも思うんですけどっ……何故そのような早足でっ……わたし達より速いんですかっ……!」
「知らん」
「……ナツイ様っ……はぁ…はぁ……走りながらっ……でいいのでっ……お聞きしてっ……頂いてっ……よろしいでございましょうかっ……!?」
エメラルドが苦しそうに息を切らして言った。何年も軟禁されてようだし体力はあまりないようだ。
「何だ?」
「はぁっ……はぁっ……わたしがっ……王女を辞めた暁にはっ……是非っ……ナツイ様にお仕えしたく強く思うのでっ……ございますっ……! ご迷惑をおかけするかもしれませんがっ……わたしをお側に置いて頂けないでしょうかっ!?」
「断る」
「ありがとうございますっ……!! 精一杯……ご奉仕させて頂きたく思いますっ!!」
エメラルドはまた話を聞いていない。調子を取り戻したようだな。
「急ぎましょうイシハラさんっ!! 王が承認して……書面を交わしてしまったら……いくら王女様が拒否を示しても無意味になってしまうかもしれませんっ! そうなる前にっ……王女様の思いを皆に主張しなくてはっ!」
確かにそうだな。
勝手にとはいえ契約を交わされてしまっては色々面倒だ。クーリングオフ制度とかファンタジー世界になさそうだし。
「うっ……うわぁぁぁっ!? アッ……アニキィッ!」
「?」
突然、誘導してくれていたならず者の悲鳴があがった。
何か地中から木の根っこみたいなのが出て、ならず者を空中で締め上げている。
何だあれは? 何者かの技術か? 何か見た事あるな。
「イシハラさんっ!! あの方は……っ!!」
ムセンの視線の先、裏路地を抜けようとしたところに深い翠色に光る剣を構えた女が立っていた。あいつの仕業か? 誰だ?
「見つけやがったですわよ!! イシハラナツイっ!! 今度こそ無様に負けたりしねぇですわ!! ウルベリオン王国騎士団序列6位!!【ツリー・ネイチャーセイバー】ですわ!! 覚悟しやがれですわ!」
誰だよ。
「以前街中で突然絡んできた騎士の方ですよっ! ほら……イシハラさんの技術で……し……下着姿にした……」
…………あぁ、就職儀を終えて講習会に向かってたら、なんかごちゃごちゃ言いながら突っかかってきたやつか。
うるさかったから【絶・対敵無力化】使ったら、さっきの兵士達みたいに鎧が真っ二つになって下着姿になって泣き喚いてたやつだ。
「絶対許さねぇですわ……あのような屈辱……産まれて初めてこの身に受けちまったですわ……」
変な言葉遣いで『ですわ騎士』はプルプル震えている。
そんな事言われてもこの技術は自動で相手の気力を削ぐ技術だから何が起こるかは俺の知った事じゃない。大抵は対象を半裸にしてるけど。半裸になると人間って気力を削がれるんだな。
「ワタクシはてめぇを倒すまで死ぬまでてめぇにつきまとってやるですわ!! てめぇを騎士になんかさせてたまるかですわ!! 序列の撤廃も認めねぇですわ!! 天命に従い死にやがれですわ!!」
【一流警備兵技術『絶・対敵無力化』】
俺は容赦なくライトセイバーを振った。『ですわ騎士』の緑色っぽい鎧はまた真っ二つに割れ地面に落ちた。
「いっ……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっですわっ!!!」
まったく。うるさいし、いつの話をしてるんだよこいつ。
『ですわ騎士』はまた半裸になって叫び、身体を隠すようにへたりこんだ。
「屈辱ですわ……屈辱ですわ……またあられもない姿にされてしまいましたわ……魔王軍幹部には無様に敗北し……あまつさえ警備兵ごときに二連敗もしたあげくに……嫁入り前に肌を衆目にさらされるなんて……ぐすっ……ぐすっ………ぅぅぅぅ……」
また泣き出した。
この忙しい時に何て面倒くさい奴だ、だが、誘拐疑惑の件で来たわけではないようだ。仕方ないな。
「……………ぐすっ……ぐすっ……?」
俺は『ですわ騎士』に着ていたマントを羽織らせた。
何回も半裸にしてセクハラ問題にされたら困るからな、そーゆーの訴えそうなタイプだし。
「……何のつもりですのよ……っ……ぐすっ……」
「とりあえずお前、二度と俺に絡むな。面倒くさい」
「……お断りですわ! ワタクシはてめぇに勝たないと……負けたままじゃいられねぇんですわっ!! 騎士たる矜持にかけてっ……あのお方に少しでも近づくためにっ!!」
「知るか、お前の事情にかまってるほど暇じゃないんだ。暇でもお前の相手なんかお断りだけど。今後絡んできても無視するからな。勝手に一人で喚いてろ」
「はぅんっ!」
「?」
『ですわ騎士』は「はぅんっ!」と謎の叫びをあげた。
そして、恍惚と困惑を入り混ぜたようなわけのわからない表情をしている。何だこいつ。
「(……なっ……何ですのっ……!? 今の感覚……こんな奴に負かされて……屈辱なのにっ……屈辱であるはずなのにっ……何故か少し快感が体を通り抜けやがった……ですわっ……!? 今後……この男に勝負を挑んでも……相手にされず……放置されるっ……たまらない屈辱であるはずなのに……何故……こんなにも心が躍ろうとしているんですのっ!? ワタクシは由緒正しき名家に産まれた高貴なる者!! あの伝説の勇者様のご子息……まだ見ぬ新たな勇者様に近づきたくて……騎士になったというのに!! 警備兵などという端くれの職業なんか視界に入れるのも烏滸がましい存在であるはずなのにっ!! 何故ですのっ!?)」
変な声を出した『ですわ騎士』はなんか小声でボソボソわけのわからない事を言って動かない。何だこの無駄な時間。
「て、てめぇ如きが高貴なるワタクシを無視なんかしていいと思ってやがるんですのっ!?」
「行くぞ、皆」
時間の無駄なので俺は『ですわ騎士』を無視して行く事にした。
「はぅぅぅっんっ!!」
「(もう無視されてるんですの!! ワタクシを……このワタクシを視界にすら入れてねぇですわ!? あの冷めた眼……その眼に入る事すらできねぇですわ!?……屈辱っ……ですのにっ……何故っ!!? こんなに快感が押し寄せるんですのっ!!?)」
『ですわ騎士』はまた「はぅぅっんっ!」と奇声をあげた後に顔を赤らめてブツブツと言っている。独り言が多いし長い、サイコパスかこいつ?怖っ。
俺は『ですわ騎士』から早歩きして離れた。
「まっ………待って……やがれですわっ!! 絶対絶対っ……あなた…じゃなくてっ……てめぇにワタクシを認めさせてやるですわっ!! だからっ……放置してっくださいませっ……って何を言わせるんですのっ!!首を洗って待ってやがれですわ~~~~っっっ!!」
何だあいつ、頭おかしいんじゃないのか?
とりあえず二度と会う事をないように祈ろう、さようなら『ですわ騎士』。
何だったんだ今の無駄なサブイベント。まぁいいか、とりあえず俺達は城へ走っ(競歩)た。
「(………今はそれどころではないので……………胸にしまっておきますけどっ!! どんどん恋敵が増えてませんかっ!? ぅう……王女様に……またお綺麗な騎士さん……可愛い方ばっかりです……)」
ムセンまでもが変な顔をしてブツブツ言っていた。何だこいつら、やる気あんのか?独り言は変な人間に見られるから止めた方がいいぞ。




