六十七.姐さん
-王都帰還から遡る事2日前-
〈冥邸洞地下57階〉
「ナツイ様? 本日は洞窟の最深部を警備するのでございますか?」
王女エメラルドは不思議な顔をして首をかしげる。
残りあと2日だし、洞窟内部に生息している魔物はほぼ片付けたし後はここの掃除をするくらいしかやる事ないしな。
ちなみにこれまでの一週間は波乱の連続だった。主にこのトラブル神、エメラルドのせいで。
ダイジェストにすると──
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「あぁっ! ナツイ様ナツイ様ナツイ様! あちらは何でしょうあちらは何でしょうわたしは気になると気になると気になると感じます!」
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──こんな一週間だった。
この王女、人の話などまったく聞かない。もう対応するのも面倒なのでほとんど心の声で対応することにした。
「ナツイ様、何か足音が……するような気がしなくもないです。わたしの気のせいでしょうか?」
いや、気のせいじゃないな。上階から十五人くらいの足音が近づいてくる。マップを確認したが、これは人間のアイコンだ。
一体何の集団がこんな場所にやってきたんだ? もうこれ以上のトラブルはごめんなんだけど。
「おい! いたぞ! こっちだ野郎共!」
なんかどっかで見た事あるようなならず者っぽい集団がこぞってやってきた。何者だよこいつら。
「ナツイ様っ! 洞窟の外でわたしを追い回した下劣な輩達でございますよっ!!」
あぁ、エメラルドを誘拐しようとしてた奴らか。
こんな地下深くまでリベンジしにきたわけだ、その情熱を他の事に使え。
イライラしっぱなしの俺はライトセイバーを振り回そうとした。
「まっ……待ってくだせぇ!! 俺達ぁあんたの強さに惚れこんだんです!! もう盗みなんてくだらねぇ事ぁやめます!! 俺達新たに義賊団を旗あげしようと思ってるんでさ!! 光のアニキ!! 俺達のリーダーになってやくれやせんか!?」
【一流警備兵技術『強制交通誘導』】
「「「「ぎゃああああああああっ!?」」」」
俺はならず者達を強制的に吹き飛ばした。ならず者達はまとめて洞窟の岩壁に叩きつけられる。
洞窟内にはやかましい断末魔と衝撃音、岩壁が崩れ落ちる音が鳴り響いた。
「ナツイ様、何か言っていたような気がしなくもないですが……よろしいのですか?」
知るか。もうトラブルは問答無用で排除するに限る。
「ナツイ様! ならず者達がぶつかった壁が崩れて……新たな道が出てきました! 何でしょう!?」
ん? これは知らなかったな、隠し通路ってやつか。
「ナツイ様……どうされますか? 調査されますか?」
仕方あるまい。面倒だがこの施設(洞窟)に不備を残した場合、警備を任された俺の責任になる。仕事している以上、終わりまで完璧にこなさねばなるまいて。
行くとしようか。
俺達の冒険はこれからだ──
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<軽食屋『皿の裏』>
「──と、そんな感じの一週間だった」
「まっっっったくわかりません!! それがどうなったらこんな大所帯を引き連れて帰ってくることになるんですか!?」
俺とムセン、シューズ、エメラルド、ならず者集団はかつてハンバーガーを食べたいと思っていたらサンドイッチが出てきた軽食屋に来ていた。この店は立地的に客も少ないらしいため、言っちゃ悪いがあまり繁盛していないし店主もいい奴なので俺のお気に入りになり定期的に通っている。
昼飯をとりながらムセン達にはこの一週間に起きたことをかいつまんで説明した。
「説明できてませんっ! 何です最後の終わり方!? まるで強引に打ち切られた物語のお話じゃないですか!」
ムセンの突っ込みが冴え渡る。
「そ……それにまた女性の方を連れて……しかも王女様だなんて……」
「別に好きで連れてきたわけじゃない。王女もそこのならず者達も勝手についてきただけだ」
「アニキ! 俺らは役に立ちますぜ!」
「そうっス! 何かあれば俺らに言ってくだせぇ!!」
「………はぁ………」
ムセンは呆れ顔をしてため息をついた。
「どうするんですか……この人達……」
「知らん」
「ナツイ様っ! こちらが噂に聞くパンズという食べ物でしょうか?! わたしは初めて食すと思います! とても美味しいと感じます! 何のお肉でしょうか中の獣肉は!?」
知らん。
「とりあえず……お昼を食べたらイシハラさんは警備協会にお仕事完了の報告に行くのですよね?」
「そうだな」
「それからどうするか考えましょう、王女様の事もそうですし……この人達……いくら心を入れ換えたとはいえ、今まで盗賊稼業をしていたのは事実なんですよね? きちんと罰を受けて罪を償ってください」
ムセンはならず者達を冷めた目で見てそう言った。ふむ、確かに。ムセンの言うことも最もだな。
「そ……そんな! 姐さん! 獄中は勘弁してくだせぇ!」
「そうです! 何でもしますから臭い飯だけはご勘弁を姐さん!!」
「変な呼び方はやめてください! 何ですかあねさんって!!」
「え? だってナツイアニキの奥さんっすよね? アニキへの接し方もアニキの姐さんへの態度も夫婦そのものと思ったんですが……」
「!!………………………そ、そうですか……? えへへ……そんな風に見えましたか……? えへへ……」
ムセンはならず者達への態度を軟化させた。馬鹿かこいつ。
「えー、違うよー? 結婚の約束したのはあたしだよー」
シューズも突然会話に割り込んできた。
「こちらもまた美少女ですね! アニキモテモテじゃないっすか! にくいっすねこのこの!!」
うざっ、中学生か。
すると突然、天井から仮面をつけた女が俺達の座るテーブルの上に降ってきた。
「痛っ!! ……違う、きっといー君は私を選ぶ」
「「きゃああああああっ!?」」
仮面女は着地に失敗して尻餅をついた、衝撃で空の皿が飛び散った。ムセンとエメラルドが悲鳴をあげる。
ウテンか、何しに来たんだ?
「痛い…………迂闊」
「ウテンさんっ!? 何ですか急に!? 自粛していたのではないのですか!?」
「いー君が帰ってくるから今さっき復帰した。やっぱりあなた達には私の監視が必要。とりあえずいー君、今すぐ何があったか話して」
ん? 何でウテンに警備の仕事の事を話さなきゃならないんだ? 仮面をつけているからわからないが、何か声が怒っている。
「どうしたんですか? ウテンさん……何か怒ってらっしゃるような気がしますけど……」
「気がするんじゃない。怒ってる」
ムセンも同じように感じとったのか尋ねた。ウテンは怒り声で俺達に言った。
「『シュヴァルトハイム第二王女が行方不明、誘拐の疑惑あり』とさっき秘密裏に報告を受けた。嫌疑がかけられてるのは……盗賊団【豚の砂】と……いー君、あなた。私が疑いを晴らすから何故そんな話になってるのか話して」
その場にいた全員が心当たりがあったので黙った。




