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三十一.警備兵試験中 イシハラナツイ


「「「イシハラッ(さん)(君)!!」」」

「「アクア様っ!!」」


 速足で戻った俺と、後ろから妖怪のように走って追いかけてくるだもん騎士をムセン達とモブ兵士と村人達が迎える。


「おいお前っ! 警備兵! アクア様の手を引いてどこかへ消えやがって! どういうつも……っ! おい! 無視するな! どこへ行く!?」

「イ……イシハラさんっ!?」


 今の俺には何も聞こえない。ただ、ご飯。そのために急げ!


「あっ、もしかしてご飯ですか!? はい! イシハラさん! そうかと思って買っておきました! 果実ですよ!?」


 む。ムセンが俺を引き止める、手にはいつの間に買ったのか美味そうな果物を持っていた。

 俺は光速で果物を食べた。


「ひゃんっ!? イシハラさんっ! 指ごと食べないでくださっ……んっ!」

「美味」


 全然足りないが美味に加え、食べたという事実により俺は落ち着いた。


「体調はもういいのか?」

「…………あっ、はい! イシハラさんのおかげですっ! ありがとうございま………………………………………………………」


 ……………? 何だ? ムセンが何か言いかけて急に止まってしまった。

 遂に時を止める能力者がでてきたのか? ファンタジーな世界だからいつそんなやつが現れてもおかしくない。しかし、俺は普通に動いてるしムセン以外のやつらも普通に動いている。ムセンだけが何かを思い出したように止まってしまった。何事だ?


「……………ぅぅぅぅ」


 と思ったら唸り始め、顔を両手で押さえ茹で上がった海老のように真っ赤になった。何なんだこいつ。


「……もしかして……シューズ君……二人の時にムセン君に人工呼吸なるものの話をしてしまいましたか……?」

「え? うん。何でわかるのすだれおじさん?」

「………やはりそうでしたか……」

「いやっ!? あのっ!? 何でもないんですよ!? 蘇生法ですもんね!? 今日はいいお天気ですね!? イシハラさんっ!?」

「晴天なり」

「あはは! もう~イシハラさんてばっ!? 今はお昼ですよっ!?それじゃあもう寝ましょう!?」

「素晴らしい案」

「ムセンが壊れたなのよ!? 何故イシハラはそれに当たり前のように対応してるのよ!?」

「……イシハラ君ですから……それよりムセン君を落ち着かせてあげてくださいぃ」


 辺りはこいつらの愉快なやかましさで一気に騒がしくなった。横ではだもん騎士が何を思ってるのかよくわからない微笑みでそれを見つめていた。


「………」

「アクア様! こいつらの処罰は如何なさいましょう!? いえ、それより魔物の件は……!」

「………ふっ、心配は無用だ。魔物は全て片付けた、この警備兵……イシハラがな」

「!? はい!? ご、ご冗談を……アクア様……」

「村人よ、聞け! 魔物はここにいる警備兵が全て片付けた! 魔王軍の部下もろともに! 彼はこの村の恩人……英雄だ!」

「「!!??」」

「あの勢力に呑み込まれていたら村どころか皆も無事では済まなかっただろう! お前らはその命も彼に救われたのだ! 彼がこの村にいる間、手厚くもてなすように領主から命ずる!」

「アクア様!? 一体どうされてしまったので……!?」

「更に! 警備税を撤廃する! 騎士たる者として……自らの荘園を自ら守るなど当然の事だからな。話は以上だ! 命ある事に感謝し、仕事に励め」


 だもん騎士は演説をしたのちにモブ兵士と共にどこかへ行った。また男言葉を使っていたな。

 まぁいいか、あいつはもうそこらへんにこだわって何かを見失うほど馬鹿じゃないだろう。

 俺達は適当に休んだら村を出るから、もしかしたらもう会う事もないだろうけど、きっとどこかで活躍することだろう。


 だってあいつは騎士、だもんな。


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------------


〈宿屋一階・休憩処〉


「話がある、ナツイ」


 俺達が宿屋の主人の厚意で休憩処で食事をとっていると、だもん騎士がやってきた。せっかくいい感じで出会いの締めをやってやったのに再会が早すぎるだろ。


 とりあえず食事中なので無視した。


「……誰ですか?……それにナツイって……イシハラさんの世界でのファーストネームですよね? いきなりファーストネーム呼びなんて馴れ馴れしくありませんか?」


 するとムセンが代わりに対応してくれた。ふむ、こいつは中々わかってきたな。俺は食事中に邪魔されるのが一番嫌いなんだ。

 二人は初対面だろうがとりあえず任せることにした。


「……ふっ、貴様こそ何者だ? 貴様に用はない、ナツイと二人きりで話をさせろ」

「見ての通り食事中です。それに食事が終わったらもう村を出なければなりません、話なら私が聞きます」

「聞こえなかったか? 貴様に用などない、村を出る前に少しの時間ならあるだろう。私がナツイと二人で話すのに何か不都合でもあるのか?」

「……っ!」


 何言い負けてんだムセンは。俺は食後はくつろぎのまどろみタイムと決めているんだ。だもん騎士と話す時間などない。


「ぅぅ……」

「イ……イシハラはあたしが依頼した警備兵なのよっ! だからイシハラの行動の自由を決める権利はあたしにあるなのよ! ここで話すなのよ!」

「……エミリさん……」


 ムセンがエミリにフォローされている。しょうがないやつだな。


「……そういえば警備兵試験の最中だとか言っていたな……ふっ、一理ある。ならば仕方ない、ここで話すとしよう」


 しかしだもん騎士とは爽やかに別れたと思ったのに何の話があるんだ? 何か話す約束なんかしてたっけ?

 金を貸してくれとかじゃないだろうな?


「ナツイ、貴様には見込みがある。私の下につき、騎士となれ」

「断る」


 ふぅ、食った、満足とても満足。さぁ、食後の一休みだ。部屋に行って休もう。

 俺は階段を軽やかなステップで登り部屋に入った。


「ど、どこへ行く! 待て!」


ガチャッ、バタンッ!


 何かだもん騎士も入ってきた。こいつは俺に何か恨みでもあるのだろうか、何故俺の休息の邪魔をする。


---------------


〈イシハラさん!開けて下さい!〉


 少しの間ののちーー外からムセンの声とやかましく扉を叩く音がする。


「ふふ、無駄よ。施錠技術を使ったもの……さ、さぁナツイ! 私の下について騎士になりなさい!」


 何なんだどいつもこいつも、やかましすぎる。

 俺は全てを無視してふて寝した。


「ちょっと! 寝ないでよ!……さ、誘ってるの!? だめよ! 私たちまだそんな関係じゃないもん!」

〈さ、誘ってる!? 何をしてるんですか! 今すぐ開けて下さい!〉












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