二十一.山賊勇者
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『前回のあらすじ』
飯食ってたら山賊の一味にからまれた、終わり。
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周りで静かに飯を食っていた客達もこの騒動に騒ぎ出した。全く、マナーの無い山賊だ、いや、マナーという概念が屋根まで飛んで弾けて消えているやつらを山賊というのか?
「な、何をするんですか!! あなたたちは常識というものが無いんですか!?」
「あんだぁ? またアタシらに喧嘩売ってんのかブス! ゴミどもが目に映ると不愉快なんだよん!」
ムセンが山賊に喰ってかかる。何かこのやり取りに既視感があるな、デジャブというやつか。
「ねぇねぇイシハラ君、この人達知り合い?」
「知らん、たぶん山賊だろう。ここにいるブスの顔面が物語っている」
「あー、本当だぁ。山賊っぽい顔してるねー」
「あぁん!? 誰なのんこのガキ!? またブスがいるのん!?」
「あたしはシューズだよー、よろしくねー山賊さん」
「誰が山賊だ!? このガキッ……」
「ちょちょちょ! ストップストップ! リィラさん落ち着いてくださいよ!」
シューズとブスのやり取りをなんかチャラ男っぽいやつが止めた。
なんだこいつ、チャラ男の侍? なんか既視感がある。チャラ男侍は俺に肩組みしてひそひそ話しかけてきた。
「なぁ、同じ異界召喚されたよしみで言うけどあんまこの人達と問題起こすなって。マジでこの人達に逆らうとヤベーんだって」
「いや、誰だよお前」
「俺だよ! お前らと一緒に召喚されたじゃねーか! リュウジンだよ!ほら!」
「………………………………………あぁ、お前か、何年ぶりだ?」
「2.3日前ぶりだよ! 本当お前変なやつだな!」
そういえば俺とムセンと一緒に召喚されたやつがいたな。チャラ男侍のリュウジン。と、いう事はそっちにいる山賊はあの勇者一味か。
勇者がいる事は覚えてたが顔がすっぽり抜け落ちてた。
「なぁ、俺はお前の事面白れーやつだから気に入ってんだって。だから勇者一行……って俺もだけどさー、喧嘩すんなよ。なはは、いやー俺だけこんな待遇されて申し訳ねーからさーなはは」
なんだ、すっかり異界には慣れたようだな。こいつに至っては存在すら忘れてたからどうでもいいが。
「警備兵が俺のお気に入りの店使ってんじゃねえよ、おい店主、こいつら金だけ貰ってとっとと追っ払え」
山賊勇者が店主に向かって言った。騒ぎを聞いて店の奥から出てきた店主が困り顔をしている。
「い、いえ、あの……お客様はお客様ですから……お金を払って頂く以上……」
「あ? おい、俺は『勇者』だぞ? 俺の言う事が聞けねーなら魔王討伐をこの店のせいで諦めたって構わないんだぜ?」
「そ……そんな……」
なんか無茶苦茶言ってるな。今更だがこいつ本当に勇者か? どう考えても勇者って性格してないけど何でこいつが勇者って事にされてるんだ?
「こ……この勇者様は以前……魔王を倒した勇者様の御子息なんですよ……それから前勇者様の没後……新たに誕生した魔王討伐に向け職業検査を行ったところ……この御子息様が『勇者の天職』だという事が判明したのですぅ……ですから魔王討伐を掲げるこの情勢では誰も勇者様に逆らえないんです……」
スズキさんが小声で俺に言った。
なるほどねぇ七光りか、だからこんな我が儘放題になってるわけだ。
「別にそんなにしてまで勇者にすがらなくても自分らで魔王とかどうにかすればいいだけだろうに」
「そ……それは……」
「はははっ! やってみろよ! 俺以外に魔王を倒せるやつがいるならな! 俺の親父も天職の勇者だったが魔王はそれでも苦戦するほどの次元の違う強さだったんだ! だが、天職の才の勇者だったからこそ喰らいつく事ができて倒す事ができた! 天職の才を持った大技術導士すら魔王には歯が立たなかったんだ! 天職の勇者以外に倒せるやつがいるかよ!」
ほぉん、魔王ってのはそんな強いのか。大変だなぁこの世界も、まぁ俺には関係ない。
勇者の言葉に呼応するかのように、周囲の客達も騒ぎ出す。
「そ、そうだ……勇者様に逆らってこの国が滅びたらどう責任とるつもりだ! 出ていけ!」
「そうよ! 警備兵! あんた達なんかいてもいなくても一緒なんだから……勇者様の機嫌を損ねないで!」
〈そうだ! 出ていけ!〉
〈勇者様に逆らうな!〉
〈〈〈出ーていけ! 出ーていけっ! 出ーていけ! 出ーてけっ!〉〉〉
静観していた周りの客が一斉にコールし始める。おお、大歓声だな。パーティーでも始めるか、俺はパーティー嫌いだから帰るけど。
「………イシハラさん、皆さん。もう行きましょう、気分悪いです」
ムセンが怒り顔で立ち上がる。まぁ満腹になったしもう用はないしな、望み通り出てってやるとしよう。
「なぁなぁそこの君」
「んー? アタシ?」
勇者が何故かシューズに声をかけた、知り合いか?
「こんなやつらと一緒にいないで俺達と一緒に呑まないか? 結構タイプだから俺の相手してくれりゃ勇者一行に加えさせてやってもいいぜ?」
「勇者様、その娘……セーフ家の元、三女ですわよ? あの問題児として勘当されたっていう、ね」
勇者の仲間の魔法使いっぽい女はどうやらシューズの事を知ってるらしい。
「関係ねぇよ、顔さえ良けりゃあ。なぁどうだ? まぁ勿論俺達と一緒になるからには役に立ってもらうけどな、その身体で……でもいいからさ」
勇者はシューズの事を舐めるような目で見ている。気持ち悪いやつだな、キモいじゃなくて気持ち悪い。
「うーん、やめとくよー。だってあなたに全然ピンと来ないもん、それにアタシもうこの人と結婚するからダメだよー」
シューズがわけわかんない事を勇者に言って俺に絡まってくる。何決定事項みたいに言ってるんだこいつ、俺はまだ決めていない。
「…………はっ! 流石警備兵の連れだ、底辺には底辺がお似合いって事だな! 馬鹿な選択したな! とっとと目の前から消えろ!」
「そうなのんブス共! 次会ったら街から追い出してやるから覚悟しとくがいいのん!」
「うふふ……ごめんなさいねぇ、そういう事だから。じゃあ、ね」
「あ~あ、だから言ったのによ。まぁしゃあねぇか、じゃあなお前ら。せいぜい達者で暮らせよ」
〈〈〈出ーていけっ! 出ーていけっ!〉〉〉
「……っ!」
「…………」
「んー、なんかやだなぁ…」
三人はいたたまれない顔をしている、まぁ仕方ない。この世界がこいつらを、というか勇者を信奉してる以上他に選択肢はないだろう。
さっさと帰って寝るとしよう。