■二十八番外編.女騎士アクア・マリンセイバー ※アクア視点
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◇騎士『アクア・マリンセイバー』視点
私が騎士になりたいと思ったのは十二才の時。私の家は料理店を営んでいて私もこのまま家を継いで料理人になるんだろうなって幼いながらにそう感じていた時期。
両親は古いタイプの人間で、『女は家庭を守るべき』って幼い私にずっと言っていた。だから両親は私にずっと料理を教えてくれた。
別にそれが嫌ってわけじゃなかったんだけど……多感な時期で反抗期でもあったせいなのかわからないけど……ただ女性ってだけで、生き方を決められるのには無性にイライラした。
けど……別の生き方なんて知らないし、夢もなかった私には……自分のその人生から抗うキッカケが見つからなかった。
だから、両親から言われるがまま……女としての幸せな生き方を身につけていた。
そんな私に転機が訪れたのは、そう、まさにそんな十二才の時。
うちの料理店に来ていた山賊の一味が料金を踏み倒そうと店で暴れだしたんだ。料理長だったお父さんもウェイターだったお母さんもそれを止めようとして、怪我をして、血まみれだった。
幼かった私にトラウマを植えつけそうなそんな光景から救ってくれたのが……当時、王国騎士序列1位の女騎士【ジャンヌ・シャインセイバー】様。
彼女はちょうどたまたま店に訪れて、息をするかのように山賊達を蹴散らして、お父さんとお母さんに回復技術を使って全快させて、料理を美味しいと言っていっぱい食べて、自分の分と山賊達の飲み食いした料金の分までお金を置いて帰っていった。
たったそれだけ。でも、それだけで充分すぎるほど。
私が騎士を目指す理由になるには充分すぎる出来事だった。
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両親の反対を押し切って、私は騎士を目指した。古い考えだった両親ではあったけど、山賊の一件でジャンヌ様に救われてからは騎士を目指す事について強くは言えなかったようだ。
私は今までしてこなかった、考えもしなかった、戦闘の修行を死ぬくらいにやった。あの人みたいに強くなりたくて。
騎士に必要な色々な資格や検定を取るために寝る間も惜しんで勉強もした。あの人みたいに、誰かを守りたくて。
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それから四年。
数々の属性検定や資格技術を取得した私は満を持して、『騎士試験』に挑んだ。自信はあった、魔王時代だった事もあって色々な種族の魔物も討伐した。一人で倒せるようにもなった。
あの人にはまだまだ全然届かないけど、今じゃ山賊だって一人で蹴散らせるようになった。もう、私はただの女の子じゃないんだから。
そんな気持ちで挑んだ騎士試験の結果は、不合格だった。
理由は、『女』だから。
騎士の採用には騎士の【適職】の才以上の持ち主ではないと駄目だと言われた。女で騎士の【適職】の持ち主は極稀であるらしい。
修練を積めば、男性ならば後天的に騎士適性が発現する事もあるらしいが……女性がいくら鍛えても…後天的に騎士適性が発現する事はほぼ皆無だと、知らされた。根本的な体の作りや戦闘センスが男と女ではまるで違う、と。
ジャンヌ様は生まれつき……騎士の【天職】の持ち主だったらしく……だから女性騎士になれたのだった。当時、女性騎士は世界中でも指で数える程しかいなかった。
騎士は技術もさる事ながら……『力』……純粋なる腕力、体力も兼ね備えていなければならない、と。それが、男と女ではまるで違う、と。
失意の中、試験官が放った言葉は、慰めであったのか、嘲笑であったのかわからない。だけどそれは今でも私の中に……傷として残っている。
『戦場に出るのは男の仕事、女は家を守っていればいい』
私は悔しくて、一晩中泣き腫らした。
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それでも私は諦めきれなかった。
それから私は、自分でもおかしくなる程……狂気に染まる程、それまでしてきた修練が子供のお遊びかと思えるくらい鍛練に励んだ。
何回も死にかけた。
その甲斐あってか……決死で挑んだ二年後の騎士試験。見事に合格をして、騎士見習いになる事ができた。
私は歓喜した。ようやく、女性としての私が認められたんだと。ようやく、あの人の足元に追いつく事ができたんだ、と。
その時はそう思った。
けど、それは私の勘違いだった。
私が受けた騎士試験は前回よりも、今までのどの騎士試験よりも……基準が甘かったと、後で知らされた。
理由は、新たな魔王の誕生と……騎士や兵士の人材不足。
そう、私は……お情けで、人手が足りないから騎士になれたんだ。
まるで……猫の手でも借りるように。ある程度の基準値があれば女性だろうと騎士になれる時代がやってきたからだったんだ。
私には、相変わらず、騎士の才能は発現していなかった。
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「………それからも私は言われ続けた、『女にしては強い方だ』『適性がない割には頑張っている』『しかしやはり戦場には出せない、敵に捕らえられ慰み者にされれば機密情報を簡単に渡す恐れがある、女だから』とかね」
「………」
「だから私は心を押し殺すしかなかった、恐れを与え、慈悲をなくし、『冷笑騎士』なんて呼ばれる程、冷たく演技もした。そうすれば……男だ女だなんて言っている連中を黙らせる事ができるんじゃないかって」
「………」
「もちろん鍛練も欠かさなかった、そうして私は序列12位まで登り詰めた……あなたは馬鹿にするだろうけど……そうした結果が今のこの私なの、それを笑うのは許さない」
「………」
「……けど……私のこの演技を直ぐに見抜いたのはあなたが初めてよ。騎士になってこの演技を始めてから……皆私から遠ざかるか、怖がるか、変に信奉するかだけだったもん。だから話したの、わかったら手を離して」
「………………」
「ZZZZZZ」
「って何寝てるのよ!? 私の手を引いて走りながら何て器用な事してるのあなた!」
「zzz話終わったか?」
「っ! ええ! 終わったわよ! つまらない話で悪かったな! やはり話すのではなかった!」
「落ち着け、男言葉とごっちゃになってるぞ」
「貴様のせいでしょ!」
「あまりにも阿呆らしくて聞いてられなかった、お前、今のその姿を自分に見せられるのか?」
「……っ?! はぁ!? 意味がわからないわよっ!」
「かつて助けられた自分はお前みたいな騎士に救われたのか、と聞いてるんだ」
「!!」
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「……あ、あの……ありがとうございましたっ! あの……貴女は……」
「ふふ、気にする事ないわよ。弱き民を助けるのが私の使命だもの。私は騎士【ジャンヌ・シャインセイバー】よ。可愛いお嬢さん、料理、頂けるかしら?」
「は、はいっ!」
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「目的と手段が入れ替わってるんだよお前は。『守る』っていうのは命だけを指すものじゃないぞ」
………………そうだった。
私は………認められたくて……騎士になったんじゃない。女でも騎士になれるって、立派にやれるんだって認めさせたくて……騎士になったんじゃない。
ただ、あの人みたいに誰かを守りたくて。弱い人を助けたくて。そう思って、騎士を目指したんだ。
そして『あの人』ーー【ジャンヌ】様は私をただ守っただけじゃない。
その後もずっと私の事を気にかけてくれた、私に安心を与えてくれた。こんな強い騎士がいるこの国を誇りに思った。
かつてジャンヌ様に助けられた私は、今の私に助けられていたら騎士を目指していただろうか?
……きっと無理ね、こんな冷たい眼をした騎士に人々を『守る』ことなんかできやしない。
私はこれまで、騎士として、ただ『命』を守っていただけだ。
人々に【寄り添うこと】【安心を与えること】、それこそが『守る』ということ。
それこそが、私の目指した騎士だったのに。
なんでそんな当たり前の事を………ずっと忘れてたんだろう私は………
「………私は…………何をしてたんだろ……守るべき民を怖がらせて……周りを見下して……あの人は…ジャンヌ様は……絶対そんな事しなかったのに……私は……」
「別に今からでも遅くないだろ、気づいたんなら『今』お前は何をする?」
そう。男だったらとか、女だとか、そんな事関係ないんだ。今、魔物は村を襲撃しようとしていて、今、村人は居場所をなくそうとしている。
この村は私の領地、村人達はあの日の私。そして今の私は……あの時の……ジャンヌ様と同じなんだ。弱き民を助ける、騎士なんだ。
だったら、今から私は……。
「……もちろん、民と、民の居場所を守り抜くわ。だって私は……『騎士』なんだから! 手伝って! 警備兵!」
「警備兵志望だ、わかった。面倒だが手伝おう、笑った詫びだ」
「……え?」
「お前は勘違いしている、お前が十二位まで上がれたのはただお前が努力した結果だ。男みたいな振る舞いだとかは全く関係ない、お前が頑張ったから、それだけだ」
「……っ」
「悪かったな、十二位を馬鹿にして。凄いなお前、良く頑張ったな」
……っ! 何なのこの人……このタイミングで……泣いちゃうじゃないっ……。
不思議な人……すぐに私の演技を見抜いちゃうし……この人の前だと素直に女としての自分が出せちゃう……何でだろ?
「そーいうやつは好きだ」
~~~~っ!!?
すっ……好きって!? 何っ!? 急に!?
い、今まで騎士になるためにとか……認められるためとか……そーいう事しか考えてこなかったから……っ、恋愛なんてしたことないからっ、わからないんだけど……こ、これって告白ってこと!?
もう男だとか女だとか……気にしないようにしようって思ったばっかりなのに! これじゃあ女として生きるしかないじゃない!
ど、どうしよう……告白ってどう返事したら……!
「だからお前を十二位騎士と呼ぶのはもう止めよう。お前はこれから『だもん』騎士だ。リアルにだもんなんて使う女初めて見た。よろしくな『だもん』騎士」
私は恥ずかしさで顔が真っ赤になった。