六十八.サビ残
<貧民区>
「初めまして、私はシュヴァルトハイム国第二王女【エメラルド・バルト・ルイム】であると感じます。皆さま宜しくお願い致しますと申しますと感じます」
訳のわからない言葉でエメラルドは全員に挨拶をした。
今、俺達は掘っ立て小屋にいる。
ムセン、シューズ、ウテン、ならず者達が5人ほど──計10人ほどだが、この掘っ立て小屋の狭い空間だとこの人数は窮屈でならない。
「小屋じゃないなのよ! いきなり押し掛けてきて失礼にもほどがあるのよ! アタシの家なのよ!」
「久しぶりだなエミリ、息災だったか?」
「当たり前なのよ! 10日ぶりくらいじゃないなのよ! それほど久しぶりじゃないなのよ!!」
そう、俺達は貧民区にあるエミリの家に来ていた。
理由はウテンが人目につかない場所に今のうちに移動した方がいいと言ったから。
どうやら俺には王女誘拐の嫌疑がかけられているらしい。まったく誤解も甚だしい。
「とりあえずいー君、事情を説明して」
ウテンが俺に話を促す。面倒だったが俺は現場で起きた事を説明した。
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<再び、エミリの家>
「……イシハラさんのお話はわかりました。確かにイシハラさんに落ち度はないどころか……とてもお疲れ様でしたと労いたいですが……それでもこうなってしまった以上、もうやるしかないですよ」
「Why?」
「何ですかその発音!? ふざけてる場合じゃないですよ! 今すぐ王女様をお城にお連れして誤解を解くべきです!! でないと……更なる誤解を生み出してしまいます! ウテンさん、今はまだ公には発表されてないのですよね!?」
「そう、今は裏が取れるまで諜報部で話は止まってる。事情はわかった、ムセン・アイコムの言う通り。すぐに王女を連れて弁明させるべき。いー君は迷っていた王女を保護しただけ、今ならそれで話が通る」
まったく、何故そんな事しなきゃならないんだ。
とんでもないサービス残業だ、俺、サービス残業許さない。
「……………」
話の渦中にいるエメラルド王女は下を向き、暗い顔をしたまま動かない。
「とりあえずエメラルドちゃんだっけー? あなたもイシハラ君と一緒に謝ってきなよー。エメラルドちゃんが原因なんだしー」
シューズが遠慮なくエメラルドに言った。
仕方あるまい、警備協会に行く前にちょっと王のところにでも行ってくるか。
俺がエメラルドを引き連れていこうとすると、小さな声でエメラルドが話し出した。
「……………………嫌でございます、と私は強く感じます」
「……え? 王女様……? 今……何て?」
「私は……あの人の元に行くのは嫌なのです、と強く拒否します」
王女は小さな声で、それでもはっきりと力強く決意した顔で言った。
「………嫌と言われましても……どういう事ですか? 何か……理由でもあるのですか? あの人とは……どなたの事を言っているのです?」
ムセンがエメラルドに言う。
「……………皆様、お話を聞いて……くださいますか?」
そして、王女は話し始めた。
面倒なので俺はいつも通り寝ながら話を聞く事にした。




