三十三.お気に入り登録
「……できましたっ。ミルクで煮た野菜と燻製肉のスープです」
「おお」
ムセンは見事に地球で言うシチューに似た料理を完成させた。美味そうな匂いが辺りに立ち込める。凄いな、食材を見ただけでレシピすら知らない料理を一人で完成させてしまうとは。
「ちょうどパンもありましたので……付け合わせになるようなものが作れればいいなと……栄養価の事も考えて作ってみたんですけど……皆さんのお口に合えば良いのですが……」
「間違いなく口に合う、匂いでわかる。ムセン、良くやった」
「え……えへへへ……イシハラさんが木や貝殻で簡易調理器具を作ってくれたおかげです……何でもできるんですねイシハラさんは」
警備員時代はほぼ完全に定時上がりだったし、午前で仕事が終わる時もあった。そのおかげで時間をもて余していた俺は暇つぶしに色々な趣味をもった。飽きやすいからどれも長続きはしなかったが、一通りの事はやった。
休みにふらっと旅に出たり、着の身着のままでいつの間にか無人島にたどり着いた事や山奥でサバイバルした事もあった。その時に適当に身についた技術だろう、まぁそんな事はどうでもいい。
「いただきます」
俺は自作した木のスプーンでシチューをいただく。
「! これはっ」
「……ど……どうでしょうか……? 技術を使って自分なりに考えて作ってみたのですが……」
「ムセン」
美味しいもくそもない。何だこの味は、初めてシチューではないシチューなるものを食べたが……俺から言える事は一つだけだ。
「……な、何でしょうか……?」
「結婚してくれ」
「え? は、はい。……………………………………………………………………………!!??」
素晴らしい、何だろうかこの美味さは。異界に来て初めて腹を膨らますため以外の目的の美味しさに出会った。
いや、もしかしたら地球でもこんな美味い料理を食べた事はないかもしれん。筆舌に尽くしがたい、これが……ソウルフード(魂を掴む料理)……!
「なななななな何を言っているんですすか!? イシハラさんっ! いきなりそんなっ……!!」
「俺のいた世界にはこんな言葉がある、『結婚には給料袋、お袋、堪忍袋、金玉袋(子宝)が大事だ』と。そしてもう一つが『胃袋』。まさしくその通り。こんな料理が毎日出てくる、それは俺のこれからの人生には欠かせないものになった。だから結婚してくれ」
「いえっあのっそんなっだめっそっそういうのは順序よくっ清い交際をっ経てからするものであってっ」
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・ムセンは激しく動揺している!
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「ムセン! 落ち着くなのよ! よそいながら動揺するのをやめるなのよ! スープが飛び散ってきて熱いなのよ!」
「ひぇぇ! 頭にかかってますぅ! 熱いっ!」
「えーずるいよーあたしが先に結婚の約束したのにー。あたしもこれから料理頑張るよー」
ふむ、確かにこいつが勝手に決めた事ではあるがシューズとも四年後くらいといって結婚の約束をしたな。この世界で違法になるかはわからないが重婚はまずいだろう。
「で出会ったばかりですしまだお付き合いもしていないのでそれはいきなりすぎてあれなんですけどお応えしかねるんですがもう少しお互いを知る事ができればそのお受けすることもいとわないというかもっとお互いを知ることが清いお付き合いになるというか決していやじゃないんですよけど私まだ男性とお付き合いもしたことがありませんのであの」
「じゃあいいや、今のナシで」
「えぇっ!? さ……最後まで聞いてくださいっ!」
ふむ、パンもシチュー似のスープによく合うし大変満足だ。俺はパンとスープと果物を貪った。
「ねぇねぇイシハラ君、フレンド登録しようよ」
「構わん、申請しておけば後でやる」
「やったー、ふんふーん♪ 申請しておくね」
「ダ、ダメですシューズさん!」
「えー? 何でー? ムセンちゃん」
「女性の方は男性に気軽にフレンド登録して頂くものではありません! ス……スリーサイズまで知られてしまうのですよ!?」
「……? 別にイシハラ君になら知られてもいーけどフレンド登録でそんな事までわからないはずだよ? プライバシー侵害になるから」
「……え? で……でもイシハラさんには……私の身体の至るところまで知られてしまったのですよ!?」
「ホクロの数までな」
「誤解を招くような言い回ししないでください!……え? ただの冗談ですよね? 本当にそんな事まで書いてないですよね?」
「それはたぶん……ムセン君とイシハラ君が互いに【お気に入り登録】をしたからですね、見てみてください。フレンド登録の相手の詳細画面にハートマークがあるでしょう?フレンド登録は登録した人の中で一人だけ【お気に入り登録】ができるんです。お互いに【お気に入り登録】をすればより詳細な個人データや……その人が現在いる位置や状態など詳しく把握する事ができるのですよ」
俺はいつも通りに異世界転生ものに必須のステータスオープンをして確認してみる。
「本当だ」
こんなマークがあったのか、何か適当にいじっていたら押していたらしい。
「そ、そうなんですか。そんな事知らずに押していました……そもそもこのステータス画面やフレンド登録とは何なのでしょう……」
「元は対魔物の情報を解析する技術を人間用に新たに造り変えたものらしいですよ、この世界では学院を卒業して成人になるとこのステータス画面を無料で個人に実装しています。成人にならずとも希望者にはつけて頂けますが……少しお高いんですぅ……」
「そうなのよ……だからアタシはステータス画面は開けないのよ」
なるほどね、身分証明書みたいなものだな。
これならフレンド登録とやらをするだけで個人の持つ資格や技術、更には人となりが一発でわかる。いちいち資格証明書やら何やらを持ち歩くことはしなくていい。
つまりはファンタジー世界風のマイナンバーカード。しかし俺達はそんなもんつけてもらった覚えはないが。
「異界より召喚された方々には神官様が自動で技術付与を行っているらしいですよ」
「……ぅぅ、ありがたいようなそうでないような……大神官様も説明してくださらないからイシハラさんには私の情報が筒抜けになってしまいました……」
「じゃあイシハラ君、あたしをお気に入り登録してー? あたしはイシハラ君に全部教えてもいいからさー」
「だ、だめですっ! そんな簡単に女性の個人情報をお教えするものではありませんよシューズさん! し……仕方ないですね! 私はもう知られてしまいましたから私の情報は見てもいいですよっ! だけどイシハラさんは他の女性をお気に入り登録してはダメですから!ね?」
くそうるさい。何度も言っているように食事中にギャーギャー騒ぐんじゃない。
「霧が出てきましたね……冷え込んできたからでしょうか……?」
「確かに夜を明かすには冷たい気温ですね、何か毛布の代わり……に…なる……………よ………ぅ………な………」
…
………
……………
ふぅ、食った。星3つ。いつ食べログに掲載されてもおかしくない。
「うーん………イシハラくぅん………zzz」
いつの間にかシューズが膝の上で寝ていた。なんだこいつ、食べてすぐ寝るなんて体に悪いぞ。
じゃあ俺も寝るとするか。
「?……ムセン? スズキさん? エミリ?」
呼んでは見たが辺りは木々が風でそよぐ音しか聞こえなかった。
三人がいつの間にかどこにもいない。何事だ? 食事に夢中で全く気付かなかった。夜逃げでもしたのか?




