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六十三.一流警備兵 イシハラナツイ



 俺達は魔法陣の中央にて祈りを捧げた。すると、何か神々しい光が俺達を照らした。


(これでいよいよ俺達も警備兵っ! 仕事に励んで街を守れるようになるぞっ!)


 なんて、俺が思うわけなく。


(この世界の警備がただ突っ立って魔物や賊なんかが来た時だけ仕事するような適当なものでありますように)


 と、マジに祈りを捧げた。


「……これにて完了でございます。あなた方のメインジョブは『警備兵』となりました。おめでとうございます、精力的に職務に励まれますよう……あなた方に職業神の加護がありますよう、お祈りしております」


 ムセンやシューズが自分のステータス画面を開き、確認する。


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◇ムセン・アイコム 職業『警備兵』

・新たな『技術』を獲得しました。

【危険察知LV1】【周囲確認術LV1】【守りの壁LV1】

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◇セーフ・T・シューズ  職業『警備兵』

・新たな『技術』を獲得しました。

【危険察知LV1】【周囲確認術LV1】【守りの壁LV1】

----------------------------


「技術や職業が……ステータスに反映されてます。これで……名実共に私達も警備兵になったのですね」

「あれ? でもイシハラ君の技術とちょっと違うような気がするよー?」


「イシハラ様は前世……地球でこちらの警備兵に該当する警備員という職業にて経験を既に積まれていましたので……更に天職の才でもありますので、こちらの世界での通常技術と違う技術を既に習得なさっているのです。私どもはそれを『ユニークスキル』と呼称しております。『ユニークスキル』をムセン様達が習得するのは不可能ですが……経験を積まれれば恐らく近しい技術を覚えることも可能です」


 ふむ、確かに通行止め看板だったりカラーコーンなんてものがこの世界にあるとは思えない。それはこの世界の警備兵には使えないということか。


「ちぇー、イシハラ君とお揃いがよかったのにー」

「いいじゃないですかシューズさん、私達は私達にできることで頑張りましょう。イシハラさんは何かステータスに変化はありましたか?」


----------------------------

◇イシハラナツイ 職業『一流警備兵』

・新たな『技術』を習得しました。

【流風の極意】【危険予知改『先読み』】【精神時間改変】【安全領域改『反射』】【武具の心得『全』】……『剣技』『大剣技』『槍技』『銃技』『鎚技』『投擲術』『格闘術』etc……………

----------------------------


「いや、何も変わってない」

「嘘つかないでください! 説明が面倒だっただけでしょう!? 私はイシハラさんのステータス見れるんですから!…………………………何ですかこの数!? そ……それにイシハラさんだけ……『一流警備兵』になってます…」


 どうでもいい。一流だろうが二流だろうがやる事は変わらん。


「職業は経験(レベル)を積むとランクアップして職業に応じた高いランクの呼び名がつきます。『高位』や『上級』……『一流』など様々あります。しかし就職儀の時点でそれらが付く事は極々稀なことです。イシハラ様の経験と潜在力を読み取り……職業神様がご判断なされたのでしょう」


「さすがイシハラ君だねー♪」

「……本当にそうですね。でも、負けません。私もいつかあなたに追い付いて……そして……」


 そう言ってムセンは何故か頬を紅く染めた。


「イシハラさんとムセンさんは以前言った通り、この後……この世界の講習を受けて頂きますね。シューズさんはまた明日同じ時間にギルド地区にある『警備協会支部』へお越しくださいね。場所はこちらに記してありますね」


 アマクダリはシューズに地図を渡す。そうか、そういえば試験に合格したら異界人の俺達は講習があるとか言ってたな。


「就職儀は以上となりますが……イシハラ様は少しお残り頂けますか?ジャンヌ様よりお話があるそうで……」


 ん? 宝ジャンヌが俺に話? あんま話した事もないのになんなんだ? 

 まさか『お金貸して』とかじゃないだろうな?


「警備兵さん達も残って聞いてくれて構わないわよ? 興味があればだけど」

「勿論聞きますっ!」

「うん、イシハラ君に関係ある話なら聞くよー」


「じゃあ改めて……就職おめでとうイシハラ君。私の事は知ってるだろうけどちょっと肩書きが変わったから言わせてね。『十二騎士団指南役顧問』……兼……軍師マリオンの後釜として『軍事統括師』に就任した【ジャンヌ・オルレアン】よ。単刀直入に言うわね、イシハラ君、あなたには序列一位だった【アーサー・シャインセイバー】の後釜として十二騎士団に入ってほしいのよ」


「断る、帰る」


「話を聞いて。あなたにはアーサーの所有していた領土……土地や館全てを譲るわ。さっきも言ったけど……サブ職業として騎士の肩書きを持っているだけでいいの。騎士の仕事なんてただ領土裁判と体を鍛える事だけ。後は魔物や賊の排除……あなたなら難なくこなせる仕事よ。小難しい徴税なんかは館にいる部下に任せればいいの。それだけで生涯安泰……警備兵としての仕事を邪魔したりしないわ」


「断ると言っている、ばいばいきん」


「……なら、それらの仕事は代わりに私が引き受けるわ。あなたは肩書きだけ持っていて。それだけで給金はもちろん、様々な待遇を得る。これでどう?」


「アマクダリ、講習はどこでやるんだ? 案内してくれ」

「……え? は……はい勿論ですね……で、では……失礼致しますね……皆様」


 俺とムセン、シューズ、アマクダリ、ハゲは就職儀の間を後にした。


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----------------------------


 俺達はギルド地区までの地図を渡され、一旦アマクダリ達と別れた。何か準備とかあるらしい。シューズはホテルへ戻った。


 俺はムセンとギルド地区までの道のりを歩く。


「イシハラさん……本当に良かったのですか……? かなりの厚待遇みたいでしたけど……」

「しつこいのは世界一嫌いなんだ。俺のだらだら計画には必要ない」


「……イシハラさんのその計画が全くわかりません……楽をしたくてのんびりしたいのであれば……先程の条件はまさにぴったりのような気がしましたが……」

「わかっていないな。人は身の丈以上のものを持つと欲をかいて破滅する、俺は莫大な金も長すぎる休日も必要ない。金を持ちすぎると贅沢を覚え、休みが長すぎると暇だし働くのが面倒になる。生活できるだけの金と適度な仕事、それで充分だ。金が必要になった時に仕事を増やせばいい。金が余ったら休めばいい」


「…………高説のようで駄目な人間の思想のような気もしますが……あなたが決めた事ならそれでいいです。何があろうと私はあなたと一緒にいると決めましたから」

「宇宙に帰らなくていいのか?」

「……帰れませんし……仮に帰る方法が見つかったとしても……あなたと一緒じゃなきゃ嫌です。もしそうなったら……一緒に来ていただけますか?」

「気分による」

「言うと思いました……けどそんな事考えても仕方ありません! それなら今、前に進む! そうですよね?」

「そうだな」


 とりあえず今は仕事だ。それ以外の事はその時考えればいい。

 街中を歩きながらムセンとそんな会話をしていると、急に誰かが目の前に飛び出してきた。なんか緑っぽい鎧を着た変な女だ。変な女は怒ったような顔をして俺を指差して言った。


「あなたがイシハラナツイですわね!? アタクシは十二騎士団序列六位【ツリー・ネイチャーセイバー】!! 魔王軍幹部を倒したっつってますけど……アタクシは信じねぇですわ! 認めねぇですわ! 警備兵ごときが騎士を名乗るなど……あってはならねぇですわ! アタクシと勝負しやがれですわ! 真剣勝負ですわ! 名乗りなさい!」


 こいつ誰だよ。何故いつもいい感じで締めようと思った時に邪魔されるのか。しかも新キャラに。

 まったく、この世界は本当にままならない。

 騎士になるなんて誰も言ってない、しつこい勧誘は世界一嫌いなんだ。鬱陶しい。


 まぁいいさ、考えててもしょうがない。適当にあしらってさっさと終わらせよう。


 俺はライトセイバーを構え、名乗る。

 自分で一流だとかつけるのイキッてるみたいで嫌なんだけど。まぁステータスにそう書いてあるんだから仕方ないか。


「一流警備兵、イシハラナツイだ」



   


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