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三十二.キャンプ


「Zzz……………はぁ、よく寝た」


 時間を確認してみる。どうやら小一時間ほど眠っていたようだ。

 ふむ、食後すぐにの昼寝はやはり素晴らしい。食物が血となり肉となり体を巡っていくのを感じる、今ならなんでもできそうだ。やる気ないけど。


「ぅぅん……ナツイぃ……私の下につきなさいよぉ……スー……スー……」


 いつの間にかだもん騎士が隣で寝ていた。何してんだこいつ、どうりでなんか狭いと思った。

 まぁいいか、起きるとうるさいからこのまま旅立とう。


 扉を開けるとムセンが体育座りで廊下に座り込んでいた。


「……イシハラさん……一体……何をしていたんですか……」

「寝てた」

「……あの騎士の女性はどうしたんですか……」

「寝ている」

「……! イシハラさんの好色家! えっちです! もう知りませんっ!」


 ムセンが意味不明な事を言って階段を降りていった。毒キノコでも食べておかしくなったのかあいつ。


----------------------------


〈ミドリ平原〉


 俺達はだもん騎士を起こさないようにして村を出発した。さようなら、だもん騎士。


「…………」


 なんかムセンはこちらを睨みながら歩いている。毒キノコの毒で幻覚を見ているようだ、早く治せばいいのに。


「うーん、たぶん違うと思うよイシハラ君」

「……イシハラ……あんたはもう少し女ゴコロを知った方がいいなのよ」


 ガキに説教された、釈迦に説法。


「皆さん、ブッコロリ森林へはここから徒歩で四時間ほどかかりますが……大丈夫でしょうか?」


 スズキさんが皆に配慮し気を使う。ふむ、到着は夜になってしまうな、とりあえず食料とか買い込んでおいて良かった。


「ねぇねぇイシハラ君、手ぇ繋ごう?」

「構わん」

「やったー♪ ふんふーん♪」


 シューズが手を繋いでくる、こいつは何を考えているかわからないフシがあったが、意外と一番わかりやすいかもしれない。恐らく何も考えていないのだ。その場その場でやりたい事をやっているだけ。

 俺と似ている、俺もその場でやりたい事はやらないと気がすまないタイプだ。そしてやりたくない事は絶対やらない。どっちでもいい事はどっちでもいい。

 シンプルイズベスト。


「ちょっとイシハラさんシューズさん! 何をしてるんです!?」

「えー? 手繋ぎたかったから繋いだんだよ?」

「イシハラさんは何故易々と何でも受けてしまうのですか!?」

「別にどっちでもいいからだ」

「じゃ……じゃあ………私も繋ぎたいと言ったら…………………どうするんですか………?」

「構わん」

「ほ、本当ですか!?………いやいや! 魔物がいて怖いからですよ?! だから繋ぐんですよ!?……失礼します…」


 そして左手はムセンと繋いだ。別に理由なんか聞いてないのに何はしゃいでんだこいつ。


「……キイチ……一体何を見せられてるなのよ? あたし達は……」

「ふふ……良いですねぇ、若者の青春ですねぇ…」

「……やっぱり不安なのよ……この人達……」


--------------

----------

------


 それからまるでピクニックの如く手を繋いで魔物を倒しながら俺達は森の入り口にたどり着いた。

 脈々と構える高い山々の麓にあるその森は、まるで冒険者を死地へと誘う巨大なブロッコリー。

 そして山々の頂上にはその標高故か雪が積もっており、まるで天界へと続く後光のマヨネーズ。

 時刻は夕暮れ刻、直に闇夜が辺りを包むまるでカレーライス。


 ということで夕飯にする事にした。


「夜に森に入るのは危険ですからね、小川も近くにある事ですし……今日はここで夜を明かす事にしましょうイシハラ君」

「そうしましょう」

「ところで……食材を買ったはいいものの誰が調理するなのよ? あたしは料理できないなのよ?」

「アタシも武芸以外は習ってなかったからなー、これからイシハラ君のために頑張るよ」

「わ……私も妻に任せきりで……すみませぇん……」


 ふむ、俺も料理などした事ないな。何故ならとてつもなく面倒だから。カップラーメンを作る事すら面倒でいつも弁当だったから料理のりょの字も知らない。りょうかい、り。


「あ……あの、私で良ければ……一応一通りはできる……と思います」


 恐る恐る手を上げ恥ずかしそうにしながらムセンが手をあげる。

 ふむ、そういえば宇宙船では栄養管理や調理師をしていたと言っていた。素晴らしい適材じゃないか、何故自信なさげなんだ。


「私の世界の料理とは全く違いますので……万全な調理器具もありませんし……」


 なるほど、言われてみればこれはキャンプ。キャンプの調理はより一層難しいだろう、食材だってムセンのいた世界のものとは違うかもしれない。


「買った果実であれば調理しなくても大丈夫ですが……それだけではイシハラさんは満足しませんよね?」

「よくわかってる」


 夕飯がフルーツだけなんて幻想だ。俺は女子大生じゃないんだ、それだけじゃ腹なんて膨れない。ご飯、とにかくご飯。もしくはそれに準ずるもの。要は炭水化物以外ご飯とは認めねぇ!


「できるだけやってみます……というか調理できないのに何故食材だけを買い込んでしまったのですか!?」

「おいしそうだったから」

「……はぁ……せめて火さえあれば何とかできそうなんですけど……」


 何だ火があれば何とかできるのか。


「あ、ムセンちゃん。それならあたしが出せるよー」

「え?」

「家にいた時色々取らされたんだー、【属性技術(まほう)検定】。使った事あんまないんだけどねー、属性技術【炎】なら二級まで取ったんだよー」


【属性検定【炎】二級技術『何となく火』】

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 ◇MEMO

・身体の内部から【炎】を産み出す技術らしい。属性技術と書いて〈まほう〉と呼んでいるのだとか。

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 シューズの手から魔法のように小さな火が出た。


「わっ!? シューズさんいきなり出さないでください!……でも、凄いです……こんな簡単に炎が出せるなんて……」

「簡単だよー」


 ふむ、属性検定技術とやらを取ると魔法みたいな技術を使えるんだな。便利なものだ、料理のためだし俺も手伝ってやるとしようか。


「イシハラさん? 何をしてるんですか?」

「たとえ火があっても器具がないと調理できないだろう、簡易的なものを俺が造るから料理の準備を進めておいてくれ」

「そんな事ができるのですか? じゃあ……私は食材の用意をしておきます」

「イシハラ、アタシも手伝うなのよ」

「わ、私もお手伝いしますぅ」


 こうして俺達はほのぼのとキャンプを楽しむのであった。その裏では国を揺るがす大事件の火種が着々と燃え始めているのも知らずに。


「なんてな、言ってみたかっただけだ。これは俺の視点による俺の物語、裏でなにか起きているかなんて知る由もない」

「……イシハラさん、一人言ならもう少し声量を落とした方がいいですよ……」


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