五十六.決着
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◇イシハラは『ライトセイバー』を手に入れた。
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俺は黒い持ち手の部分を掌でくるくる回す。
とても軽い。これだけをみると単なる筒状の短い棒にしか見えない。
しかし俺は知っている。これがただの短い黒い棒ではない事を。SF映画でよく見たからな。
持ってたのはムセンか。さすがスペース少女だ、まさかこれまで持っていたとは。
「オッサン! 遊んでんじゃねぇよ! 何だよそれ!? 今にも爆発しちまうだろーが!!」
「もういいのん勇者っ! 放っといて逃げるのんっ!」
ライオンは今にも爆発しそうだ。身体からの放電が激しくなっている。もう少し遅かったら何もかもを巻き込んで爆発していたな。サンキュー、ムセン。
俺はライオンの元へ歩いていく。
まったく、魔王軍幹部だかなんだか知らないがいい迷惑だ。とりあえずお前のした事は許されない。これだけの騒動だ、きっと死人も出ただろう。
そして何より俺のだらだら計画の邪魔をした。
俺は黒い筒棒に力を溜めるイメージをする。光線銃と同じ要領だ。
「……ムセン・アイコム……あの武器は……何?」
「……持ち主のエネルギーをレーザー型の刀身に変える武器です。私では力が無さすぎて使用できなかったのですが……前世で近接武器として支給されていたのを忘れていました………その形状が話に聞いた【誘導棒】と似ていたのでもしかしたらと思って……」
よくガキの頃は近所にいた警備員のおっさんに誘導棒を借りてSF映画ごっこをしていたものだ。そっくりだもんな、ライトセイバーと誘導棒。警備員に就いてからはSF映画ごっこはさすがにしていない。
しかし、誘導棒は毎日のように扱っている。今では片手で鉛筆まわしのような事もできるほど使い慣れたものだ。
そんな一人思い出ばなしに花を咲かせていると、SF映画でライトセイバーを発動させたような音がした。
見ると黒い棒筒の先から赤く燃え盛るようなレーザーが飛び出して剣の形を造っていた。
マジやばい、本物のライトセイバーだ。
THE.男のロマンだ。
「ぴいっ! 光の棒だっぴ!」
「……まるで光の剣……ぅうん、光の……棒……?」
「やっぱり……エネルギーが余りあるイシハラさんなら使えると思いました!」
クソライオンの放電現象は最高潮に達したようで、まるで機械が放電して故障でもしているかのような音を響かせる。
「わはははっ!! じゃあな雑魚ども!! もうてめーらに用はねぇ! 勇者! こいつらの掃除が済んだら次はてめーだ!! 誰にも邪魔されず楽しもうぜぇっ!!」
「オッサン何とかしろぉっ!!」
「もっ……もう駄目なのんっ!!」
「ぴいっ! 御主人様っ!」
「いー君っ!!」
「イシハラさんっ!!!」
「何度も言ってるが俺は勇者じゃないし、次なんてもうないぞ」
ていっ。
俺はライトセイバーをライオンに向けて振る。
【イシハラナツイ最適性武器技術】
『絶・対敵無力化』----------------------------
・イシハラナツイが敵と認識した対象を強制的に無力化する。そこにはどんな力の阻害も通じず、絶対敵に対象を行動不能に陥らせる。
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「!! 俺様の技術がっ……!? 爆発がっ……消されたっ!? 技術が使えねえっ……!? 何だこりゃあ!! 動くっ……こともできねぇっ……!? な、何しやがった!?」
俺が誘導棒を振ると帯電していたライオンじじいの放電が消えた。どうやら誘導棒に乗せ進化した俺の技術によりライオンじじいの技術は封じられたらしい。
<ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!>
ライオンじじいの窮地を察知したのか周囲にいる魔物達が一斉に咆哮して俺に襲いかかってきた。
「お前らも邪魔だ、あっち行け」
俺はライトセイバーを魔物に向け、明後日の方向へ誘導する。
【イシハラナツイ最適性武器技術】
『強制冥界交通誘導』----------------------------
・冥王と呼ばれる者が支配する次元の違う世界へ対象を強制的に誘導する。対象に拒否権限は与えられない。
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<ギャアアアアアア!!?>
<グワァァァァッ!!>
何か俺が誘導棒を振った先には黒い大穴、ブラックホールみたいなものが出来た。
誘導された魔物達はそこに引き寄せられて呑み込まれていった。
「さて、残りの魔物も邪魔だな」
【イシハラナツイ最適性武器技術】
『終日・魔物通行止め』----------------------------
・設置看板を目撃した魔物の時間を止める。時を止められた魔物は体内の時間だけが超加速度的に経過し、動きを止められたまま老化していき術者が解除する意思を見せない限りすぐに朽ち果てる。
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降り注いだ看板に引き寄せられ触れた魔物達はなんか動きが止まり、サラサラと砂のように崩れていく。
なんか怖っ。
通行止めしてるからって老化する事はないだろうに、いつまで通行止め解除を待ってるつもりだ。
よし、魔物は全て消えた。
あとはボスライオンだけだな。
「なっ………はは……わはははははははははははっ!! そうこなくちゃなっ!! まだ奥の手がありやがったか!! さぁやろうぜっ! 俺様はまだまだやれるっ! うんぬぬぬぬぬぬぬぬっ………!!! アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
ライオンじじいは何とかして動こうと咆哮する。まったく、そのファイティングスピリットだけは大したものだな。この脳筋マンが。
俺はライオンじじいに止めをさすために近寄っていく。
一体何がこいつをここまで動かしてるんだろうな。この世界の事はよく知らないが、魔王だとか意思を持った魔物達って何が目的でこんな事してるんだか。ただ単に世界征服でもしたいだけか?
ムセンの真似事じゃないが一応聞いてみるか。
「お前らなんでそこまでして人間滅ぼそうとしてるんだ?」
「んぐぐぐぐっ!! はぁっ……! はぁっ……!……理由なんざあるかよ、ただ楽しいからだ! 魔王様や他のやつらは知らねぇが……俺様はこの『技術』がどこまで通用すんのか試してぇ!! 人間を爆破する時の断末魔が面白えっ! それだけだっ!」
「あ、そう」
「わはははっ!! 覚悟しろよ勇者! 『技術』を持った魔物はまだ大勢控えてる! その全員がてめーを殺しにくるぜっ! てめーの周りのやつらも! 世界中の人間どもを殺し尽くすまで魔王軍は止まらねえ! てめーに世界じゅうの人間が守れるかよ!?」
「聞いて損した、安心しろ。そんな気ないから。それに俺勇者じゃないし、馬鹿だろお前」
「…………………え?」
俺は誘導棒を頭上高く振りかざし。
ザンッ!!!!
スパッ……
ライオンを一閃、たたっ斬った。
ライトセイバーはライオンの身体を通り抜けるようにして貫通した。まるで豆腐を包丁で斬るみたいにスパッといった。
「がはっ………!!! なら………お前……誰……なんだ……よ………?」
「言っただろ、ただの無職だ」
ズドオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!
クソライオンはぶった斬られ、倒れた。さすがにここまでやればもう立ち上がれないだろう。真っ二つになっちゃったし。
さーて終わった終わった。こっからずっと俺のターン、もう邪魔されてたまるか。早く帰って寝よう。
「今までもずっとあなたのターンでしたよ!? イシハラさんっ!」




