番外編.王都戦争⑧『門兵長と騎士』※アクア・マリンセイバー視点
〈ウルベリオン王都.西門付近〉
「門兵長!! 第四班、住民の避難を完了しました!」
「わかった! 残ってるのは……3つの班か……アマクダリさんの手順書のおかげでスムーズに行ってんな。まだ住民は多いがこれなら間に合うかもしれねぇ……」
スタッ
「はぁ……はぁ……貴様は門兵か? 門からは離れろと指示を受けたはずだ、ここで何をしている?」
「……あんたは……冷笑の騎士さんか」
私は西門内部に降り立った。
(良かった、まだ門は破壊されてないし魔物も侵入していないみたい。間に合った……!)
「勿論……魔物の侵入を許しちまった時の足止め役さ。まだ西区画の避難は終わってねぇからな……ま、時間稼ぎになるかはわからねぇが」
「………たったこれだけの兵力でか?」
見たところ門兵は数十人しかいない。
(こんな数じゃあ……しかも門兵の力じゃあ……命を無駄にするだけじゃない……)
「それでも……それで一人の命でも救われんならやるしかねぇでしょうや。それが俺達『門兵』の仕事だからな」
「……………ふっ、そうか」
『王都兵士』……兵士の中でも先天的な適職の才を持つ者だけが選ばれるいわゆるエリート達。各地に派遣される兵と違い、王都兵は優れた技術を持つ者しか選ばれない。
城を守護する護衛兵、近衛兵。見習い騎士となる騎士兵。そして、城下を守る門兵。
役職は違うけどウルベリオンに常駐している兵は皆が優れた技術を持っていると聞いた。
だからかわからないけど……皆、矜持が高くて……住民には偉そうにするくせに私達騎士や勇者には媚びへつらう兵士ばかりで……正直、あまりウルベリオン兵は好きではなかった。積極的に話そうとも思わなかったから……知らなかった。
こんな兵士もいるんだ。
すると突然閃光が走り、門と街壁の上段の一部が崩れ落ちた。
「「!!?」」
私も門兵長は突然の轟音にすぐに異変の方へ向き構えた。街の外の空が崩れ落ちた部分から顔を覗かせる。
「何だぁっ!!? 砲撃かっ!? 魔物達は大砲まで持ってきてるのかよ!?」
門兵長が驚きの声をあげる。
(いえ……北門で見た魔物達は武器こそ持っていたものの……攻城兵器のようなものは用意していなかった。恐らく『技術』をもっているから不用と考えたのだと思うけど……それじゃああれは魔物の『技術』による攻撃っ!? 魔物達は一体どこまで力をつけているの!?)
魔物達のものと思われる攻撃は続き、門と街壁は徐々に壊されいく。連続で閃光が走り破壊された門の隙間から甲高く不快な鳴き声が漏れる。
「うわっ!?」
「……くっ!!」
(西門を守る騎士団達は……っ!! もしかしてもう………)
《ギャアァァァァッ!》
《グォォォォォッ!!》
《ガォァァァッ!》
「さぁな、行きなサイな、魔物達ぃっ! ユウシャを探しだしなさいな!」
土煙の中から多くの魔物が現れた。先頭にいる隊長格らしき蛇と人を混ぜたような魔物のかけ声と共に魔物達が咆哮する。
「人の言葉を喋ってやがる……あれが役職に就いた魔物かっ!」
「……臆したか? 怖じ気づいたのなら逃げても構わんぞ」
「……へっ、冗談じゃねえですよ。冷笑騎士さんこそ……評判通りなら俺らの事なんぞ見捨てるような人間じゃなかったんですかぃ?」
「……騎士である私がか? 心外だな」
「すみませんねぇ、どうやらくだらねぇ噂に過ぎなかったようだ。じゃあ……やりますか! 美人騎士さん!」
「……あぁ!」
(騎士団を退けるような魔物の軍団相手に私が勝てるなんて思えない。けど、これで……私は本物の『騎士』になれる。私が時間を稼いで……みんなが助かれば……それでいい。ジャンヌ様……ナツイ。見ててね、私の騎士道を!)




