二十二.夕暮れの決意
追い出されるようにレストランを後にした俺達はスズキさんの提案で門の外の景色が展望できる高台区画にある緑に囲まれた広場のベンチに腰かけ一休みした。
ほほぅ、手入れされた草木をそそぐ風が爽やかだ。もうじきに夜が来る事をここから見渡せる地平線が物語る。普段はここでガキ達がきっと遊んでいるのだろう。綺麗な公園、というよりかは庭園って感じがする。
そろそろ日も沈むであろう今は俺達以外に誰もいなく、そそぐ風に揺れる緑達の独奏が辺りに響いている。さすがスズキさんだな、街のいいスポットをよく知っている。
「…………………」
ムセンはレストランを出てからずっと黙りっぱなしだ。一人でベンチに腰かけうつむいている。スズキさんもあのシューズさえもムセンのその雰囲気を察してか夕暮れの景色に目を移し黙り込む。そうして数分経ったところ、うつむきながらムセンが言葉を発した。
「…………私、ダメですね……変わろうとしていたのに……あの人達に何も言えませんでした……」
「………そんな……私だって……勇者様達に気圧されて……何も言えていませんよ……ムセン君が落ち込む事は……」
「……いえ、スズさんとシューズさんは私達に巻き込まれただけです。私達があの人達に目をつけられているから……本当にごめんなさい……」
「ムセンちゃんが謝る事ないよー」
「そ、そうですぅ、ムセン君は何も悪くありません!」
「……私、この世界の事を何も知ろうとしていませんでした……勇者という職業も……それに魔王という脅威が皆の安寧を脅かしている事も……異界から来た私には関係ないと……でも……この世界の方々は懸命に生きていて……勇者という職業にすがるしかなくて……それを考えたら何も言えなくて……………すみません、何が言いたいのかわからなくなってしまいましたが………でも……私……悔しくて……」
「………ムセン君……」
ムセンはそう言って益々(ますます)落ち込んでいった。スズキさんもシューズもそれを見てかける言葉を失っている。
「……すみません……嫌な事に巻き込んだ上……気まで使わせてしまって……本当……私……」
そんなムセンの頭に俺は手を乗せた。
そしてムセンの頭に髪飾りをつける。ムセンは何故か召喚された時から頭には何もつけていなかった。身体はパイロットスーツに包まれているにも関わらず、だ。
それが凄く気になっていた。
「……え? えっ!?」
普通SFのパイロット少女なら何かよくわからん3角形の髪止めみたいなのをつけたり電子的なヘッドホンをつけてたりするだろう。俺の勝手なイメージだけど。
「こ……これ……どうしたんですか……? イシハラさん……何故私に?」
「古着屋に置いてあったからついでに買った、安心しろ。安物で銅貨一枚もしなかったからちゃんと俺の金で払ったぞ」
鉄製の盾を模した髪飾り。一番三角形ぽかったからこれにした。
ふぅ、ようやくムセンが本物のSFパイロット少女っぽくなった。ずっと頭に何かが足りないような気がしてイライラしてたが、これで満足。まさに宇宙を駆けるスペースパイロット少女だ。
「………………ふふっ、デザインも何もかもまるで女の子にプレゼントするような代物ではないんですね、全くイシハラさんはもう少し女心をわかってあげた方がいいですよ、えへ、えへへへ……でも、ありがとうございます。えへへへ……」
なんかニヤニヤしながら全否定された、何だこいつ。
「イシハラ君、ムセン君はとても喜んでいるだけですよ。怒らないであげてくださいね」
スズキさんが俺に耳打ちした。何だこれで喜んでいるのか、何て感情表現が下手なやつだ。
「………本当に……イシハラさんは凄いですね。全く意図せず……色々な人の心を動かしてしまいます……私はきっと…あなたみたいになりたいんだと思います。でも、……絶対にあなたみたいにはなれないから……きっとそれで……」
「馬鹿かお前、俺みたいになってどうする」
「だってあなたは……あの人達に何を言われても全く動じたりしません、それどころか……やろうと思えばあの人達を黙らせる事も簡単にできたはずです。……本当に強い人の在り方です」
本当にこいつには呆れさせられるな。何回同じ事を言わせるつもりだ。
「俺は強くない」
「そんなわけないじゃないですか……異界に来ても動じる事なく自分の思うがまま突き進んで……今日だって武器の審査で全ての武器に適性があったんですから」
それはきっと何かの間違いだろう、俺自身がしっくりきていないのに適性のわけがない。まぁ、今は武器の事はどうでもいい。
「ムセン、試験で判ったがお前の方が遥かに強い」
「……そんなわけありませんよ……私はイシハラさんみたいに何でもできるわけじゃないんですから」
「俺は何でもできるわけじゃない。できる事をやってできない事は面倒だからやらないだけだ。だからお前の方が強い」
「………? すみません……よくわからないんですが……」
「俺の『強さ』の定義は『できない事をできるようにしたい』ともがく事だ、結果に関係なく。それは俺にはできない、だって面倒だから」
「……え?」
俺はきっと、この世界の魔王をこれから先も倒さない。たとえそれで結果世界が滅びる事になっても、だって面倒だから。
俺が魔王に通用する資格や技術や力やチートをもっていたとしても。何故なら俺はだらだらと日銭を稼いでだらだらと過ごしたいから。
「だが、お前はきっとこれから先も自分のできない事の壁にぶち当たってはそれを乗り越えようとするだろう。越えられる越えられないに関係なく、そう思う事自体が俺の思う『強さ』だ。俺は楽な壁のない道しか歩かない、ただそれだけだ」
「……壁を越えられるか越えられないかじゃなく……乗り越えようと……そう思う事自体が……『強さ』」
「だから何を落ち込んでるのかよくわからん、お前の言う強さってのはよくわからんが……そうなりたいんなら。今までと同じように今までやってきたように、そうなれるようまた進めばいいだけだろう」
「!!」
こいつは前から私には出来ないとか何だとか言っていたが。俺についてきて試験を通過したり回復魔法を覚えたり確実に壁を乗り越えている。
たとえ、仮にそれらができていなかったとしても。ついてこようと必死になって自分の適性ではない道を進んできた。
それは、俺にはできない確実な『強さ』だ。
「だから落ち込んでる暇があったら前へ進め、進もうとしろ。今までずっとそうしてきてただろう」
「………………………………そう、でしたね。あなたはずっと、そうすればいいじゃんって言ってくれていましたね。……『考えたって無駄な事が世の中にはある、その分前へ進んだ方がマシだ』って」
誰が言ったか知らないがいい言葉だな。
「………私、警備兵になりたいです。なります。今まではイシハラさんについていくだけでしたが……強くなって、魔王という脅威に怯える人達を……勇者という威光にすがるしかない人達を守りたいです。警備とは……そんなお仕事なんですもんね」
まぁ、こんな世界だ。地球の警備員とは違う。勇者の手の届かない人間達を警備する、そんな仕事もきっとあるだろう。
「そしていつか……あの人達の鼻を明かしてやります。絶対!」
ムセンは決意したような顔で沈みかける夕陽を真っ直ぐに視界に捉えた。こいつ、弱気で大人しい感じかと思っていたが意外と強気で負けず嫌いだな。
そうだ、こいつは最初からそうだったな。
「ぅう……良かったですぅ……うぅ……」
「なんですだれおじさんが泣いてるのー?」
「イシハラ君とムセン君の言葉に感動致しまして……私も……ただ職に就く事だけに焦って……仕事内容など二の次でしたが……ちゃんと、警備という職に向き合わなくてはいけませんね!」
「うーん、アタシはそーゆーのわかんないけどー……でもアタシの直感は正しかったよ。イシハラ君が警備やるっていうなら……アタシはずっとついていくよー」
「イシハラさん、これからも……私と一緒にいて……色々と教えてください! 私もイシハラさんの力になれるよう……もっと強くなりますから!」
「断る」
「えぇっ!?」
何を勝手にいい話風にして最終回っぽく締めようとしてるんだ。俺はまだまだやる事があるんだ、第一まだ職にもついてない。それにもう眠い、話はまた今度だ。
「………はぁ……全くあなたという人は……せっかく決意したんですから最後までビシッと決めてくださいよー……」
ムセンが何か言っていたが眠くなった俺はそれを無視して疲れないように尚且つ早く帰れるように競歩で帰った。
「ちょっ!? 帰るんですか!? 待ってください! 歩くの速すぎますってば! どうしてご飯と寝たい時だけそんな急ぐんですか……待ってくださいー! ぐすっ……」
「待ってよーイシハラ君ー、一緒に寝よー」
「待ってくださいぃー、皆さん速いですぅ……ひぃひぃ……」




