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四十五.医者の不養生



 おいおい、OIOI、マルイ。


 何なんだこの状況、まるで本物の規模の戦争じゃないか。兵士があちこちに倒れて門も壊れ、外から魔物がうじゃうじゃ入ってくる。まさか異世界に来て就職口を探していたら戦争を体験するはめになるとは。


「……ジャンヌ様……」

「大丈夫? アクア、怪我はない?」

「……はい」


 だもん騎士は俺と一緒に現れた宝塚美人に介抱されている。


「だ……誰かと思ったら……引退した騎士総長と……いつかの兄ちゃんじゃねえか……変な組み合わせだな……」


 こっちこそ誰かと思ったらいつだったか門で会った門兵のおっさんか。だもん騎士と一緒に街の防衛に努めていたわけか、立派なもんだ。


「イシハラさん!魔物がっ!」


 ムセンが叫ぶ。見ると侵入口となった門から追加の魔物達が押し寄せていた。

 まぁ積もる話は後だ、とりあえずあいつらをどうにかしないとゆっくりできん。通行止めを張っているからこっちには来れないだろうが、門横にある脇道や家屋から街に侵入してしまう。

 俺は宝塚美人に話しかけた。


「宝ジャンヌって言ったか、魔物をどうにかしてくれ」

「言ってないわ、貴方のその『技術』で何とかできるんじゃない?」

「無職をどこまで働かせるつもりだ、俺の仕事じゃない」

「私ももう騎士は引退しているわ、無職みたいなものよ。片腕の女の子にあれだけの魔物を相手にさせる気?」

「無職というのは給料を貰っていないやつの事を言うんだ、つまりお前は給料を貰っていなくて街を守る気もさらさら無い立場だ、と。そう言いたいのか?」

「……もう……わかったわよ」


 文句を言いながら満更でもなさそうな顔で、片腕のショートカット美人はスタスタと悠然に魔物達に向かっていった。


【ムセン・アイコム技術『サンシャイン・キュアライト』】


「………………っ……? 俺は……」

「……あれ? 魔物に……やられたはずなのに…」

「温かな光だ………傷も……心も……癒されてく……」


 ムセンは回復技術を倒れていた門兵達に使う。結構重傷だった兵士達も意識を取り戻した、凄いなあいつ。医者とかになった方がいいような気がする。


「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」


 しかし、その代わりにムセンが膝をついた。怪我人を治した代わりにムセンの顔色が悪くなっている。


「はぁっ……はぁっ……はぁっ……人数と……傷の具合に応じて……私の……はぁっ……体力と……引き換えにっ……して……はぁっ……はぁっ……回復をっ……行う……みたいですっ……この技術っ……」


 これが医者の不養生というやつか。


「君っ、大丈夫か!?」

「治してくれてありがとう! 君は女神だっ!」

「顔色が悪いぞ! さぁっ! 俺が診療所まで運ぼうっ!」

「い、いや! 俺の肩を貸すよっ!」

「お前はまだ傷を負ってるだろ! 俺がっ!


「はぁっ……はぁっ……い、いえっあのっ………」


 ムセンが回復した兵士達に囲まれる。大人気だなあいつ、まぁ顔色悪いし診療所まで運んでもらえるならそうしてもらった方がいいだろう。


「だっ……大丈夫ですっ! 私っ……まだ試験中でっ……イシハラさんにおんぶしてもらいますからっ! ありがとうございますっ! イシハラさんっ! お願いしますっ!」


 何を怒涛(どとう)の勢いで勝手に決めてんだこいつ。俺の発言を許さない感じでムセンは隣に駆け寄ってきた。まぁムセンがまだ試験を続けたいなら仕方ない、面倒だがおぶってやるか。


「////ご、ごめんなさいイシハラさん……」

「仕方あるまい」


 俺はムセンを背負った。何故か兵士達に睨まれてるがどうでもいい。

 さて、ここはあの宝ジャンヌに任せておけば平気だろう。俺達はエミリの住む貧民街とやらに向かうとしよう。


「ナ……ナツイっ! どこへ行くの!?」


 だもん騎士に声をかけられる。


「貧民街だ、とりあえずエミリを母親に引き渡してそこにいる連中を逃がす。貧民街は西南地区だろう、ここは任せたぞ」

「……っ………………………わかった、気をつけてっ……」


 何か色々言いたそうなだもん騎士だったがそれらを飲み込んだような顔をしてだもん騎士は剣を握った。


「さぁ、行くぞムセン」

「はぁっ……はぁ……はいっ!」


「アクア、まだやれるわよね? やるわよ」

「……はい! ジャンヌ様!」



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