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二十七.だもん



 漫画特有の怒りの擬音が聞こえてきそうなくらい12位騎士は怒り顔をしていた。


 ちょっと本音を笑って口にしたくらいで短気なやつだなこいつ。だったらこっちにも偉そうにしなきゃいいのに。イキり散らしていいのはイキり散らされる覚悟のあるやつだけだ。


「……ふっ、ふふふふっ……貴様……今、何と口にした? 何故笑った?」


 しかしこれ程怒るってことはやっぱり気にしてるんだな、12位を。


「お、おい! お前っ! アクア様の気になさっている事を! 一体何者だ不届き者がっ!」


 横にいた連れのモブ兵士が俺の胸ぐらを掴んだ。


「ああ、俺は警備兵志望のイシハラだ。よろしく」


 とりあえず自己紹介をした。


「…………け、警備兵………?………はっ……ははははっ! そうかっ! お前例の異界人か! 身の程知らずとはまさにこの事だ!」

「まったくだ、勇者様達から聞いたとおりだな。随分なめた態度の反抗者らしい」


 なんだ、俺の事を知っていたのか。だったら自己紹介するんじゃなかった、エネルギーの無駄遣いだ。


「無知なる異界人ならば仕方あるまい。教えておいてやろう、このお方は王国騎士団の【アクア・マリンセイバー】様。そして、この村の領主も任されている。警備兵ごときが反抗していい相手ではない、わかったのなら今すぐ非礼を詫びて頭を下げろ。今から寛大な心で許して頂けるだろう」

「そうだ、本来ならば即刻処刑であるがアクア様はとても優しいお方だ。詫びさえすれば例え罪人であろうが温情の心を与えてくださるんだ、幸運だったな警備兵。さぁ、地に頭をつけろ」


 なんかモブ兵士二人がごちゃごちゃ言っている。滅茶苦茶な話になってるな、俺達は罪人じゃない。故に頭を下げる必要もない。

 十二位騎士は偉そうにどや顔しながら、俺が頭を下げるのを待っているようだ。


「断る、俺達は罪人じゃないし。他に用がないなら俺達はもう行くぞ」


 俺は十二位騎士達を無視して買い出しに行く事にした。


「ちょっ! 待ってなのよ! イシハラっ!」

「ィ、イシハラ君っ! 置いていかないでくださぃぃ~」


 エミリとスズキさんもとことこついてきた。十二位騎士達は呆然といった感じでこちらを見ていたが特に何もしてこなかった。


「な、何てやつだ! 無礼にも程があるぞ!」

「ア、アクア様! い、いいのですか!? 行かせてしまって!」

「……………ふっ、ふふふふっ」


 遠くなっても聞こえるくらいに騒いでいる、迷惑な奴等だ。


----------------------------


〈道具屋・『ハッピーサマー』〉


 俺達は村にあった道具屋に来た。

 何か草とか薬とか色々売っている、地球では売り物に見えないようなものも売っていて見ていて飽きないな。この草なんか雑草にしか見えないが、『体力を回復します』とか紙に書いてある。いわゆる薬草か、RPGっぽくて楽しい。


「………イシハラ……さっきのはまずいなのよ……今すぐ謝ってきた方が良いのよ……」

「何がだ?」

「さっきの騎士なのよ……王国騎士はみんなじゃないけど……横柄なやつが多いのよ……ほぼ全員が騎士の【適職】か【天職】の才を持ってて…だからエリート意識……ていうのか……自尊心の塊みたいなやつらだらけなのよ……」


 まぁそれは召喚された時に見てきたからわかる。この国は王が甘いせいか勇者どころか騎士や兵士までもが我が儘放題に育っているようだ。今は魔王とやらとの戦争中で国のために騎士達が必要なのはわかるが質や性格も考慮しないと。

 そうなると上に立つ者が優しいってのも考えものだな。


「だから何だ? 別に何も悪い事なんかしてないのに謝る必要なんかない。俺は悪くもないのに謝るのが一番嫌いなんだ」

「けどっ……なのよ……それでこの村の人達が八つ当たりみたいな事をされたらどうするなのよっ!?」

「そんな事知るか。だとしたら八つ当たりなんかする騎士が悪い。故に俺には何も関係ない」

「……っ!」

「ま……まぁまぁ……イシハラ君もエミリ君もその辺で……」

「……みんなが……あんたみたいに……のうのうと……マイペースに……強く生きられるわけじゃないなのよ……とばっちりを食らうあたし達みたいな……弱者はどうすればいいなのよ……」

「強く生きるようにすればいいだけだろ、力がなくても、金がなくても、心はみんな持ってるんだ」

「……? 心……? 意味が……わからないなのよ……」

「わからないならいい。説明がめんどい。それにあの騎士なら大丈夫だろ」

「……? イシハラ君、それは一体どういう……」


 話をしていると店の扉が壁に叩きつけられたような音がした。見てみるとさっきの村人Aが何か血相を変えて店に飛び込んできていた。


「おい! 店主逃げろ! 魔物達が村に攻めこんでくる!」


 魔物達?


「あ! おいアンタ! 一体領主様に何を言ったんだ!? アンタのせいで兵士達が村を守らないとか言ってるんだぞ!?」


 なんか村人Aが俺に向かって言ってきた。何だこいつ、何で俺のせいになる。


「ひぇぇ……ま、魔物!? ど、どうしましょう!? イシハラ君!」

「スズキさん、エミリとムセンとシューズを連れて村人を避難させといてくださいな」

「イ……イシハラはどうするなのよ!?」


「決まってるだろう、村を警備するだけだ。面倒だけど」


----------------------------


 俺は店の外に出て轟音がするほうへ歩いていく。

 なるほど、これは確かに魔物が攻めいってきてるな。まだ遠目だけど平原の地平線には狼とかスライムとかでかい蜂とかがずらっと並び、土煙を立てながらこちらへ向かってきている。

 魔物って意思を持ってるんだっけ? 明らかに別種族の魔物達が示し合わせたように行動するのも変だな。たぶんだけど誰かが操ってるんだろう。噂の魔王軍とかそんなやつらかな? まぁ、どうでもいい。


 俺は十二位騎士を探す。


 何か騒がしかったから騎士達はすぐに見つかった。十二位騎士と取り巻き兵士は村人達に囲まれ抗議を受けていた。


「ど、どういう事ですか領主様っ! 警備税だって払っているのですよ!? この村を見捨てるおつもりなんですか!?」

「聞いての通りだ! 馬鹿な警備兵のせいで領主様は気分を害された! それに魔物の数が多い! 現在の兵力では無駄に消耗するだけだ! よって戦線を後退させ、城下町からの支援兵と合流しミドリ平原中腹にて魔物達を迎え討つ!」

「そ……そんな……村は……俺達の村はどうなるんですか!?」

「そんな事は知らん。これは領主様の命だ、税収の低いこの村と領主様の命など較べるべくもない。そんなに村が大事なら自分達で守ればいいだろう。それが嫌なら避難する事だな」

「そ……そんな…………」

「…………ふっ」


 なんか無茶苦茶言ってるな。(くだん)の十二位騎士も中央で偉そうに突っ立っている。

 まぁどうでもいい、俺は村人の集まりに割り込みーー


「!? あっ……」

「ついてこい」


 ーー十二位騎士の手を引いて魔物達の群れへと向かった。


「!? お、お前!! 警備兵! 何をしている!? 領主様をどこへ連れてっ……!?」

「おい! 兵隊さんよ! 話は終わってないぞ! だったら警備税とかいうのを返せ!」

「ちぃっ! 邪魔だ! 通せ!」


 モブ兵士二名は村人達に囲まれて身動きが取れなさそうだ。

 まぁそんな事はどうでもいい、俺は十二位の手を取りながら魔物の群れの方角へ向かう。


「……ふっ、おい貴様。何をしている? 何の真似だ?」

「騎士は民を守るもんだろう、仕事しろ」

「………ふっ、聞いていただろう。戦線を下げると、あの数では悪戯に体力を消耗するだけだ。この村にそれをするまでの価値はない、だったら……」

「面倒くさいやつだな、いいから『本音』で話せ」

「…………………ふっ、何を言っている?」

「それはお前の取り巻きの兵士が勝手にお前の代弁をしたつもりで決めた事だろ? お前の意思で話せ」

「!!」

「何で騎士のくせに自分の意見を隠して周囲の言いなりになってるんだ? お前の方が偉いんだから堂々としてればいいだろ」


 そう、さっき話してみてわかった。こいつはクズのふりをしているだけだ、クズになりきれていない。どういう理由かまでは知らないしどうでもいい事だが。


「………………………………ふっ……何を知った風な口を………」

「だからその演技が面倒だと言っている。いい加減にしろ、お前が何故そんな事をしているかなんてどうでもいいんだ。守る気が本当にないんなら村人達を魔物の群れに放り込むぞ? 別に村人の命なんてどうでもいいんだったら構わないよな?」

「……………っ」


 わざと威圧的になり、堅苦しい言葉遣いで話し、冷徹な騎士を演じている。職業差別をして周囲を見下しているのも周りの入れ知恵だろう。肝心の本人はそれを本当は嫌がっているが、積極的には否定しない。

 そこがよくわからん。


「………………………………」


 十二位騎士は俺に手を引かれながら黙りこむ。何か考えているようだが、その心の内はわからない。


「……………………………………………………………………だって」


 やがて、長い間を置いてぼそりと十二位騎士は口を開く。


 そして、顔をうつむかせて走りながら十二位騎士はそのキャラには似合わない言葉遣いで声を荒げて言った。


「だって! こうしないと……女の子の騎士なんて認めてもらえないんだもんっ!」


 だもん。
















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