三十七.カーペットの裏
「な、何者なのアンタ!!?」
「無職のイシハラだ、よろしく」
まったくでかい蜘蛛だな。ムセン達が蜘蛛の巣に張りつけられているところを見るに、どうやらあいつの仕業らしい。しかも言葉を話してるって事は魔王軍の隊長クラスってやつだ。
あぁ、メンドい。この世は斯くも無情なものか、何故俺の休息時間を減らすのか。
イライラするからあの蜘蛛は倒そう。
「そんな理由がなくても倒してください!」
ムセンからツッコミがとんでくる。何だ、元気じゃないか。じゃあさっさと終わらせて少しでも長く寝よう、明日も早いんだ。
「御主人様御主人様! あいつには音が効かないっぴ! どうしたらいいっぴ!?」
「仕方ないから俺がやるさ、鳥は周りのまだいる雑魚蜘蛛を気絶させておいてくれ。そうすれば非常にはかどる」
「承知したっぴ! 任せるぴ!」
「イシハラ君、アタシは?」
「俺がでか蜘蛛を相手している間に三人を助けろ、火を使えば糸も燃えるだろう。離れてろ」
「うん、わかったー」
俺は剣を抜く。ここなら多少広いから剣とか『技術』とかも使えるかな。さて、多少強い魔物の相手だし動かないわけにもいかないか。
久々に体動かすな、もう二度と運動したくなかったのに。これを人生最後の運動にして、余生はボーッと過ごそう。
「人生最後にするの早くないですか!? お年寄りの発想ですよ!?」
ムセンがうるさい。突っ込む元気があるんならさっさとそこから脱出せんかい。
「何者か知らないけど……なめてくれるジャナイ……アナタもワタシの操り人形にしてアゲルわよ!!」
糸に吊られていたでか蜘蛛は闇に包まれた高い天井まで戻り、張ってあった蜘蛛の巣を縦横無尽に移動する。動きが速くてキモい。
そしてでか蜘蛛のでかい尻から俺に向けて糸が発射される。俺は適当に剣を振って糸を切断する。
「かかったわね!!」
「あ」
剣に糸がベッタリとくっついた。
そして強引に引っ張られた、俺は力比べをするのが面倒だったためすぐに剣を離す。剣はそのままでか蜘蛛の元にいった。剣取られちった。
そして再び糸が俺を襲う。
「イシハラさんっ!!!」
ムセンが叫ぶ。しかし糸は俺の数十センチ手前で金属音を響かせながら弾かれた。
「なっ!?」
【イシハラ・ナツイ警備技術『安全領域』】
お馴染みカラーコーンを設置した俺の周囲には結界的なものが張られ、糸の侵入を防いだからだ。
「……やるワネ……結界で攻撃を防いでいるのね……だったらこれはどうかしらっ!?」
【魔王軍中隊長+蜘蛛特性技術『ポイズン・ミストルアー』】
------------------------------------------◇主観によるMEMO
・毒性のある糸を粒子状にまで細やかにする技術のようだ、壁や結界などに阻まれずに対象に届かせる事ができるらしい。
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俺の周囲の霧がサァッと音を立てながら変な色に変わっていく。霧は結界を通り抜けて中の空気も変な色に染めあげていった。
「ふふふ、この霧糸は毒……空気に浸透するほどコマヤカでどんな場所でも侵入してイクワ! そこに空気があるならね!」
なるほどね。確かに安全領域といっても空気がなくなるわけじゃない、俺が死んでしまうからな。つまり空気感染的なものはこの『技術』じゃ防げない。そこに目をつけ、糸を空気に浸透するほどの粒子状にして結界内に侵入させたわけだ。頭いいなあのデカ蜘蛛。
「そしてこの毒霧糸は生物の体内に侵入してその生物の体をトカス……ふふ。徐々に徐々に……痛みと苦しみと共に体はどんどんとトケテいくのよ……安心して? ワタシの養分としてアナタはワタシにトリコンデあげるから」
ブクブクと、まるで生物のように俺の体の血管が何かキモく沸騰し始める。うわ、キモい。
関係ないけどカーペットとかに寝転がって肌にカーペットの跡とかつくと凄いキモい感じになるよな。そんな感じ。
「イシハラさぁぁんっ!!!」
ムセンが叫ぶ。その下ではシューズと焼き鳥が蜘蛛達を順調に片付けていた。ふむ、あっちは大丈夫そうだな。
あとは俺がこのデカ蜘蛛を片付けられるかどうか、か。
さーてどうするか。いちいち倒しかたを模索しなきゃいけないなんて面倒にもほどがあるな、蜘蛛スプレーとかで簡単に死んだりしないかな。ホームセンターに行って買ってこなければ。
あ、この世界にホームセンターってあるのだろうか? あんまりファンタジーには見た事ないけど。後で検索してみよう。
そんな事を考えていると、沸騰していた血管がいつの間にか沸騰してなかった。
「…………え?」
「………え?」
「え?」
ムセン、でか蜘蛛がきょとんとした顔で俺を見る。それにつられて俺もきょとんとした。
何驚いてんだこいつら?
「……え? イシハラさん……毒が体に廻ったんじゃないんですか?」
「知らん、廻ってるんじゃないのか?」
「し……知らんって貴方の事ですよ!? か…………体は平気なんですか?!」
「大丈夫、いや、少しやる気ないな」
「それはいつもの事でしょう!?」
失礼オブザキングだなあいつ。まるで俺はいつもやる気がないみたいに言うんじゃない。
「な、何故!? ワタシの毒は確かに効いているっ! なのに……っ何故平然としてイラレルのよっ!?」
俺が知るかっての。何なんだどいつもこいつも。
するとムセンを捕らえていた蜘蛛の巣が炎に包まれた。ジリジリと糸は燃え出し、ムセンはそのまま下へと落ちる。シューズがやったのだろう。下にいたシューズがムセンを受け止める。
「わわっ!?」
「大丈夫ムセンちゃん?」
「いたた……シューズさん! ありがとうございます! スズさんとエミリさんは!?」
「大丈夫だよー、もう助けたよー」
蜘蛛の相手をしていた焼き鳥もこちらにやってきた。
「御主人様御主人様! こっちは終わったっぴ! みんな無事っぴよ!」
鳥は雑魚蜘蛛を全て気絶させていた。中々やるじゃないか、みんな良くやってくれた。後はこのでか蜘蛛だけだな。
俺はでか蜘蛛に近づいていく。
「ひ、ひぃっ!?」
「ねーねーフエドリちゃん、イシハラ君……毒にかかってるみたいだけど平気みたいだよ? そういえばスライムの時も水の中で平然としてたんだけど何か知ってる?」
「はいっぴ! ぴぃは御主人様に従事するために御主人様の『技術』の事は何でも知ってるぴよ! あれは御主人様の異常な精神力によって産まれた御主人様だけの『技術』だっぴ!」
「えっと……つまりどういう事なんですか鳥さん?」
「【天性】の才を持つ人はその性格からも『技術』を産み出せるっぴよ! あれは恐ろしい程のマイペースさを持った御主人様が身につけた性格による『天性技術』……【無之極意】っぴ!」
「……【無之極意】……?」
なんか遠くで俺の悪口が聞こえる。
「御主人様の神秘的ともいえるマイペースさによって体のダメージを全く意に介さない……つまり、精神力が体のダメージを遅らせているっぴ! わかりやすく言うなら無の神経……『無神経』だっぴ! ある逸話では『断首された死刑囚がそれを認識していなかったため首だけで数分生きていた』なんて話があるっぴよ! それの極地……体のダメージを意に介していないためにダメージが体に追い付かないっぴよ!」
「な、何ですかそれ!? 気にしてないってだけでそんな風になるものなんですか!?……でもそれはつまり確実に傷は負っているって事ですよね!?」
「はいっぴ! だけど御主人様はその体内を地球時間で計測しているっぴ! 地球とここ【オルス】では時間の進み方が違うっぴ! 他にも御主人様の職業技術との組み合わせによってダメージが追い付くまでの時間が異常に長くなってるっぴ!」
「……ますます意味がわかりませんが……では、イシハラさんの体が毒を認識するまでにどれくらいかかるのですか?」
「おおよそ24時間だっぴ! 勿論その間に回復すればダメージは認識されないぴ!」
「無敵じゃないですか!! もう化物ですよあの人!」
「化物じゃないっぴ! 凄く無神経なだけっぴ!」
やっぱりあの鳥は焼き鳥にするか。
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【石原鳴月維.天性技術『無之極意』】
・身体的ダメージを精神により大幅に遅らせる。それにより致命傷でない限り傷を負っても24時間活動可能。その間、傷や病状は一切進行しない。
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