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四十二.ウテンのち風雲


「何だ、お前だったのか」

「うん、久しぶり。いー君」


 俺とムセンの前に湖から歩いてきた女が跳び上がり、降り立った。それを見たムセンが怪訝(けげん)な表情をしている。


「どうした? 手は出さないんじゃなかったのか?」

「事情が変わった、あんまり魔物に時間かけないで。しょうがないから私が倒した、あなたには街に戻ってもらいたい」

「お前が勝手に倒したんだから試験には関係ないな」

「うん、私がやらなくてもあなたなら勝てた。でも時間がかかりそうだったから私がやった。ただそれだけ」

「ならいい、じゃあムセン。さっさと卵を探して帰るぞ」


「ちょっと色々と待ってくださいっ!!」


 ムセンが激しく待ったをかけた。何だ? せっかく狙撃手はこいつに倒されて楽できたのに。


「まず探してるのは卵じゃありませんし!『マタゴ花』ですっ!」

「同じようなもんだろ」

「そう、食用にするなら食用卵と成分的にはほぼ同じ。ただマタゴ花の身に卵黄は無い。全て白身、そして食用にもなるけどあまり美味しくない」


 美味しくない、それは俺を絶望させるに相応しい情報だった。全てのやる気を無くした俺は深く項垂(うなだ)れる。


「どうでもいい事で絶望しないでくださいっ! 私が話したいのはそんな事じゃないんですっ!」

「じゃあ何だよ」


「イシハラ! ムセン! 無事なのよ!?」


 鳥からもう平気な事を伝えられたエミリ達が俺達のもとへ駆け寄ってきた。


「……って誰なのよ!? 知らない人がいるなのよ!?」

「本当だー、イシハラ君の知り合い?」

「ひぃ……はぁ……もしかしてそこに倒れている魔物が狙撃手でしょうか……? 倒していただいたのでしょうか?」

「ぴぃ! そうだっぴ! 彼女が倒したんだっぴ!」

「そうですイシハラさんっ! 彼女は誰なんですかっ!? この世界にお知り合いはいないって言っていたではないですかっ! 説明してくださいっ!」


 全員がこの女の正体を俺に聞いてくる。まったくこいつらは何言ってんだか。


「ずっと俺達と一緒にいただろうに、特にムセンは」

「………………え?」

「いー君、たぶんみんなは気づいてなかった。私が話した事があるのはあなただけ」


 なんだ、そうなのか。まぁ確かにこいつはこそこそ俺達についてきていたからな。極度の人見知りなのかと思っていた。


「そんなわけない。仕事。人前に無闇に姿は晒さない」

「し……仕事ですか……? 私達をつけていたという事ですか!? 誰かの命令ですか!?」

「言わない。けどそう。ムセン・アイコム、あなたが裸でいー君と一緒に寝ていた時も近くにいた」


「い……一緒に裸で寝てた!? なのよ!? どーいう事なのよムセン!? 説明するなのよ!」

「えー、ずるいよームセンちゃん」

「ぴぃ! 交尾したぴ!?」


「いぇっ!? あのっ!? そのっ!? 誤解でっ!? お酒の勢いもありましてっ!?」


 あまりにも(やかま)しかったので俺は一喝して場を取り直した。


--------------


「王国諜報部員、つまりウルベリオン王直属の陰の部隊。コードネームは【雨天(ウテン)】。よろしく」


 淡白な感じの自己紹介をウテンはする。さっぱりしていて俺好みだ。

 俺、ムセン、スズキさんはウテンの話を聞いている。

 エミリ、シューズ、鳥は目的の卵を探しに行った。全員で話をしていてもしょうがないしな、時間短縮のため。ウテンは何か急いでるようだし。


「王国諜報部員……? で、では貴女は……王の……部下ですか?」

「何故王の部下だとわかったの?スズ・キイチ・ロウ」

「い……いえ……今……貴女が王直属と自分で……」

「…………………迂闊。でもそう、私は王の(めい)であなた達をずっと見ていた。正確には異界召喚されたいー君とムセン・アイコムを。異界召喚されて城を追い出された後から」


「何故です? 何のために私達をっ……!」

「勿論、あなた達のサポート。二人が困っている事がないか逐一(ちくいち)王に知らせるため。異界召喚された人間には諜報部員が大体ついてる。手助けのため」

「そ……そうだったんですか……」

「しかし貴女と……特にいー君は手助けの必要が無かったから今まで手を出さなかった」

「……何故イシハラさんとは面識があったのですか?」

「いー君は最初から私に気づいていた。特に気にしてなかったようだけど……初めて話したのは警備兵試験初日の夜。お風呂に入ろうとしたいー君を覗こうとしたら見つかって追い出された。その時」

「な、何をしてるんですか!? 貴女はっ!」

「私の存在に気づいたのはいー君が初めてだった。びっくりした、その時に色々話した」

「イシハラさん……最初から気づいていて……私に何も言わなかったのですか?」


「YES、だってお前も気づいてるのかと思ってたし」

「………はぁ……全然気づきませんでしたよ……あなたは色々と説明不足すぎです……まぁそれはもういいです、それよりも……な、何故い……いー君なんて親しげに呼んでいるのですか…?」


「? 他の人の呼び方と被らないようにしてるだけ。別に他意はない」

「そ……そうなんですか……なら……いいですけど……」


 しかし、今までみんなの前に姿を現さなかったこいつが今更何で出てきたんだ? 話した時は俺達の試験には手を貸さないって言ってたのに。


「それは今から話す。依頼人の子供が戻ったら。全員で聞いた方が良い」


 ウテンは静かに言った。一体何の話なんだ、面倒事はもうこりごりなんだが。


「イシハラー! ムセーン! 見つけたのよ!」


 エミリとシューズは卵を見つけ、摘んできたようだ。これで目的は達成されたな。

 さて、後は帰るだけ、長かった。帰ったら20時間くらい寝るとしよう。


「寝すぎですっ!」

「いー君、たぶんそんな事はできない。手を貸してほしい」

「……? どういう事でしょうかウテンさん?」

「…………みんな、聞いてほしい」


 ウテンは集まった俺達に向かって言った。


「魔物の軍勢が最終防衛地点まで到達してしまった、ウルベリオン王都は……まもなく戦場になる」

















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