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七十二.拷問のプロ



「…………………がはっ!!」

「「……………………え?」」


 壁の外から呻き声と倒れるような音がした、どうやら命中したようだ。小屋の木の壁にはライトセイバーが刺さっている。

 ここにいる全員が呆然としている。

 

 俺はエメラルドに向けてライトセイバーをぶん投げた。

 まぁ、勿論エメラルドを殺そうと思ったわけじゃないのは皆わかってるよな? 

 エメラルドの後方の壁に向かって投げただけだ。壁の外から聞き耳を立ててるやつがいたから。そいつに投げただけ。



「………いー君、お願いだから一言いって。いー君は何をするかわからないから本当に第二王女を殺すつもりなのかと思った」


 んなわけあるかい。一体俺を何だと思ってるんだ。


「盗み聞きですか……一体誰が……?」

「気配の消し方がカタギとは思えなかったし、このタイミングなんだから向こうの諜報部かなんかだろう」

「……私も気づかなかった…………………迂闊」

「ムセン、回復してやれ。但し適度な回復と適度な痛みを与え駆け引きしつつ何者か吐き出させろ。お前の得意技だろ?」

「何でですか!? 私そんな拷問めいた事今までした事ありましたか!? 誤解を生むような嘘を言わないでください!」


 とりあえず俺達はみんな揃って外へ出た。


----------------------------


「はぁっ……はぁっ……はぁっ……!」


 聞き耳野郎は足にライトセイバーが突き刺さったまま串刺し状態で壁にもたれていた、痛そう。

 全身黒いローブに変な仮面、体格からして男だろう。

 

 ムセンが回復をしようと近づく。


「アニキ!! 何か吐かせるならアッシらにもお任せくだせぇ! アッシらの得意分野ですぜ!!」


 ならず者達がいきいきしながらそう言った。

 うわっ、何て最低な奴等だ。とりあえず俺は関わりを持ちたくないので無視した。


 ならず者達が聞き耳野郎を取り囲む。


「おうおうテメェ!! 一体どこの組織のもんだ!? えぇんっ!?」

「黙ってっと姐さんが容赦しねえぞ!? この人ぁ拷問のプロだぜ!? 人の身体なんざ玩具としか思ってねぇお方だぞ!?」

「そうだ! 人体を知り尽くしてるんだぜ!? どこを痛めれば一番苦痛を味あわせれるか毎夜研究に没頭してんだ! 地獄の苦しみを味わいたくなければさっさと吐きな!!」


 マジかよ、嘘から出た真。ムセンが本当に拷問のプロだったとは。


「違いますよ!? イシハラさんがついた嘘でしょう!? ほら! そのせいで早くも誤解を生んでるじゃないですか!! やめてください!!」


 とりあえず俺は聞き耳野郎に聞いてみた。


「お前どうせシュヴァルトなんとかの諜報員だろう? 王女を探しに来たのか?」

「……ふん、何を言っているのかわからんな。俺はただ横を通りかかっただけだ」

「あ、そう」


 なんだ、ただの通行人だったか。ライトセイバーをぶっ刺しちゃって悪いことしたな。


「イシハラさん! 素直に信じすぎですよ! ただの通行人がこんな冷静に受け答えするわけないじゃないですか! ……あ! もしかしてイシハラさん……また面倒くさくなっただけでしょう!?」


 ムセンが的確な突っ込みをした。

 その通り、諜報員だろうが通行人だろうがどっちでもいいよもう。



「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「?」

「な……!? シュ……シューズさん!?」


 聞き耳野郎がいきなり悲鳴をあげる。

 見てみるとシューズがライトセイバーの刺さった聞き耳野郎の足の傷口部分を足蹴にしている。何やってんだあいつ?


「うわー痛そー。ねぇ? 早くしないと足取れちゃうよー? これ人体なんか簡単に切断しちゃうからさー。早く言った方がいいよー?」


 シューズは無表情でそう言いながら傷口を足でグリグリしていた。

 拷問好きなのはシューズの方だったか。


「そんな呑気にしてる場合じゃないですよイシハラさん!! シューズさん!! 何をやってるんですか!? やめてください!!」



「いたぞ!! こっちだ!!」

「?」


 今度は何だよもう。

 見てみると見慣れない甲冑を着た兵士達がこぞって俺達の方へ向かって来ていた。


「あ……」


 エメラルドが兵士達を見て驚いた顔をする。

 ふむ、察するにこいつらはシュヴァルトなんとかの兵士。はぐれたとか言ってたエメラルドの護衛兵士か何かだろうな。


「姫様……捜しましたよ。もう安心です。今すぐこのならず者達を葬って差し上げましょう」


 兵士達が道を開くと、そこから一際高価そうな鎧甲冑を身に纏った槍を持った男が出てきた。なんか貴族っぽい容姿だ、少女漫画に出てくるような顔立ちをしている。


「………騎士の【ルーベル・グランツェフェルト】……シュヴァルトハイム王国随一の飛槍騎士と評されるお方でございます……」


 横文字が多い。ドイツ語みたいな並びの横文字だらけで俺はイライラした。


「あぁ……何という美しさ、姫様の危機に颯爽と駆け付ける僕……まるで虹色鳥の羽根のように……」


 しかも濃いキャラ。

 ナルシー騎士、略してナル騎士ーは手鏡で自分の姿を見てうっとりしている。


「君らが姫様の誘拐を企てたならず者達か……残念ながら僕が来たからにはその企てどころか人生のお終いだ、大人しく………」


【一流警備兵技術『絶・対敵無力化』】


 俺はライトセイバーを壁から抜いて兵士達に向けて振った。


ガシャンッ!


「……っ!!? 何だ!? 鎧がっ……急に壊れた!?」


 技術の力で騎士と兵士達全員の鎧や着こんでいた鎖かたびらが真っ二つに割れ、全員が真っ裸か下着姿になった。

 むさいおっさん共が慌てふためいて両手で裸を隠したり物陰に隠れたりしている。今ここは、世界一むさ苦しい地獄になった。


「あぁっ……僕の高貴なる鎧がっ……しかし、裸の僕も美しい……」


 そんな中でナル騎士ーだけが裸でうっとりしていた。何だこいつ。


「イシハラさんっ!! せめて前もって言ってくださいっ!!」

「そうなのよっ! 見たくないもの見せられたなのよっ!」

「いー君、変なもの見せた責任とって」


 女子達から猛抗議があがった。


「イシハラ君、これからどーする? 王女様を逃がさないといけないよー。どこかいい隠れ場所あるかなー?」


 シューズだけは冷静にこれからの事を考えていた。

 まったく、シューズがどんな思いで王女の味方をしているか知らないがこいつも随分的外れな事を言うものだ。


 俺はエメラルドの手を取る。


 まったく、全員で何をあれこれ議論してるんだか。これからどうするかなんて、こんなもの最初から答えは一つだろう。


「…………ナツイ……様?」

「行くぞ、城へ。決着をつけろ」








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