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七十.王女エメラルド②~回想~ ※別視点あり


<貧民区.エミリの家>


「……………王女様が……………天職の……奴隷……ですか?」

「…………」


「ZZZムセンが王女の回想に反応し、聞き返した。王女エメラルドは暗い顔をしてうつむきながら少し頷く。周りのやつらは黙って王女の話の続きを待っているようだzzzz」


「イシハラさん……全てが声に出ています……ウテンさん、そんな事はありえるのですか? 何かの間違いとかではないのですか?」

「別にありえない事じゃない。勇者みたいに親から血や才能を受け継ぐものもいれば、両親とは正反対の職業適性が出る事もある。何の職業が適性かは本人の才能や気質や性格次第」

「……『奴隷』。人間としての名誉、権利・自由を認められず、他人の所有物として取り扱われる事でしか生きる事ができない職業……。私はそうする事でしか……道具となる事でしか……価値がない。侍女の方は……そう、仰いました……、と思います」

「………」


 皆がどう反応したらいいかわからず困ったような表情をしている中、一人だけ珍しく表情が変わった者がいた。


 シューズだ、機嫌が良い時に微笑む以外は常に真顔で表情の変わらないこいつが珍しく不機嫌そうな顔をしていた。


~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~

~~~~


 ◇【王女エメラルド】視点


-2年前.王女エメラルド15歳-


<シュヴァルトハイム城>


 私は……自分が奴隷としてしか生きられないと聞いた後も特に落ち込むような事もなく、変わらぬ日々を送っていました。

 もしかしたら……私の中にある奴隷としての血がその状況を受け入れてしまったのかもしれない、と……感じました。

 私は……こうして何もなく変わらぬ日々に……無為に生き、無意味に過ごす毎日を楽しんでいるのかもしれない、と。


 そんなある日、お城を歩いていると……部屋の中からお父様と『そのお方』が話しているのが漏れ聞こえてきたのです。


 『そのお方』とは……シュヴァルトハイムとウルベリオン王国をまたぐ国境地、ウルベリオン国内の辺境伯にして大地主の『マルグラフ・ベリル・マグラータ候』でした。


 私はそっと、部屋の扉に耳を傾けました。


「……………どこで聞いたのか知らんが、出鱈目にも程がある話だ」

「むふ、隠さなくても良いのです陛下。何もそれを脅し材料にすると言っておるわけではないのですよ、誤解しないで頂きたい。これは双方にとって得のある話なのです」

「……その話が真実であると仮定して、貴公は何を望んでいる?」

「むふふ、こちらも陛下を理解があるお方としてお話させていただいております。お話は簡潔に……その第二王女である【エメラルド王女】との余との縁談を取り纏めて頂きたいのです」

「……………何?」


(………えんだん……? 何でしょう、と……私は思います)


「その出鱈目な噂が仮に真実であると仮定した場合……悪いお話ではないでしょう? エメラルド王女は国境軍事地区の当主夫人となり、更にシュヴァルトハイムとウルベリオンの絶対的な友好の証ともなります。道具には道具なりの使い途があるのですよ……おっと、これは失言でしたな。失礼をお許し下さい」

「……………それで何の得があるというのだ?」

「むふ、エメラルド王女の職業適性を世に出さなければ得などいくらでもありますよ。第二王女としての肩書き価値(ステータス)だけでも余りある。余は両国を繋ぐ窓口として多大なる恩恵を受けられます」

「そうではない、我が国にとっての利点を聞いておる。たかだか地方領主に何故王女を嫁がせねばならん?」

「むふ、もしも第二王女との縁談をまとめて頂いた暁には……ウルベリオン国軍事地区である我が領土の軍事機密をお渡し致します。抱える騎士達の技術情報や所持する兵器の詳細、技術障壁のある場所や内部補給拠点の位置などを可能な限り」

「…………なるほど、どうやら酔狂な男らしい。しかしわからぬな、噂を真に受けながら何故そうまでしてエメラルドを欲しがるのだ?」

「むふふ、それは追々お話しする事に致しましょう。本日はこのあたりで失礼致しますよ……エメラルド王女が婚礼適齢を迎えるのは二年後……急ぐ必要もありませんから……それではどうかご検討なさってください」


 当時……10歳程度の知能で止まっていた私にはそのお話が何の事であるのか全くわかりませんでした、と思います。

 私は一人、部屋に戻り……またいつもの生活に戻りました。


 しかし、扉の隙間から覗いた……お父様とマルグラフ候の醜悪な笑みに感じた怖気(おぞけ)は……今でもはっきりこの身に感じています。


--------------


ペラッ……


(えんだん……縁談……ありました……婚礼前の男女の結婚の相談……マルグラフ候……あのお方と……私の結婚……)


 自室に戻った私は侍女の方にできるだけの書物を持ってきて頂き、色々な事を調べました。そして、理解します。

 私は……マルグラフ候、あのお方と結ばれるのだと。

私は、道具としてでしか生きられない。

 ならば、このお話こそが……私の国のためにできる、生きる唯一の路なのだと。


 私に自由意思はありません。

 きっと……お父様は了承することでしょう。それしか、私の使い道はないのですから………。


(結婚とは……自身の見初めた方と……するものでは……ないのでしょうか……私は……自身の倍以上の年齢の方と……何故結ばれるのでしょうか……?)


 しかし、疑問と……多少の嫌な気持ちを感じつつも……私は、私の心はそれを受け入れていきます。

 私は『奴隷』。

 流されるまま、私を使ってくださる方に奉仕する。

 私はその時がくるまで、奴隷としての扱われ方を学ばなければいけない。それが、私にできる唯一の事。


 自由意思を持つ事は、許されない。疑問に思う事も許されない。

 私は……その時そう思っていたように感じます。


 しかし、完全に支配されかけた心にほんの少しの……抵抗意志が残り、私を行動へ移しました。


----------------------------


-1年前.エメラルド16歳-


 私はそれから一年間をかけて……お父様達の行動や文書の保管場所などを調べあげていました。誰の目にも触れない時間帯、場所……見張りの兵士の勤務表。

 時間だけはあった私はそれら全てを把握し、お父様の私室に忍びこみました。


 そして事前に手に入れた鍵で保管庫を開け、中を盗み見ます。


(そうです……きっとお父様は入念にマルグラフ候の身辺を調べているはず……)


 私はマルグラフ候を一目見ただけでしたが……何か例えようのない嫌悪感に襲われたような気がしてならなかったのでございます。


 あの怖気の正体を突き止めたい、その一心で私は文書を漁ります。


(もし……清廉潔白の何もないお方でしたら……もう、受け入れます。私は辺境伯夫人として……新たな地へ移り住むのです……しかし、辺境伯夫人とは一体何をしたらよいのでしょうか……?)


 既に心は……まだ話した事もない、一目しかお見かけしていないマルグラフ候との生活も考えるようになっていたように感じます。

 (めと)っていただけるだけで感謝しなくては、と。


(奴隷として…………身体も当然要求されるのでしょうか? 精一杯……喜んでいただけるようご奉仕せねばなりません、と私は……)


「……………………え?」


 その時……私の目に一文が飛び込んできました。

 それは、探していたマルグラフ候に関する文書でした。


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【マルグラフ・ベリル・マグラータ】に関する報告


・辺境伯としての地位を利用し、流れ着いた不法移民や冒険者などを捕らえ『人身売買』及び『奴隷斡旋』業を行っている。更に様々な種族や職業の女性を地下牢に『収集(コレクション)』する(へき)あり。引き続きの調査不要。

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