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四十一.100人乗っても大分、丈夫


 さて、木々に隠れているのも飽きるし何とかしないといけないな。


「イシハラさん、何か……打開する策はありますか…?」


 ムセンは相変わらず俺にくっつきながら上目遣いで言う。


「1.このまま帰る。2.ここで寝る。3.とりあえず食事にする、どれがいい?」

「何ですかそのお買い物帰りみたいな選択肢!? スナイパーに狙われてる状況での選択肢じゃありませんよ!?」


 まったく、うるさい奴だ。


「じゃあ4.誰かが注意をひいて誰かが倒してくる。それくらいしかないだろう」

「…………確かにそうですね……今のところスナイパーがどこから狙撃しているかもわかりません。もしかしたら位置を変えてしまうかもしれませんし……」

「イシハラ君、さっきエミリちゃんに張った『技術』って全員にできる?」

「無理だな、『安全領域』はどうやらまだ『一人』にしか張れないらしい」

「そっかー、じゃあみんなで倒しに行くのは無理だねー…」



「きゃぁっ!?」


 また銃声が聞こえ、ムセンが驚く。銃弾は俺達の隠れている木に命中したようだ、枝葉が少し揺れた。


「ぴぃっ! 見てたのにどこから撃ってきたか全くわからないっぴ!もしかしたら何かの『技術』を使って姿を隠してるかもしれないぴ!」

「ど……どんな技術なのよ!?」

「わからないっぴ! けど魔物には色々な種類の生態系がいるっぴ!その生態に応じて産まれつきに【生態特性技術】ってのを持ってるやつがいるっぴ! 蜘蛛だったら『糸を産み出す』とか蛇の魔物だったら『熱を感知する』とか……産まれつきの『特性技術』を使うやつらがいるっぴ! もしかしたらこの魔物は姿を隠せるような魔物かもしれないっぴ!」


 なるほど、じゃあカメレオンみたいな魔物もいるかもしれない。姿を隠しながら狙撃する。そうだとすると滅茶苦茶メンドい、どちゃくそしんどい、メーン。


「……みんな……花は諦めるなのよ、このまま引き返して帰れば狙われずに……戦わずに済むなのよ……」

「……!……それはっ……! でもエミリさんっ……お花をプレゼントするって……!」

「………そうだけど……みんなの命には代えられないなのよ……大丈夫なのよ……何とか誤魔化してみんなは試験に合格できるように言っておくなのよ、だから大丈夫なのよ。だって……今日が最後じゃないんだから」

「………エミリさん……」

「……みんなには……警備兵になってほしいなのよ……一人も死なないで……また、みんなでここに来たいなのよ……だから」


 はぁ、まったく阿保らしいな。仕方ない、じゃあ行くとするか。


「「イ……イシハラさん(君)っ!?」」

「!?」


 俺は木の影から出て湖に歩く。みんなが驚きながら俺を呼び止めようとした時、再度銃弾が飛んできたがギリギリで俺は避ける。飛んでくる方向は大体わかったが、やはり姿は全く見えないな。


「何やってるなのよイシハラ!! やめるなのよ! いくらあんたでも危険すぎるなのよ!」

「ぴぃっ! そうだっぴ御主人様! 頭や心臓に直撃したら御主人様でも死んじゃうっぴよ!」

「イシハラさんっ!! 戻ってください!」


「断る」


「イシハラ……何で……」

「さっき言っただろ、ガキはガキらしく我が儘放題で育てばいい。魔物なんぞのために我が儘を諦めるなんてアホらしい」

「でもっ……! でもあんたが死んだらっ……何の意味もないなのよ!」

「大丈夫だろ、たぶん。鳥、今のうちに狙撃手の位置を掴め。飛んで探せるだろうお前なら」

「ぴぃっ! 承知しましたっぴ! 御主人様! 死なないでぴぃ!」


「……イシハラっ……!」

「これが俺達の『仕事』だ、依頼人はおとなしく依頼が叶うのを待ってればいい、俺達が『警備』してやるさ」


「……イシハラさん……………っ!」


 すると誰かが木の陰から飛び出して俺の所へ走ってきた。


「ムセン君!?」


 ムセンだった。ムセンは俺の後ろに張り付いている。


「何やってんだお前?」

「わっ……私もっ……! 戦いますっ! 怖いですけどっ……足手纏いにならないようっ! イシハラさんが負傷したら私がすぐに治しますっ! イシハラさんが倒れたら私が盾になりますっ! だからっ……! 私も一緒に行きますっ!」


 俺の背後に張り付きムセンは言う。服を掴むその手は恐怖に震えている、が、しっかりと俺にしがみつく。


 ムセン。


 邪魔だ。

 が、頑張ろうというその意志はわかった。面倒だが、まとめて警備してやるか。

 そして、銃弾は再度俺達を何度も襲う。その音は遠くから聞こえているはずなのに俺達の耳元で鳴っているかのようだ。


「ひっ!……っ!」

「ついてくるならしっかり隠れておけ」

「……はいっ!」


 中々に状況は厳しいな、だが、鳥が狙撃手を見つけるまで耐えるしかないか。


「すだれおじさん、エミリちゃんの事、お願いするよー」

「……! 任せてください!」

「シューズまで! 何する気なのよ!?」

「誰かが倒しに行かなきゃいけないんでしょ? アタシがやるよー、このままじゃイシハラ君達危ないし」

「一人で行くなのよ!? そっちだって危険かもしれないなのよ!?」

「うん、でもアタシしかいないしー。エミリちゃんを一人にするわけにも連れていくわけにもいかないからねー」

「……シューズッ……!」


 銃弾を掻い(くぐ)り、俺達はなるべく長く引き付けられるように見易い位置へ移動する。


「イシハラさんっ……平気ですかっ!?」

「大丈夫だ、腹は減ったが」

「本当に平気ですかっ!? 無茶だけはしないでくださいね!? イシハラさんが死んでしまったらっ……私っ……嫌ですからっ!」


 お前は俺の母親か。


「いいからお前は自分の心配をしてろ」

「はいっ!」


 返事をしたムセンの目にもう怯えや恐怖といった感情は無いように思えた。こいつはどんどん成長していくな。そして、強い。怖がりながらも色々な事に立ち向かっている。大したものだ。


 なんて事を考えていると鳥の羽ばたき音みたいなのが近づいてきた。


「ご……御主人様御主人様っ!!」


 鳥が血相を変えて戻ってきたのだ。何かあったのだろうか?狙撃手が見つかったのか?


「どうした? 狙撃手を見つけたのか?」

「ぴ! それが………もう大丈夫なんだぴ!」


「「?」」


 俺もムセンも、鳥の意味不明な言葉にはてなマークが浮かぶ。大丈夫って何がだ?

 だいぶ、じょうぶ(大分、丈夫)で大丈夫って事か?

 なるほど、『もう大分、丈夫なんだぴ』。それなら意味が通じるな、冴え渡る推理。


「絶対違いますよ? 通じませんし!……ぴぃさん、もう大丈夫とは一体……?……そういえば……先ほどから銃弾が飛んできませんね……どういう事でしょうか……?」



「いしはらなつい、いー君」


 突然、俺を呼ぶ声がした。女の声だ、ムセンの物真似か?


「違いますよっ! 何故私がこの状況でモノマネするんですか!! しかも誰のモノマネですか!」


 ムセンから流れるようなツッコミが飛んでくる。こいつ、お笑い芸人でも目指せばいいのに。


 すると声のした方から俺達に向け何かが投げられた。


「きゃあっ!?」


 見てみるとそれは何かカメレオンっぽい魔物だった。何かピクピク痙攣しながら泡を吹いている。何だこいつ? もしかしたらこいつが『狙撃手』か?


「そう、仕留めた」


 湖の方から声がした。声の主は……湖の上を歩いていた。

 俺は声の主の女に返答する。


「何だ、『お前』だったのか」

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